電気自動車専門の高級ブランドとして生まれ変わるジャガーが、まずはコンセプトカーの独創的なデザインでその戦略を世に示した。
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丸目4灯のXJシリーズが偉大すぎた
ジャガーは、名門であるがゆえの悩みを抱えているブランドだ。かつての名車のイメージが強すぎるため、どんなに格好いい最新モデルが登場しても、「あの頃はよかった」と思われてしまう。
一番わかりやすい例が、ここに紹介するポスターだ。これはジャガーXJシリーズの登場50周年を記念して2018年に作られたもので、歴代XJシリーズの変遷がひと目でわかる。
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どうでしょう、「やっぱり丸目4灯のヘッドランプが素敵」だと思われる方が多いのではないだろうか。ポルシェ911やメルセデス・ベンツGクラス(ゲレンデヴァーゲン)、あるいはジープ・ラングラーのように、あえて姿形を大きく変えずに中身を進化させてきた例もあるけれど、ジャガーはあえて新しいデザインにチャレンジしたのだ。
2009年以降の新XJが大きな成功を収めることができなかったのは、デザインに問題があったわけではなく、丸目4灯のイメージが強すぎたからだと考える。長嶋一茂と同じように、父親の存在が偉大すぎるがゆえに、正しい評価を得ることが難しかった。
すでに報道されているように、ジャガーは電気自動車専門の高級ブランドに生まれ変わると公言している。もっと具体的に言うと、ドイツ御三家の上のカテゴリーで、ロールス・ロイスやベントレーのちょい下あたりを狙っている。
そして、そのリブランディング戦略を形にしたコンセプトカーが発表された。
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「Copy Nothing」がコンセプト
「マイアミピンク」と「ロンドンブルー」という2色のボディカラーで発表されたコンセプトカーの名称は、「TYPE 00」。「TYPE」はジャガーのかつての名車「E TYPE」に由来、ふたつのゼロは温室効果ガスの排出ゼロと、ゼロからのスタートを意味するという。
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長いボンネットこそジャガーEタイプをはじめとする伝統的なスポーツカーのフォルムを継承しているものの、垂直に切り立ったフロントマスクとリアビューなど、刺激的だと言えるほど意匠は斬新だ。特に真横から見ると、なだらかに落ちていくルーフがトランク部分に溶け込んでいく過程がドラマチック。ルーフのラインとトランクがつながっているように見えるファストバックというスタイルを採用したことも新鮮だ。
デザインのコンセプトは「Copy Nothing」で、確かにほかに似た形が思い浮かばない造形だ。
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インテリアも個性的で、特に中央の長さ3.2メートルの真鍮製の支柱が目に入る。真鍮のバーは左右のドア部分にも組み込まれており、その質感と形状が荘厳さを表現している。
インテリアのポイントは可動式であることで、必要に応じてスクリーンが静かに登場し、収納スペースも電動でそっと開く。
慣れ親しんだジャガーのマスコット「リーピングキャット」はボディのサイド面に棲息する。このコンセプトカーでは、リーピングキャットが居住するプレートは可動式で、持ち上がるとそこからリアビューカメラが登場する。
ジャガーによればこの「TYPE 00」は「DESIGN VISION CONCEPT」という位置づけで、最初の市販モデルは2025年後半に発表される4ドアGTになるという。電気自動車の性能としては1回の充電で770km走り(WLTPモード)、15分間の充電で最大321km分の急速充電することを目標にしているという。
「TYPE 00」を見ての印象は、思い切ったなあ、というものだ。たとえば丸目4灯のかつてのXJシリーズのスタイルで、中身を電動化するという方法もあったはずだ。けれども、ジャガーはその道は選ばなかった。
そういえば1961年にジャガーEタイプが発表された際には、それまでのジャガーとはまったく文脈の異なる流麗なスタイルが大きな話題となり、フェラーリの創始者エンツォ・フェラーリは「世界で最も美しいスポーツカー」と評したという。
つまりジャガーにとっては丸目4灯を継承することが伝統ではなく、見たこともないような画期的なスタイルで世の中をあっと言わせることが伝統なのかもしれない。
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シン・ジャガーの第1号車がどんな形で登場し、われわれ自動車ファンはそれをどう受け止めるのか。「TYPE 00」を眺めていると、いまかから期待がふくらむ。
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。