2022年に発表されたフォルクスワーゲンID.BUZZの日本への導入が決まった。愛嬌のあるキャラクターに目を奪われがちであるけれど、試乗してみると中身はレトロとは正反対だった。
ワーゲン・バスが帰って来る!
このニュースを聞いて、わくわくするクルマ好きやフォルクスワーゲンのファンも多いだろう。
1960年代から70年代にかけて、フォルクスワーゲン・タイプⅠ(いわゆるビートル)をベースに開発されたミニバン・スタイルのタイプⅡは、ワーゲン・バスの愛称で親しまれた。あの愛嬌のあるキャラクターと広々とした空間の組み合わせが、いよいよ復活するのだ。
2022年春に発表されたフォルクスワーゲンのID. BUZZは、同社の電気自動車専用プラットフォーム「MEB」を用いたBEV(バッテリーに蓄えた電気だけで走る純粋な電気自動車)で、まさにワーゲン・バス”を彷彿とさせるスタイリング。このID.BUZZが2024年後半に日本に導入され、遅くとも2025年にはデリバリーが始まることが決まった。ひと足早く、ドイツで試乗することができたので、その印象を報告したい。
現時点でのID.BUZZのバリエーションは4種類。
まずボディは2種類で、標準仕様とホイールベース(前後のタイヤの間隔)が250ミリ長いロングホイールベース(LWB)仕様。標準仕様は2列シート、LWBは3列シートとなる。
パワートレインも2種類で、最高出力286psの標準仕様(後輪駆動)と、最高出力340ps のGTX(4輪駆動)。
このボディとパワートレインの組み合わせで、計4つの仕様が存在している。現時点ではどの仕様が日本に導入されるかは決まっていないとのことで、4つのバリエーションすべてが入ってくる可能性もあるという。
今回試乗したのは、LWBの標準パワートレインとLWBのGTXの2モデル。まずホワイトとネイビーのツートンに塗られた標準パワートレイン仕様からスタート。
運転席に座ってみると、ダッシュボード中央のタッチスクリーンにインターフェイスが集約されているために、物理的なスイッチやダイヤルが見当たらない。インテリアはすっきりとしている。
いざ走り出すと、BEVらしくスムーズで静か。加えて、乗り心地も快適だ。重量物のバッテリーを床下に配置するBEV専用プラットフォームを用いることから重心が低い。そのため、足まわりを固くしなくてもグラッと傾くロール(横傾き)を抑えられるから、しなやかな乗り心地が実現した。
標準のパワートレインでもパワーは充分。アウトバーンの制限速度130km/hの区間でも余裕を持って追い越し車線を走行できたから、日本でパワー不足を感じることはないはずだ。
特筆すべきは静粛性の高さ。背の高いミニバンは風を受ける面積が大きいので、走行中に風を切る音が大きくなりがちであるけれど、ID.BUZZの室内はいたって静穏。担当者によれば、ウインドウに遮音材を配備することが大きな効果を発揮したとのことだ。
2列目シートはシートの掛け心地もよく、スペース的にも広々としている。前述したように静かで乗り心地も良好であることから、仮に日本に導入されたとしたら、ショーファーカーとして使うのもおもしろい。オンラインミーティングもスムーズに進行するはずだし、このクルマから降り立つエグゼクティブは、いい人そうに見える。
続いて、赤とシルバーのツートーンに塗られたハイパワー版のGTXに乗り換える。こちらは明らかにパワフルで、アクセルペダルをガバチョと踏み込むと、強力な加速Gで身体がシートに押し付けられる。
足まわりもスポーティなセッティングになっていて、ワインディングロードでは車体のサイズを忘れるほど軽やかなフットワークを見せる。
快適に移動するなら標準仕様、ファン・トゥ・ドライブを求めるならGTXと、うまい具合にキャラクターの棲み分けができている。
両者に共通しているのが、ハンドル操作をアシストしながら先行する車両に追従する、運転支援機能が優秀であること。エンジンよりレスポンスがいいモーターの助けもあって、滑らかに加減速する。試乗車には制限速度などの標識を読み取る機能が備わっていたことから、たとえば制限速度が130km/hから110km/hに下がると、それに対応して速度を設定してくれる。
アクセルもブレーキも操作せずに、ハンドルに軽く手を添えているだけで走るから、長距離移動や渋滞では本当に楽ちんだ。まだ自動運転ではないけれど、いずれやってくる未来を感じさせてくれる。
スタイリングこそワーゲンバスを思わせるけれど、中身はレトロでもノスタルジーでもない。電動化といい半自動運転といい、ID.BUZZは自動車の最前線を突っ走っているモデルだった。日本で乗る日が待ち遠しい。
問い合わせ
フォルクスワーゲンカスタマーセンター TEL:0120-993-199
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。