MAGAZINE &
SALON MEMBERMAGAZINE &
SALON MEMBER
仕事が楽しければ
人生も愉しい

PERSON

2022.11.28

女優・中村ゆりインタビュー“トラウマやコンプレックス”すべてを活かせた俳優という仕事のマイ・ルール

去る2022年11月4日より絶賛公開中となっている今泉力哉監督の映画『窓辺にて』。今泉ワールド全開の人間ドラマに出演中の中村ゆりさんに直撃。主演である稲垣吾郎さん演じるライター、市川茂巳の妻にして編集者の市川紗衣を演じた彼女が本作品に感じた思い。そして、40代を迎えた女優キャリアのなかで、大事にしているものとは。

中村ゆり

今泉作品を通じて思う、役柄のリアリティ

​数々の話題作に出演​し、現在放送中の​TBS系ドラマ『クロサギ』での早瀬かの子役も注目を集めている“女優・中村ゆり”が新たな表情を見せた。

そんな印象を抱かせる映画『窓辺にて』。今泉力哉監督のオリジナル脚本によって描かれたのは、さまざまな愛の形だ。

そのなかで中村ゆりさんが演じたのは、主人公・市川茂巳の妻、市川紗衣。編集者である彼女は、自身が担当する若手作家と不倫関係を結ぶという役どころとなっている。これまで、どちらかといえば、「される側」の印象も少なくない中村さんだが、自身ではこの役柄にどのように向き合ったのだろうか。

「どんな役でも、共感から入るわけではないんですよ。正論を言えば、どんな状況であれ、不倫自体はよくないことだと理解しています。だから、最初は私も、この役にあまり味方しすぎてもいけないのかな、と思っていたんです。

けれど、実際にお芝居をしてみた時に、紗衣自身もものすごく寂しかったんだな、不安だったんだな、という感情がわかる部分がありました。

今泉監督は、紗衣にも寄り添っていたんですね。監督のどんな人にも寄り添うスタンスがすごく感じられました」

妻の不倫関係を知ったときに主人公・市川茂巳の中に芽生えた「ある感情」が、本作を貫く大きな柱となっている。(「ある感情」については、本編でお確かめください!)

そのなかでも、中村さんと稲垣さんのシーンは見どころが多く、彼女自身、感情が揺さぶられることもあったようだ。

「役柄に対して客観的でいようと臨みましたが、稲垣さんとのシーンで思わず落涙してしまったりして。今泉監督はあえて長回しで撮影したんだろうな、という意図も見えましたね(笑)。

稲垣さんは、私の芝居もすべてしっかりと受け止めてくださった。役として対峙したときに、心からお芝居をなされているような感覚を受けて。だから、思わず自分が準備していなかった感情が生まれたんだと思います。

誤解を恐れずに言えば、すごく“映画的”なお芝居をされる印象。ですので、気持ちの面で感じ合う部分や、稲垣さんの演技から“もらった”ことも多かったですね」

SNSでは、まるで稲垣吾郎さんそのものといった役柄への評価も多く見られるほどのハマり役の模様。非常にリアリティの感じられるやりとりが多く見られるのも本作の魅力といえるだろう。

同時に、今泉作品に対して、自分の出演箇所以外にも、随所に「ワールド」を感じることが多かったという。

「日常的なシーンが多い今泉作品ですが、とりわけ私が感じるのは、“なんで、私の気持ちを知っているんだろう”と、自身の日頃の思いと重なる部分が多いことですね。どんな小説や映画でも、そういう瞬間ってあると思うんですが、今泉作品には、それが非常に多いんです。

決して“劇的”ではないんですが、身の上話をしてくれているような、暖かさがあると思います。特に今回は、自分の実年齢に近い世代の役どころが多い人間ドラマですので、今、この作品に出会えたのはうれしい経験でした」

新たな作品との出会いが、自分の幅を広げてくれる。この作品も彼女の役者人生にとっては、そうした重要な役割を担っていくと感じているようにうかがえる。

「特に、感覚の言語化や具体的なシーンへの落とし込みが上手ですよね。例えば、斉藤陽一郎さんが演じる、山小屋住まいのカワナベさんは、とっても特徴的。私を含めて、多忙な日常で何かを見失っている現代人なら、みんな共感できると思います(笑)。

ほかにも、『悩むんだったら、カラダを動かしなよ』というようなシーンや、バイクの二人乗りに、『命を預けている感覚』を感じるシーンなどでは、普段言葉にしないけれど感じていることが、“そうだ。それそれ”というふうに、浮き彫りにされていくんですよ」

長年、演技と向き合い続けて、見えてきたもの

今年で40歳を迎えて、幅広く新たな役柄にトライしている中村さんが、ユニークな表現が数多くちりばめられた本作にも、さまざまな魅力を感じているようだ。

そうしたなかで、“女優・中村ゆり”が、役を演じるに際して心掛けているマイ・ルールのようなものはあるのだろうか。あるいは、演じることをどのように捉えているのか。

「想像するに、役者なら誰しも、おそらく役に対する得手・不得手というものはあると思うんですよ。私は、自分が思う苦手な役も、これまで避けずに選んできたんです。

だから、ホームランを全然打てていないな、と感じる作品も山ほどあるし、それでも、小さな武器を持ってちょっとずつ挑戦してきました。

苦手なことでも、諦めずに食らいついて、何かできないかなと探して準備する。そうすると、小さいながらもその武器たちがちょっとずつ増えてくるんです」

彼女のプロフィールを見れば、数多くの作品に登場しているが、「主役・準主役」というものばかりではない。ある意味で苦労人ともいえるかもしれない。それでも、一歩一歩諦めずに歩んできたという、これまでの道のりを振り返る。

「年齢を重ねるほどに、そうした準備の大切さを感じます。ただ、“武器”と言いましたけど、それを感じたのも本当にごく最近のこと。私は全然器用なタイプではないので。

“なんでこれができないんだろう?”って、オンエアや作品を見返しては反省。そうすると、次へのアプローチもわずかに見えてきます。だったら、次回はなんとか還元しよう、ということの積み重ね。若い頃は、勢いで“なんとかなるさ!”って突っ走ることもできたんですが(笑)。

だから、自分を深めていく、という孤独な作業が何よりも大事なんです」

演技とは、まさに神経をすり減らす作業のように映る。一方で、年齢を重ねて感じる自身の変化については、経験からうまく対応することができるようになったという。

「加齢によって、ホルモンバランスも崩れたりして、心も体も変化していく。それに気づいたときに、同世代の女優さんたちと話して、私と同じなんだなと共有できたんですね。

それで、解決策も見つけられるようになった。あれこれ悩まなくなりましたね。悩むことも若さの特権。悩むこと自体に気力も体力も使いますから。悩みに没頭する力を使わないように、ときには、“えいっ”ってかなぐり捨てるのもアリです(笑)」

そうすることでまた、新たな仕事へのモチベーションも湧き起こる。ストイックに演技に向き合う一方で、リラックスタイムの重要性も見出した。

「休むのって、勇気がいるんですよ。若い頃は少しでも隙間ができると“仕事入りませんか?”って詰め込んでいたんですけど、今は、空いたら“休みます!”って言えるようになりました(笑)。

休んでも取り戻せる、休んだほうが効率良く仕事ができる、って気づいたんですよね。ようやく」

そして、オフタイムでは、趣味である旅行とサウナとお酒、と美食、そして、飼い犬との時間を大事にしているそうだ。

「働いたご褒美に、自分をめいっぱい甘やかしてあげて、次へのモチベーションに。これは、今詰めていらっしゃる皆さんに伝えたい!」

中村ゆり

ベスト¥74​,​800​、​パンツ¥38​,​500​​(ともにOWIL/レザボア ​TEL:03​-​6712​-​5812​) 他​は​スタイリスト私物

“女優・中村ゆり”の今後とは

「今まで、目標どおりに物事がうまく運んだことなんて一度もなかったんです」

オーディション番組をきっかけにCDデビューを果たしたのちに、女優の道へ進んだ中村さん。そこからおよそ20年。続けて来られたのは、ひとつひとつ目の前のことに向き合ったことの「お返し」のようなものだと語る。

「物事って本当になるようにしかならなくて、出たいという作品に必ず出られるという世界ではないですから。ただ、自分が誠実に“何か”をしたことに対しては、何年後かには、必ず、たとえ小さなカタチであったとしても、“何か”が返ってくると信じているんです。

だから、この先の20年、結果的に女優を続けていられたら、これまでひとつひとつ頑張ってきた証と思えるのかなと。だから、大きな目標は全然もたないようになりました。

目の前のことをしっかりやるだけ」

毅然と我が道を見定めたあとに、お茶目な表情を見せる。

「だいたいですよ! “この作品は頑張ったからちょっといい評価いただけるかな?”なんて思っても、そのとおりに評価されることなんてないですし、むしろ、“え? ここがいいの?”というふうに意外な評価をいただくことのほうが多いんですから(笑)」

最後に、女優という仕事を振り返る。

「歌もダメ、勉強もダメ。そんな自分に、努力によって少しずつでも武器をもたせてくれた。トラウマやコンプレックス、小さな頃の孤独感など、これまでの人生で経験した辛かったこともすべて活かせたのが俳優業。私にとってはすごく希望のある仕事なんです。

だから、もし今マイナスの感情に苛まれて、何か道につまづいている人がいたら、それを活かせる仕事があるよ、って教えてあげたいくらいです(笑)」

仕事とリラックスのスイッチをもって、全力で仕事に臨む中村ゆりさん。役柄における説得力なども含めて、本作『窓辺にて』では、彼女の魅力が存分に堪能できるはずだ。

すべての人間の行動には意味があって、人それぞれの思いがある。そんな暖かな眼差しの今泉作品を一度、味わってみてはいかがだろうか。

取材時のアザーカットを公開

中村ゆり

中村ゆり

中村ゆり

中村ゆり

中村ゆり/Yuri Nakamura
1982年大阪府生まれ。2003年より女優業に。映画『パッチギ LOVE&PEACE』では、'07年度全国映連賞女優賞、ならびに第3回おおさかシネマフェスティバル新人賞を受賞し、一躍注目の的に。映画『そして父になる』『母性』('22年11月23日公開)ほか出演作多数。日本生命のTVCMでの好演も話題となった。現在は、TBSドラマ『クロサギ』(毎週金曜夜10時から)にも出演中。公開待機作に、『嘘八百 なにわ夢の陣』('23年1月6日)、『仕掛人・藤枝梅安 第一作』('23年2月3日公開)、 出演舞台に『歌うシャイロック』がある。

『窓辺にて』
フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)が、とある文学賞の授賞式で出会った高校生作家、久保留亜(玉城ティナ)と交流から描き出す人間模様。そして、市川が、妻・紗衣(中村ゆり)の浮気を知った際に芽生えた「ある感情」が、話の軸となっていく。等身大の恋愛模様に加えて、好きという感情そのものについて深く掘り下げた、大人のラブストーリー。
出演:稲垣吾郎、中村ゆり、玉城ティナ、若葉竜也、志田未来、斉藤陽一郎ほか
監督・脚本:今泉力哉
配給:東京テアトル
2022年11月4日(金)より絶賛公開中
©2022「窓辺にて」製作委員会

TEXT=髙村将司

PHOTOGRAPH=彦坂栄治

STYLING=道券芳恵

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2024年5月号

ゴッドハンド

ゲーテ5月号表紙

最新号を見る

定期購読はこちら

MAGAZINE 最新号

2024年5月号

ゴッドハンド

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ5月号』が3月25日に発売となる。成功者たちを支える“神の一手”を総力取材。すべてのパフォーマンスを上げるために必要な究極の技がここに。ファッション特集は、“刺激のある服”にフォーカス。トレンドに左右されない、アートのようなアイテムが登場。表紙は、俳優・山下智久。

最新号を購入する

電子版も発売中!

定期購読はこちら

SALON MEMBER ゲーテサロン

会員登録をすると、エクスクルーシブなイベントの数々や、スペシャルなプレゼント情報へアクセスが可能に。会員の皆様に、非日常な体験ができる機会をご提供します。

SALON MEMBERになる