2024年10月23日、メルセデス・ベンツ G580 with EQ Technologyが発表された。発表会で明かされた、このクルマのカギとなるテクノロジーを紹介したい。
その場でぐるっと旋回する4輪独立モーターの威力
メルセデス・ベンツ G580 with EQ Technology(以下、G580)は、バッテリーに蓄えた電気だけで走るピュアな電気自動車(BEV)。2023年秋のジャパンモビリティショー2023でお披露目されたコンセプトEQGの市販モデルだと考えていいだろう。
メルセデス・ベンツのGクラスといえば、大排気量のガソリンエンジンや、ドスンという低速トルクを発生するディーゼルエンジンを搭載して豪快に走るというイメージがある。電動版Gクラスの魅力、ストロングポイントはどこにあるのだろうか。
アンヴェールされたG580を前に、メルセデス・ベンツ日本のゲルティンガー剛CEOは、「メルセデス・ベンツの頂点であると同時に、BEVの頂点です」と述べた。そして、「4輪を個別に制御するということは、筋肉をより細かくコントロールできることと同じです」と続けた。
続いて登壇したGクラスのプロダクトマネージャーを務めるトニ・メンテル氏が、G580の開発コンセプトで重要なのは以下の3点だと述べた。
- OFF-ROAD
- UNLIMITED
- EST.1979
もっとも重要だとするオフロード性能については、4輪にモーターを配置し、それぞれを個別にコントロールすることでエンジン車と同等か、それ以上の悪路走破性能を実現したという。たとえば、がけ崩れや倒木で進路がふさがれていた場合に、その場で旋回ができる「G-TURN」という機能が備わる。また、4輪のトルクをコントロールすることで、後輪軸を中心に旋回する「G-STEERING」という機能は、回転半径を大幅に縮小するとのことだ。
こうした特性や機能によってGクラスの「UNLIMITED」という持ち味はさらに強まっている。また、渡河水深はディーゼルモデルであるG450 dの700mmを上回る850mmとなっているから、オフロード性能が向上し、制限のない行動範囲を獲得していることは間違いない。
「EST.1979」とは、四半世紀にわたって世界中で愛されてきたGクラスの歴史を継承するということで、特徴的なドアハンドルやフロントフェンダー上部のウィンカーレンズなどは内燃機関モデルと変わらないから、ゲレンデのファンも納得するはずだ。
ディティールだけでなく、屈強なはしご型のフレーム(ラダーフレーム)を用いる基本構造も踏襲し、なおかつ重量物のバッテリーを格納すべく、ラダーフレーム構造はさらに強化されているとのことだ。
充電ネットワークにも一石を投じる
G580の発表会では、もうひとつ興味深いアナウンスがあった。メルセデス・ベンツ・ハイパワー・チャージング日本合同会社(以下、MBHPCJ)という新会社を設立して、高出力EV充電ネットワークの構築を進めるというのだ。
EV充電事業のパートナーにはパワーエックスが選ばれ、同社が製造するHyperchargerを出荷するほか、チャージステーションの候補地の選定から運営までを支援するという。
前出のゲルティンガー剛CEOによれば、現在の日本市場のBEVの比率は2%弱で、メルセデス・ベンツが10%弱。ただし、どこかで必ずBEV シフトが起こるはずで、それまでに「BEVといえばメルセデス・ベンツ」というスキームを築きたいとのことだった。
MBHPCJの充電ステーションの計画は、今後2年間で25拠点、100口とそれほど多くはないけれど、パワーエックスの最新技術を活用して最先端のチャージング網を構築するという。まずは量より質、ということだろう。
Hyperchargerの標準モデルと対応車種を組み合わせた場合は、10分程度の充電で約150kmの航続距離をまかなうという。しかも専用アプリを用いることで、予約から決済、充電までスマートフォンで完結するというから、これまで「充電が面倒だから……」と二の足を踏んでいた層にも響くはずだ。
G580の登場は、単純にひとつの車種に電気自動車が追加されたというだけでない。BEVだからこそクルマのパフォーマンスの可能性を広げられることを示したり、充電インフラの拡充のきっかけとなるなど、広範囲に影響を及ぼすはずだ。
問い合わせ
メルセデス・コール TEL:0120-190-610
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。