2025年7月23日に最新アルバム『アネモネ』をリリースした原田知世。50代で始めたゴルフは、思いがけずシンガー原田にいい影響を及ぼした…。インタビュー後編。 #前編

ふとしたきっかけで始めたゴルフの効能
音楽は生きもの。だから、作品の作り手や歌い手そのものを反映する。そのときのアーティストのチャレンジングな気持ちや恋愛中だからこその色気や哀しみが音ににじむ。
50代を迎え原田知世はゴルフを始めた。それも、思いもよらず、シンガーとしての原田に影響を及ぼしているそうだ。
きっかけは年上の女友だちとの北海道への二人旅だった。
「知世ちゃん、一緒にゴルフやらない?」
旅先で突然誘われた。
「北海道の大地をクルマで走っているときでした。すでに彼女はゴルフをやっていて、ゴルフバッグを持ってふたりで旅に出たら、その途中でラウンドできるじゃない、と」
原田は初めて、ゴルフをやる自分をイメージした。
「ゴルフって、ハンディがあったり、打つポジションを変えたりで、年齢も性別も気にせず、誰とでも楽しめますよね。プロとアマが一緒にまわることもあります。そんなスポーツって、ほかにはなかなかない。そこにも魅力を感じました」
マインドが強くなった
さっそくクラブをそろえた。
「ゴルフはスコアを競うスポーツですが、始めてみると実は自分自身との闘いです。それがシンガーや俳優としての私、そして人としての私を鍛えてくれています」
音楽でも、芝居でも、かつては失敗をネガティヴにだけとらえて引きずり、場合によってはトラウマにまで育ててしまう自分がいたという。
「コンサートの1曲目に自分のイメージ通りに声が出なかったり、いつもと音響が違って聴こえたりすると、2曲目、3曲目も引きずってしまうことがありました。そういうことが、ゴルフを始めてからはなくなってきました。マインドが強くなっていると思っています。ゴルフはティーショットでとてつもないミスをしたり、1ホール目で大叩きすること、ありますよね。すると、2打目や2ホール目以降なかなか頑張ることができないこともありました。それを克服できたことが、音楽をやる私にもいい影響をもたらしています」
あきらめない気持ちが育ってきた。
「メンタルが鍛えられると、気持ちを切り替えられます。済んだことにくよくよしなくなります。次頑張ろう! と思える。すると18ホール終えたときに、最初の不調分を取り戻せているんです。1打目に飛ばして大差を付けられた人と最終的には並べたこともありました。グリーンでそういう経験を重ねると、同じような強い気持ちでステージに立つことができます」
自分の努力が反映される領域に、集中して力を注ぐようにもなった。
「ゴルフは屋外で行うスポーツなので、自然の影響を受けますよね。アゲインストの風とか、高い気温とか、雨とか。そういう自分ではどうすることもできない力には抗わないようになった。コンサートも同じです。ホールの鳴りとか、音響とか、自分の努力が必ずしも反映されないことはあります。そういう環境に左右されずに、目の前の頑張るべきことに集中できている気がします」

シンガー、俳優。1982年デビュー。「時をかける少女」「天国にいちばん近い島」「ロマンス」「シンシア」などヒット曲・名曲多数。俳優としても映画『時をかける少女』『天国にいちばん近い島』を皮切りに数多くの作品に出演。2025年3月公開の『35年目のラブレター』がヒット。11月9日大阪の東大阪市文化創造館、13日に東京・渋谷のLINR CUBE SHIBUYAで「原田知世『アネモネ』『カリン』リリースツアー2025」を開催。http://haradatomoyo.com/
努力がその日に実を結ぶことはめったにないけれど
このように、ゴルフから学ぶものがどんどん増えている。
「今は音楽と俳優の仕事をやる合間に、1ヵ月に1度のペースで。コースでのレッスンを受けるようにしています。そして、もちろん時間を見つけては自主練習もやります。そのなかで力いっぱい打たない大切さも学びました。緩急を意識しています」
2025年7月23日にリリースされるアルバム『アネモネ』にも成果が表れているという。
「1曲目の『Driving Summer』でも、『阿修羅のように』やラストの『いつもの坂道』でも、今回はあえて声を抑え情緒を意識して歌っています。ゴルフの体験から気づいたことでもあります」
楽しもうと始めたゴルフのなかに、音楽に役立つ発見があった。
「ゴルフは甘くはないので、レッスンを受けても、すぐに上達はしません。ああ、もうやだ! と、やめたくなったことが何度もありました。それでも続けていると、少しずつよくなっている自分に気づけます。歌もお芝居も同じです。努力がその日に実を結ぶことはめったにありません。でも、継続していると、ある日、かつての自分よりもよくなっていることに気づく。そういう1つ1つを体験すると、頑張り続けることができます」
