DSオートモービルが、2024 年春より全車両にChatGPTを搭載している。AIと一緒にドライブをすると、どんな体験が待っているのか? 試乗してみた。
目的地設定がうまくいかない!
ChatGPTを搭載したクルマが、日本の道を走りはじめている。ChatGPTによって、ドライブはどう変わるのか? なにができるようになるのか?
これを確かめるべく、広報車を借り出してみた。
自動車ブランドとして、日本で初めてChatGPTを搭載したのはDSオートモビル。もともとはシトロエンの高級サブブランドであったDSは、2014年に独立したブランドとなり、現在はシトロエン、プジョー、フィアット、アバルト、アルファ・ロメオ、ジープといったブランドとともに、世界第4位の自動車グループであるステランティスを構成している。
2024年春より日本で販売するすべてのモデルにChatGPTを搭載するようになったDSオートモビルのラインナップで、最もコンパクトなDS3のディーゼルエンジン仕様、DS3オペラBlueHDiに試乗して、ChatGPTを試した。
いま一度おさらいをしておくと、ChatGPTとはOpenAI社が開発した対話型の生成AI(Artificial Intelligence)。多くの情報を学習することで、さまざまなフィールドの質問に素早く答えてくれる。DSオートモービルは、アメリカのシリコンバレーに本拠を置くSoundHound AI社が開発した音声認識のプラットフォームを、ChatGPTに組み合わせたという。
パリ生まれをアピールするDS3のインテリアはきらびやかで、いつ見てもハッとさせられる。外観も含めて、デザイン的に最もイケイケの自動車ブランドだろう。けれども今回はChatGPTのインプレッションということで、そのあたりは本稿ではあえてスルーしたい。
クルマを運転するにあたってのChatGPTの使い道だと、あたりまえだけれどカーナビの目的地設定が浮かぶ。ところが、これがうまくいかない。「東名高速の足柄サービスエリア」と伝えたところ、ニュース番組やYouTubeで耳になじみがあるAI女声(?)で、九州の北の海辺の町を指定された。指示通りにそこまで行ったらおいしいイカにありつけそうだけれど、到着する頃には日が暮れて、夜が明けてしまう。
なんどか試して、ようやくコツがつかめた。いきなり目的地を伝えるのではなく、まず、「OK,IRIS(アイリス)」と話しかけて、DSオートモービルの音声認識ツールである「DS IRISシステム」を呼び出す。IRISが反応したところで、「目的地を設定」と伝える。するとIRISが「どちらに目的地を設定しますか?」と聞いてくるので、そこでおもむろに目的地を伝えると、2回に1回は正しい目的地を設定してくれる。なんというか、ChatGPT様に気を使って、人間がへりくだるような感じになる。
グーグルマップやメルセデス・ベンツの音声操作のインターフェイスであるMBUXは、いきなり目的地を伝えてもほぼ一発で目的地を設定してくれるから、それに比べるとChatGPTはいまいち期待外れだ。
ほかのインターフェイスと比べると、たとえばオーディオの楽曲選択でも遅れをとっている。iPhoneをクルマに接続してCarPlayを立ち上げ、Siriに話しかけてiTunesの楽曲を呼び出すほうがはるかに素早く、正確だ。
う〜ん、ChatGPT、アメリカのドラマ『ナイトライダー』に登場するスーパーカーみたいに、会話をするとすべてお見通しで、的確なアドバイスを送ってくれるのかと思ったら、そういうわけではなかった。
これが正しい使い方なのか!?
ここで、試乗前日に予習のために視聴した、DSオートモビルの動画を思い出す。その動画ではドライバーが「マスの料理方法」を尋ねていたので、「パンケーキの作り方」を質問する。
すると! 懇切丁寧にレシピから材料の分量、留意するポイントまで、すらすらと出てくる、出てくる。
公式動画には、パリの街の案内を依頼するシーンもあったので、通過中の御殿場の街について尋ねてみる。すると気候や歴史、観光地に至るまで、これまた出てくる、出てくる。
どうやら、ChatGPTが期待外れだったのではなく、使い方にも問題があったようだ。カーナビの目的地設定とか、聴きたい曲を選ぶというような、考えなくてもできることは簡単過ぎて、ChatGPTの守備範囲ではないのかもしれない。
ChatGPTにしてみれば、「自分、もっと高度な仕事をするんで、そのへんの単純作業はだれかやっといてください」という感じなのだろう。クルマ界の常識から、つい目的地設定とか音楽を呼び出すことに役に立つという思い込みがあったけれど、そうではなさそうだ。ChatGPTを使いこなすためには、人間にも使い方を学習することが必要なのだ。
最後に、「米津玄師と藤井風、どっちが好き?」と聞いてみると、「どちらも人気のあるミュージシャンですが、音楽の好みは人によって違います」という無難な答のあとで、それぞれの代表曲を例にあげながら、ミュージシャンとしての魅力を解説してくれた。
なるほど。じゃあ、その代表曲を聞こうと思って、曲名があがった米津玄師の「さよーならまたいつか!」をオーディオで流してとリクエストすると、ChatGPTは沈黙してしまうのだった……。はい、楽曲を選ぶような単純作業は、人間がやらせていただきます。
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サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。