2025年7月23日に最新アルバム『アネモネ』をリリースした原田知世。10年間、ほぼ毎年アルバムを制作し、発表し続ける彼女の音楽について聞いた。前編。

音楽は、私の足跡
原田知世は、そのイメージを超えて、タフだ。7月23日には新作『アネモネ』をリリースする。23枚目のオリジナル・アルバムになる。カバーやセルフ・カバーを合わせると30枚目。彼女はこの約10年ほぼ毎年コンスタントにアルバムを制作し、発表している。原田をシンガーと認識しているファンも俳優と認識しているファンもいるが、ミュージシャンシップは高水準だ。
「お芝居の仕事は縁や相性に左右されることが多い。作品や監督の描く世界の一部となってベストを尽くします。スタッフや共演者には一期一会のかたも多く、キャリアの中のある時期に出会って、濃い時間を共有して、別れていくお仕事です。自分でコントロールできることはとても限られています」
一方、音楽には自分自身を感じているそうだ。
「音楽は、私の足跡だと思っています。30代、40代、50代と歌ってきて、生身の人間としても少しずつ変化もあって、その証しが音になっているからです」
コンスタントに新作を発表し続けることによって、自分のキャリアを充実させてきた。
「この約10年は毎年のようにアルバムをつくることができているので、アルバム曲を歌うツアーを行えます。ずっと同じチームでやらせていただいているからこそです。感謝しています」
伊藤ゴロー、高野寛、川谷絵音が楽曲
今作『アネモネ』は前作『カリン』と対になっている作品。
「『カリン』は、秋から冬のイメージで作りました。『アネモネ』は、春から夏のイメージです」
全6曲。うち「Driving Summer」をはじめ4曲は、この10年原田とパートナーシップを築いてきた伊藤ゴローがプロデュース。そのほかに高野寛が「頬に風」、川谷絵音が「阿修羅のように」を手がけた。誰が作っても、アルバム1枚を通して、リスナーが求める原田のイメージになっている。
「今回は時間的にじっくり制作するゆとりがありました。高野さんと川谷さんの曲は、ほとんど完成した状態でいただいたので、仮歌の段階でイメージを掴むことができました。逆にゴローさんの曲はスケッチ的なところから始まる曲も多いので、仮歌から歌入れまでに曲と歌を少しずつ育てていくような感覚です。寝かせる時間も持ちながらイメージを膨らませていきました。スタジオではプレイバックの声をもとに、情緒を加えたり、抑揚をつけたり、ヴォイストレーナーのレッスンに通ったり。そういうプロセスを踏めて、作品のクオリティを高められました」
このようにていねいな作業を重ね、自分を客観視し、俯瞰できた。

シンガー、俳優。1982年デビュー。「時をかける少女」「天国にいちばん近い島」「ロマンス」「シンシア」などヒット曲・名曲多数。俳優としても映画『時をかける少女』『天国にいちばん近い島』を皮切りに数多くの作品に出演。2025年3月公開の『35年目のラブレター』がヒット。11月9日大阪の東大阪市文化創造館、13日に東京・渋谷のLINR CUBE SHIBUYAで「原田知世『アネモネ』『カリン』リリースツアー2025」を開催。http://haradatomoyo.com/
常に新しい自分であることが大切
原田は1982年、当時14歳でデビュー。シンガーとしても、俳優としても43年になる。ベテランの領域になってなお、今作で自分の進化を感じることができた。
「2024年の12月に恵比寿のザ・ガーデンホールで、一夜だけスペシャルライヴをやりました。自由な選曲で、『My Dear』や『アパルトマン』など、これまでコンサートではあまりやっていない曲を歌ったんです。あの夜に、気づいたことがありました。ちょっと力が抜けるというのかな。ボリュームを下げて歌うコツをつかめました」
新鮮な気づきだった。
「思い切り歌うと、とても気持ちはいいんです。でも、あえて抑えて歌うと、歌詞のニュアンスや、その主人公の気持ちが伝わります。新しい自分の歌唱と出合えた。その感覚をゴローさんやエンジニアのかたに伝えて、作品の精度を上げていきました」
たとえばラストナンバーの「いつもの坂道」では、ささやくような、語りかけるような、情景を繊細に描写する歌唱を聴くことができる。アルバムの1曲目、疾走するようにアップテンポの「Driving Summer」もさわやかな水彩画のような景色が見えてくる。
「常に新しい自分であることが大切だと思っています。いつも変わっていたい。ただ、変わろう変わろうと意識するのではなく、自然に変化していかれたら素敵だとは思います。今後も時の流れに身を任せて変わっていく自分を楽しみたいです」
※後編に続く(7月24日公開)
