2023年、大荒れのマスターズを制覇したのは、安定感が際立ったジョン・ラーム。ラームのコンパクトなトップスイングは、再現性の低いアマチュアに必見だ。人気プロコーチ・吉田洋一郎がわかりやすく解説する。
スペイン人として、4人目のマスターズ覇者に
2023年のマスターズは大荒れの天候の中での開催となった。初日はまずまずの天候だったものの、2日目は雷雨によってプレーがたびたび中断。ティーイングエリア付近の巨木が倒れるアクシデントもあって、日没順延となった。
さらに3日目以降は強い雨とともに気温も低下し、ただでさえ起伏の激しいオーガスタでのプレーは過酷なものとなった。体の故障を抱える選手にとっては、厳しいコンディションだったに違いない。実際、交通事故による怪我の影響もあり、タイガー・ウッズは最終日に棄権を余儀なくされてしまった。
そんな悪コンディションをものともせず、今年のマスターズを制したのはスペイン人のジョン・ラームだった。ラームは初日の1番こそ4パットダブルボギーだったものの、その後はバーディーやイーグルを重ね、初日からブルックス・ケプカらと優勝争いを演じた。
一時はケプカが逃げ切るかと思われたが、落ち着いたプレーでケプカを追い、最終日にケプカがスコアを落としてきたところをとらえて逆転した。終わってみれば、どんなコンディションでも安定したプレーを続けられるラームの強さが際立った大会だったといえるだろう。
ここ数年、安定した強さを発揮して常に世界ランク1位争いをしているラームだが、メジャートーナメントを制したのは2021年全米オープンに続いて2回目。もちろんマスターズは初制覇で、世界ランク1位にも復帰した。
ラームは今大会の勝利によって、スペイン人として4人目のマスターズチャンピオンとなった。スペイン人として2人目のマスターズ覇者となったホセ・マリア・オラサバルが18番ホールでラームを待ち受け、優勝後に熱い抱擁を交わした光景にスペイン勢の絆の固さを感じられた。
実は今回のマスターズ最終日4月9日は、1980年に初めてスペイン人としてマスターズを制したセベ・バレステロスの誕生日。しかも、バレステロスがマスターズを初制覇した日も4月9日だった。
スペインの英雄と呼ばれるバレステロスは2011年に54歳で亡くなったが、生きていれば今年66歳。きっと、オラサバルと共に頼もしい後継者の優勝を喜んでいたことだろう。
コンパクトで再現性の高いスイングがラームの強さ
スペイン北部で生まれたラームは、高校生のときにスカウトされてゴルフの名門、米アリゾナ州立大学に進んだ。ラームをスカウトしたのは、当時、同大学でコーチをしていたティム・ミケルソン。今回のマスターズで2位タイとなったフィル・ミケルソンの実弟だ。
ティムはゴルフの指導だけでなく、スペイン語しか話せないラームに英語も教えた。スペイン語を話すと、腕立てとスクワットという罰も科したという。
「ラームには弱点がない。大学時代からすべての要素がトップレベル」というティムの言葉通り、アマチュアの世界ランク1位の座を長く保ち、2016年に全米オープンでローアマとなった翌週にプロ転向。同時にティムもラームのマネージャーに転身した。
プロ転向後もラームは活躍を続け、翌年にはツアー初優勝。世界ランクもトップ5入りを果たして2020年には1位の座についた。デビュー以来、順調に階段を上り、トップ選手の座を守り続けているラーム。まだ年齢は28歳と若く、スペイン人初のグランドスラムも夢ではないだろう。
そんなラームの特徴はコンパクトなトップ・オブ・スイングだ。ドライバーショットでも、ピッチショットかと思うほどのコンパクトなトップになっている。このコンパクトトップと、少ないフェースローテーションによってスイングの再現性を高めている。
コンパクトなトップにもかかわらず、昨シーズンのドライビングディスタンスのスタッツは平均318.9ヤードで5位と飛ばし屋の部類に入る。
なぜ、コンパクトなスイングでボールを遠くに飛ばせるかというと、身長188cm、体重100kgという見事な体格もさることながら、地面反力を使って効率的にスイングしている点も見逃せない。
ラームのようなコンパクトトップを身につけたいというアマチュアゴルファーのために、大事なポイントを2つ紹介しよう。
ラームのようなコンパクトトップの身につけ方
1つ目のポイントは体と腕のシンクロだ。腕を振ってしまうと、体の動きよりも運動量が多くなり、コンパクトなトップ・オブ・スイングにはならない。上半身の動きに合わせて腕が動くようにするために、腕を前ならえのように伸ばして、体の回転に合わせて腕を振る練習が効果的だ。腕に力を入れず両手の間隔を保ちながらシャドースイングをしてみよう。
コンパクトなトップをつくるためのもう1つのポイントが、切り返しのタイミングだ。切り返しで左足を踏み込むタイミングを早くすることで、バックスイングが大きく上がらなくなる。踏み込みのタイミングはバックスイングで左腕が地面と平行になるあたりか、そのやや手前にするといいだろう。
そのタイミングで下半身を動かすことによって、トップに向かうクラブと腕が下半身と引っぱり合うことになる。下半身と上半身が別方向に動くことでトップが小さくなるだけではなく、コンパクトトップでも下半身リードの力強いスイングになる。
左腕が地面と平行になるあたりから切り返しを始めるのは早すぎるのではないかと思うかもしれないが、腕はバックスイングの惰性で上がり続けるため、トップの位置は思っているよりも高くなるので心配はいらない。
体と腕のシンクロと左足を踏み込むタイミングという2つのポイントを押さえれば、コンパクトで再現性が高いスイングを作ることができる。ラームのようなコンパクトなトップスイングを目指している人は参考にしてほしい。
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吉田洋一郎/Hiroichiro Yoshida
1978年北海道生まれ。ゴルフスイングコンサルタント。世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』など著書多数。