2025年モデルより新たに加わった、ガソリンV8エンジンを搭載するディフェンダー130に試乗。歴史的背景を踏まえて、このクルマがほかのプレミアムSUVとは異なる個性を持つ理由を考えた。

クルマ好きの心に響くV8エンジン
2025年モデルより、これまでディーゼルエンジンしか設定のなかったディフェンダー130でも、5ℓのV型8気筒ガソリンエンジン(スーパーチャージャー付き)が選べるようになった。
全長5275mmのディフェンダー130 V8と対面しての第一印象は、あたりまえではあるけれどデカい、というもの。ちなみにベントレー・ベンテイガEWBが5305mm、キャデラック・エスカレードが5400mmだから、世界的に見てもこのあたりが上限だといえるだろう。

おもしろいのは、外から見ると小山のように巨大なのに、ドライバーズシートに収まるとこれくらいなら楽勝で運転できると感じることだ。これはランドローバー伝統の「コマンドポジション」と呼ばれるドライビングポジションによるところが大きい。
もともと、オフロードの過酷な環境で使われることを想定して車両開発を行ってきたブランドだけに、視認性の高いドライビングポジションは必須なのだ。
ただし、エアサスペンションをはじめとする最新の電子制御システムで武装した最新のディフェンダー130の乗り心地は快適で、かつてのオフローダーっぽい粗さは微塵も感じない。タウンスピードから高速クルーズまで乗り心地はしなやかで、試乗会で体験した圧巻の悪路走破性能とこの快適性を両立しているあたり、さすがは老舗の技だ。
注目のV8エンジンは、ふたつの顔を持っている。
ひとつは黙々と仕事をこなし2.6トンのボディを滑らかに押し出す、気は優しくて力持ちという顔。
もうひとつは、アクセルペダルを踏み込んだ時の野性的な顔で、いかにもエンジンらしいメカニカルな音とともに力強く加速させる、。
実はこのエンジン、基本設計は1990年代に遡り、当時はジャガーのスポーツカーにも搭載されていた過去がある。現代的にチューニングを施すことで、普通に扱えばプレミアムSUVにふさわしい上品な手触りであるけれど、ふとした時に、「昔はヤンチャしてました」的な一面が顔をのぞかせるのがおもしろい。これはネガティブな意見ではなく、プレミアムとスポーティ、ひと粒で二度おいしいエンジンだ。
ディフェンダーは、元祖“働くクルマ”だった
といったようにディフェンダー130 V8は文句のつけようがないSUVに仕上がっている。ひとつ議論があるとすればそのスタイリングで、90や110に比べるとバランスが悪いという声もある。
百聞は一見にしかず。ディフェンダー90、110、130を見比べてみたい。



ディフェンダーは90、110、130と3つのボディを持っている。真横から見ると、130は後輪の後ろが少し間延びしたように見える。というのも、110のホイールベース(前後の車輪の間隔)を延伸しないでボディだけストレッチしているからだ。ディフェンダー110のほうがまとまっているというか、バランスがよいように見える。
いっぽうで、ディフェンダーというクルマの歴史を振り返ると、130のスタイリングに抱く印象も少し変わってくる。
当初はランドローバーという車名で呼ばれていた初代モデルは、第二次世界大戦で活躍した米国陸軍のジープを参考に開発された。戦禍からの復興や、深刻だったイギリスの食糧不足を解決するために、タフに働くクルマが必要だったのだ。
事実、1948年にデビューしたランドローバーにはさまざまなアタッチメントが装着されて、農耕車や消防車、あるいは救急車に変身、さまざまな“現場”で活躍した。
どうでしょう? 救急車や消防車は、目的を果たすためのアタッチメントを装着することで、デザイン的には少しまとまりを欠いているかもしれない。でもこの写真を見た後で、乗車定員8名の3列シートや広い荷室を確保するためにボディをストレッチしたディフェンダー130を眺めると、また印象が変わるのではないか。少しブサイクに見えるかもしれないけれど、それは目的を達成するため、いい仕事をするためなのだ。
いずれにせよ、ディフェンダーというクルマが「お洒落にキャンプに行こうぜ」という発想から生まれたのではなく、世のため人のために悪路走破性能を磨いたところが出発点であることはご理解いただけると思う。
機能を徹底的に追求することでプレミアムなSUVになったという点で、ディフェンダーは非常にユニークな存在なのだ。

全長×全幅×全高:5275×1995×1970mm
ホイールベース:3020mm
エンジン最高出力:500ps/6000〜6500rpm
エンジン最大トルク:610Nm/2500〜5000rpm
価格:1687万円〜(税込)
問い合わせ
ランドローバーコール TEL:0120-18-5568
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。