吉田洋一郎コーチによる最新ゴルフレッスン番外編。今回は長尺パターで奇跡の復活を果たした、ルーカス・グローバーに学ぶパッティング術。
シード喪失の危機からの復活劇
絶体絶命のピンチから奇跡の快進撃というのは、スポーツ漫画でよくあるストーリーだが、2023年のPGAツアーでは、そんな漫画のような復活劇を見せてくれた選手がいた。
そのストーリーの主人公は、かつて全米オープンを制したこともある44歳のルーカス・グローバーだ。
グローバーは2001年にプロ転向した後、2005年のフナイクラシックで米ツアー初優勝を果たした。2009年には全米オープンでメジャー制覇を達成したが、左ひざの故障の影響で2012年から成績が低迷して2015年にはシード権を失う経験もした。
2018年に再びPGAツアーの出場権を確保した後は、2021年にジョンディアクラシックで10年ぶりに4勝目を挙げたが、そのほかは目立った活躍がなかった。
2023年前半はパッティングの不調で6月のトラベラーズ選手権までトップ10フィニッシュはなく、フェデックスカップポイントランクは100位台後半となっており、シード権獲得が厳しい状況だった。
ところが、その頃から長尺パターを使い始めたことで、成績が一気に上向く。7月のロケットモーゲージクラシックで4位に入ると、その後2試合連続でトップ10入り。
そして、8月のレギュラーシーズン最終戦、ウィンダム選手権では通算20アンダーで2位に2打差をつけて優勝を果たすと、フェデックスカップランキングは112位から49位へと躍進。
土壇場で70位以内に与えられるプレーオフ初戦の出場権をつかんだ。
さらに、グローバーの快進撃は続き、プレーオフ初戦のフェデックスセントジュード選手権では、パトリック・キャントレーをプレーオフで破り2週連続で優勝し、ランキングは4位にまで上昇した。
2ヵ月前にはシード権喪失の危機だった選手が、30人しか出場できないエリートフィールドのプレーオフ最終戦に進出するというミラクルを起こした。
残念ながら、プレーオフ最終戦のツアー選手権では優勝争いに絡めず、最終的なフェデックスランクは19位に終わったが、中年の星として大いにファンを喜ばせた。
「今までとは別のことを」と長尺パターを採用
グローバーはイップスの影響もあり、ショートパットに苦しんできた。
今までは標準的な長さのパターを使っていたが、現状を変えるために何か別のことをしなければならないと考え、周囲のアドバイスもあり長尺パターを取り入れたのだという。
プロゴルファーにとって、自分のスタイルへのこだわりや、信じてきたことを貫く姿勢は重要だ。
しかし、度が過ぎると自分を変えることができず、不調から抜け出せなくなってしまう。今回のグローバーの快進撃は、自分のこだわりやスタイルを捨てる潔さが結果につながった例と言えるだろう。
人によっては、見た目がカッコいいとはいえない長尺パターを使うことにプライドが邪魔をするかもしれない。そして、実際に使いこなすまでには時間もかかるため、クラブを変える勇気も必要だ。
しかし、些末なことに囚われず、勝利や結果を優先したグローバーの決断は賞賛に値する。
不惑を迎えても自らを変革し、劇的な復活劇を見せることで、勇気づけられたファンは多いだろう。グローバーのようにプレーだけではなく、物事に取り組む姿勢を伝えることもアスリートとしての役割ではないだろうか。
ストロークのイメージをつかみやすい長尺パター
長尺パターは、グリップエンドを胸に押し当てることで安定したパッティングができるため、一時期はツアーで流行した。ところが、体の一部を支点にするアンカリングが禁止されたことで、グリップを胸に押し当てることができなくなり、やや下火となってしまった。
しかし、長尺には振り子運動が行いやすいというメリットがあり、スムーズなヘッドの動きやストローク軌道を身につけるには最適だ。普段は長尺パターを使わない人も、練習に取り入れてみるといいだろう。
長尺パターを使った練習方法は、長尺パターを持っていない人もドライバーで代用できる。
長尺パターの持ち方は、まず左手でグリップエンド付近を持つ。以前はグリップエンドを胸に押し当てていたが、禁止されたので胸の前あたりで固定してストロークの支点にする。
普段、長尺パターを使わない人なら、練習で感覚をつかむために胸にグリップエンドを当ててもいいだろう。
左手でグリップエンドを固定したら、右手は離してシャフトの真ん中あたりを軽く添える程度にグリップする。
ストロークでは、胸の支点から伸びたパターが、上半身の動きとともに動くイメージを持つようにしてほしい。
胸が右を向けばパターも右に動き、胸が左に動けばパターも左に動くようにする。体の動きとパターヘッドの動きをシンクロさせ、手や腕はパターを支えているだけにしてほしい。
右手を使ってパターをコントロールしようとする人が多いが、長尺パター自体が振り子の動きでストローク軌道をつくってくれるので、クラブの動きを邪魔しないように気を付けてほしい。
長尺パターのストロークをパターの練習に取り入れると、振り子の動きを体感することができる。ショートパットに悩んでいる人は練習に取り入れてみてほしい。
動画解説はコチラ
吉田洋一郎/Hiroichiro Yoshida
1978年北海道生まれ。ゴルフスイングコンサルタント。世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』など著書多数。