吉田洋一郎コーチによる最新ゴルフレッスン番外編。今回は、復活や躍進が目立ったPGAツアーの振り返りとともに、2023年に見事な復活を遂げたリッキー・ファウラーも取り組む片手素振りのドリルを紹介する。
トップ3の一角、ラームがLIVへ電撃移籍
2023年のPGAツアーを振り返ってみると、世界ランキング・トップ3(2023年12月18日時点)のスコッティ・シェフラー、ローリー・マキロイ、ジョン・ラームの活躍が印象に残る。
現在、世界ランキング1位のシェフラーは、2月のWMフェニックスオープンと3月のザ・プレーヤーズ選手権の2勝を挙げ、2023年は20試合の出場でベスト10入り15回、トップ5は12回で予選落ちは一度もないという素晴らしい成績を残した。
ベスト10の確率は75%、トップ5も60%というように、常に上位に顔を出すゴルフを展開し、スタッツも平均ストロークとパーオン率が1位、平均バーディー数が4位と、数字からも安定したプレーを続けてきたことがわかる。優勝は2回と、もっと勝ってもおかしくなかったが、プレーの内容としては文句なく世界ナンバー1の選手といえる1年だった。
世界ランキング2位のマキロイの強みは何といっても、ドライビングディスタンス1位(平均326ヤード)に輝いた飛距離だ。
今シーズンは飛距離を武器に2勝を挙げ、平均ストロークもシェフラーに次いで2位となったが、全米オープンではウィンダム・クラークに1打及ばず2位となり、2023年もメジャーには手が届かなかった。しかし、欧州ツアーでは5度目の年間王者となるなど、来シーズンに向けて好調を維持している。来シーズンこそマスターズを制して、悲願のグランドスラムを達成したいところだ。
世界ランキング3位のラームは、2023年はマスターズを制してメジャー2勝目を達成するなど、4勝を挙げた。
ラームの場合、プレーでのインパクトもあったが、それよりも12月7日にサウジアラビア政府系ファンドが支援する「LIVゴルフ」が、ラームの移籍を発表したことが大きなニュースとなった。欧米のメディアによると、契約金は700億円以上に上るという。
ラームは予選カットがない3日間大会のLIVゴルフ独自の大会運営に否定的だとされ、「お金のためにゴルフをしたことは一度もない。PGAツアーが持つ歴史や伝統に惹かれている」などと話していただけに、突然の発表には驚いた。
PGAツアーはLIVゴルフの発足時から敵対的な姿勢を見せていたが、最近はLIVゴルフを意識した運営の見直しを図っているほか、LIVゴルフと統合する方針も示していた。
そのような状況が変化するなかで、ラームの決断がゴルフ界に与える影響は少なくない。今後、米国ゴルフ界がどこへ進むのか目が離せない。
世界ランクを100位近くアップさせた復活劇が相次ぐ
2023年は長く低迷していた選手の復活や躍進も目立った。今回は世界ランク100位台からジャンプアップした4人を紹介したい。 ※ランキングは2023年12月23日時点。
リッキー・ファウラー 103位(2022年末)→23位
日本でも多くのファンがいるリッキー・ファウラーは、2019年にWMフェニックスオープンで優勝した後に長く低迷し、一時は世界ランキング185位まで落ちてしまっていた。
2022年シーズンから復調の兆しが見えていたが、2023年5月のチャールズ・シュワブチャレンジで6位に入ると、5位となった全米オープンまで3週連続でトップ10入りし、その翌々週のロケットモーゲージクラシックで、ようやく4年ぶりの優勝を果たした。
ファウラーの復活のきっかけは、2022年から再びブッチ・ハーモンに師事したことだろう。また、キャディーも変更し、パターもブレード型からマレット型に変えた。思い切って全てを変えることで、復活の道を切り開くことができたといっていいだろう。
ジェイソン・デイ 112位→19位
同様に復活した選手として、元世界ランク1位のジェイソン・デイも2023年5月のAT&Tバイロン・ネルソン選手権で5年ぶりとなる復活優勝を遂げた。
デイは腰痛などの故障で成績が低迷していたが、2023年1月のファーマーズインシュランスオープンで7位に入ると、4試合連続でトップ10入りをし、その勢いでAT&Tバイロン・ネルソンを制した。
デイはコーチのクリス・コモのアドバイスを受けながら、体への負担が少ないスイングに改造したのが功を奏した。腰痛に苦しんでいたタイガー・ウッズを復活に導いたコモの指導の確かさを裏づける形となった。
デイはその後も全英オープンで2位タイになるなど活躍し、フェデックスカップポイントランキングは28位まで上昇、2022年末には112位だった世界ランクも19位まで戻った。2023年から始まったPGAツアーとLPGAによる男女混合のチーム戦「グラントソーントン招待」でも、リディア・コとペアを組んで優勝し、オーストラリア出身のデイとニュージーランド国籍のコのオセアニアペアとして話題を集めた。
ウィンダム・クラーク 163位→10位
遅咲きながらようやく才能を開花させて、躍進を果たした選手も印象に残った。
ウィンダム・クラークは2018年秋からPGAツアーを主戦場にしていたが、2022年まで優勝には手が届かず、2022年末の世界ランクも163位だった。しかし、2023年5月のウェルズファーゴ選手権で初優勝すると、6月の全米オープンでローリー・マキロイらをかわしてメジャーを初制覇。
現在は世界ランク10位となり、ライダーカップメンバーに選ばれるなど、20代最後の年に前年には想像できないほど人生を好転させた。
クラークは2023年に入ってからオクラホマ州立大時代の先輩であるファウラーのパターを気に入り、同じスペックのものを注文したことで話題を集めた。パターを変えてから快進撃が始まっており、パターとの出会いが運命を変えたと言っていいかもしれない。
ルーカス・グローバー 105位→29位
もう一人、快進撃で一躍名前を売ったのが、44歳のルーカス・グローバーだ。
グローバーは2001年にプロ転向した後、2005年のフナイクラシックで米ツアー初優勝を果たし、2009年には全米オープンでメジャー制覇を果たしたが、その後は左ひざの故障から成績が低迷し2015年にはシード権を失うという経験もした。
その後、PGAツアーに復帰を果たすものの、2021年に10年ぶりの4勝目を挙げた以外はほとんど目立った活躍がなかった。今シーズン前半もパッティングの不調で成績が振るわず、2023年6月にはフェデックスランクで100位台後半と、再びシード権獲得を失いかねない状況だった。
ところが、7月のロケットモーゲージクラシックで4位に入ると、その後2試合連続でトップ10入り。そして、8月のレギュラーシーズン最終戦、ウィンダム選手権では通算20アンダーで2位に2打差をつけて優勝を果たすと、フェデックスカップランキングは112位から49位へと上昇。土壇場で上位70位以内に入りプレーオフへ進出した。
さらに翌週のプレーオフ初戦、フェデックスセントジュード選手権でもパトリック・キャントレーをプレーオフで破り2週連続の優勝。ランキングは4位にまで上昇し、このまま年間王者まで突き進むのではないかという漫画のような展開まで期待させてくれた。
残念ながら、残り2試合は優勝争いに絡めなかったが、フェデックスカップランキングは19位、世界ランキングもシーズン当初の106位から29位へと上昇した。
グローバーの躍進のきっかけもパターで、もともと彼はイップスによってショートパットに苦しんできた。しかし、「これまでと別のことをしなければならない」と考えて、標準的な長さのパターから長尺パターに変えてパッティングが見違えるように良くなった。
PGAツアーは才能に恵まれている選手たちがしのぎを削る厳しい世界だ。実力が拮抗するなかで、何かを変えてうまくいくこともあれば、ダメになってしまうこともある。自分自身と向き合い、適切な方法を選択することの重要性と難しさを改めて感じたシーズンだった。
ファウラーも取り組む片手素振りのドリル
2023年復活を遂げたファウラーはバックスイングでクラブをインサイドに引いてしまう癖があり、その動きを矯正するドリルに取り組んでいる。アマチュアにも参考になるドリルなので紹介しよう。
ファウラーが取り組んでいるのは、左右の腕で行う片手素振りだ。ただの片手素振りではなく、このドリルでは左手の甲を、クラブを持っている右腕の肘付近に下から当てがって構える。その状態を崩さないようにバックスイングからフィニッシュまでクラブを振るというシンプルな練習ドリルだ。
普段から手や腕を使ってバックスイングをインサイドに引く癖のある人は、相当違和感を覚えるに違いない。しかし、この練習を行うと左手が右腕の動きを制限するため、体と腕がシンクロした状態を体感でき、腕の振りに頼る手打ちスイングを解消することができる。
左手でも、右手甲を左肘あたりに添え、インパクトやフォロースルーで腕を振らないように意識しながら片手で素振りをしてみよう。
左右それぞれの片手打ちでバックスイングやフォロースルーの軌道を整えることで、体と腕がシンクロしたスイングが身につくはずだ。ボールの方向性に不安がある人は、スイングの再現性を高めることができるので、ぜひ練習に取り入れてみてほしい。
動画解説はコチラ
吉田洋一郎/Hiroichiro Yoshida
1978年北海道生まれ。ゴルフスイングコンサルタント。世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』など著書多数。