2023年10月25日に新作『恋愛小説4~音楽飛行』をリリースした原田知世はデビュー以来41年、シンガーソングライターと俳優、両方で質の高い作品をつくっている。ミュージシャンであり役者でもあり続けるそのマインドとは。#前編
俳優の現場は一期一会。ミュージシャンの現場はホーム
原田知世のミュージシャンシップは高い。ほぼ1年に1枚のペースで新作をレコーディングしている。
だから当然、彼女をミュージシャンと思っているリスナーは多い。その一方で、俳優だと思っているファンも多い。
14歳から彼女はミュージシャンで俳優だった。スクリーンデビューは1983年。大林宜彦監督作品『時をかける少女』の主人公、芳山和子役だった。
主題歌も歌った。松任谷由実が作詞・作曲した「時をかける少女」は原田のまだあどけない歌唱で大ヒットした。
それからずっと、原田はミュージシャンと俳優を続けている。
では彼女のなかで“シンガーソングライター・原田知世”と“俳優・原田知世”は、どんなバランスで共存しているのだろう。
「10代のころは女優の意識のほうが強かったと思います。女優のオーディションに受かってデビューしたので。“女優で歌も歌う”というスタンスでした。
音楽でも自分の人生を開いていきたいと思い始めたのは20代後半くらいでしょうか。『GARDEN』とか『カコ』とか、鈴木慶一さんと出会い、プロデュースしていただくようになった時期です」
そのころから少しずつミュージシャンシップが上っていき、音楽をつくる現場を自分の“ホーム”のように感じるようになった。
「映画やドラマの現場は一期一会が多いですよね。作品をつくるために出会い、親しくなり、濃密な時間をともに過ごして、撮影が終わると別れていきます。そしてそれぞれがまた別のチームで別の新しい作品をつくる。
一方音楽は、ほとんど同じメンバーで作品をつくります。最近はずっと伊藤ゴローさんにプロデュースやアレンジをお願いしています。レーベル担当は斉藤嘉久さん。私を長く見つめてくださり、深く知ってくれている方々に囲まれて音楽制作を行っています。
だから、毎年音楽の制作が始まると、ホームに戻ってきた感覚になれる。ゴローさんとの現場では、いつも素の自分でいられます。私らしい私、です」
鈴木慶一、トーレ・ヨハンソン、伊藤ゴローといったプロデューサーと出会うことで、ミュージシャンとしてのキャリアを重ねてきた自覚がある。
「この三人のプロデューサーとの出会いで、私は変わってきたというか、新しい自分になれたと感じています。皆さん、私にとって大きな存在です。
音楽に限らず、そういう出会いって、最初に気づきますよね。あっ、今出会うべき人に出会えたな、って」
音楽制作を行うことは、俳優としての原田にもいい影響を与えてきた。演じる仕事も、ミュージシャンとしての原田の刺激になった。
「結果的にですけれど、何年もの間、音楽と俳優それぞれがいいサイクルで続いてきました。撮影がクランク・アップすると、間をおかずに、音楽制作がスタートします。撮影して、レコーディングして、ツアーをしてという1年を重ねることができました。撮影のときの熱量のままでレコーディングに臨めました」
「空の上の幸宏さんもきっとほめてくれると思います」
鈴木慶一や伊藤ゴローのほかにもう1人、原田のキャリアでは重要な存在がある。
2023年1月11日に70歳で永眠した高橋幸宏だ。高橋は2007年、高野寛、高田蓮らとポップ・エレクトロニカのバンド、pupaをスタートした。“pupa”とはさなぎのこと。そのヴォーカリストとして、原田も参加した。彼女にとっては現状唯一のバンド経験になる。
pupaへの参加は急な展開だった。ある日食事に入った店で、原田は偶然高橋と遭遇する。10年ぶりくらいの再会だった。
「知世ちゃん、一緒にバンド、やらない?」
カウンター席で、高橋に誘われた。原田の心は動いた。
「pupaは楽しい体験でした。バンドのみんなで意見を出し合いレコーディングして、ツアーをまわって。バンドメンバーはみんな幸宏さんが大好き。幸宏さんも自分のことが大好き。
私、自分を愛せる人でないと、なかなか他人を愛せないと思っているんですよ。実際、幸宏さんは温かい方で、みんなに愛情を注いでいました。私自身、厳しくされたことは一度もありません」
アルバムをリリースすると、よく連絡をくれた。
「知世ちゃんが書いて歌った『ロマンス』にも驚かされたけれど、伊藤ゴロー君と組んでつくっている今の作品も素晴らしいよ」
いつもほめてくれた。今もまだ、原田は高橋がいなくなったとは思えない。
「今回のアルバム『恋愛小説4~音楽旅行』では、ニール・ヤングの『オンリー・ラヴ・キャン・ブレイク・ユア・ハート』を歌っています。この曲は幸宏さんも好きで、アルバム『ア・デイ・イン・ザ・ネクスト・ライフ』のなかでカヴァーしています。
私は幸宏さんの声が大好きで、あの声で歌うニール・ヤングの曲もとても素敵でした」
だからこそ『恋愛小説4』で自分の歌う「オンリー・ラヴ・キャン・ブレイク・ユア・ハート」を聴いてほしかった。
「たぶんほめてくれていると思います。空の上で」
2022年にデビュー40周年を迎え、2023年に『恋愛小説4』をリリースした後も、原田はミュージシャンと俳優の両方の道を進む。
「私のようなスタイルでやっている先輩はほとんどいないですよね。だから、どなたかをお手本にするという発想もない。自分と向き合い、自分自身でキャリアを切り開いていくしかないと思っています」