群雄割拠のプレミアムSUV市場にあって、異色の存在がレンジローバーだ。派手に盛るのではなく、削ぎ落とす方向で贅沢さを表現しているからだ。同ブランドの最新のプラグインハイブリッドモデルに試乗してみた。
控えめで上質なラグジュアリー
「結局のところ、ゲレンデとレンジとカイエンのどれが一番いいの?」というのは、答えるのが難しい質問だ。価格帯やサイズ感は近いけれど、それぞれの持ち味はまったく異なるからだ。
ただし、日本で2025年モデルの受注が始まったレンジローバーの試乗会に参加して、「ナンボのもんじゃぁ!」とオラつくのではなく、控えめであるけれど上質な暮らしをおくりたいという方には、このブランドが最適であるという結論に達した。試乗したなかでも最も印象がよかった、プラグインハイブリッド車(PHEV)のレンジローバーAUTOBIOGRAPHY P550eを紹介しながら、その理由を説明したい。
このクルマの外観の特徴は、凹凸や飾りを極力排したトゥルンとした造形となっていることだ。金属の塊や石を磨き上げたかのような質感で、シンプルでありながらオーラがある。
感心するのは、シンプルでモダンというエクステリアの世界観が、インテリアにも通底していることだ。シフトセレクターやボタンといった出っ張りは手元に集約されているから、ドライバーの視界に入る景色はトゥルンとしている。
外観とインテリアの雰囲気がまるで別物というクルマもあるなかで、レンジローバーの場合はきちんと統一されている。だからクルマに近づき、ドアを開け、車内に乗り込んでインテリアに囲まれるという一連の時間の流れが滑らかで、心地よい。
PHEVという仕組みを簡単に説明すると、外部電源から充電することができるハイブリッドだ。電気が充分にある時は電気自動車として走り、電気が減るとエンジンが始動する。さまざまな走行モードが用意されていて、充電しながら走るということもできる。たとえば、深夜の住宅街に帰宅する際や、早朝のキャンプ場に乗り入れるときなど、「ここぞ!」というポイントで無音の電気自動車に変身する、という乗り方も可能だ。
試乗車は電気がたっぷり充電されていたので、まずは電気自動車としてスタートする。波ひとつない穏やかな海を大型クルーザーで進むようなエアサスペンションの乗り心地と、無音・無振動のEV走行の相性は抜群で、身体がとろけそうになる。
フル充電の状態でEV走行ができるのは理論的には120キロ、現実的には100キロ弱とのことで、ウィークデイの買い物や送迎程度なら、エンジンの出番はないかもしれない。
駐車場から出るときに気づいたのは、全長5メートルを超える巨体でありながら取り回しが楽なこと。後輪も舵を切るシステムのおかげで、最小回転半径は5.3メートルと、コンパクトな実用車並みの値となっている。これなら玉川高島屋の駐車場や銀座6丁目の路上パーキングスペースでも困ることはないだろう。
電気が少なくなってきたところで、エンジンがひっそりと始動する。ここが大事なところで、いくらEV走行時に静かでも、エンジンが大音量と振動とともに炸裂すると、それまでの静謐さとのギャップでめっちゃうるさく感じるのだ。
その点、意地悪に観察していないと気づかないくらいおしとやかにエンジンが始動するこのクルマは、乗る人の気持ちがよくわかっている。
エリザベス女王陛下も愛したブランド
エンジンと電気モーターが連携するハイブリッド走行は、ただ快適というだけでなく、ファン・トゥ・ドライブも味わわせてくれる。というのもエンジンとモーターはそれぞれに一長一短があり、ふたつを組み合わせることで短所を消し、長所を伸ばすことができるからだ。
まずエンジンは、ある程度まで回転を上げると力を発揮するという特性がある。だから低速が苦手で、そのかわり高速はカーンと気持ちよく伸びる。いっぽう、電流が流れた瞬間に最大の力を発揮するモーターは低速が得意。けれども、高速では伸び悩む。
したがって、低速はモーターのがんばりでレスポンスよく走り、高速ではエンジンが活躍するこのクルマは、エンジン車とも電気自動車とも異なる運転の楽しみがあるのだ。
プラグインハイブリッドは燃料消費を抑え、CO2を削減するための仕組みだ。けれどもそれだけでなく、静かで滑らかな快適性と、楽しいドライビングを提供するメカニズムでもある。
大船に乗ったかのような乗り心地を提供してくれたエアサスペンションは、速度が上がると今度は安定した姿勢を保つように働く。スポーツカーのようにギュンギュン曲がるわけではないけれど、美しい姿勢できれいな弧を描いてカーブを曲がる。スポーツカーがショートトラックのスケート選手だとすれば、レンジローバーはフィギュアスケートの選手だ。
というわけで、このクルマは見ても乗っても上品で、しかもドライビングの奥深さも堪能できる。なぜ、レンジローバーはギラつかないのに贅沢さを感じさせてくれるのか。
試乗を終えてから頭に浮かんだのは、ロイヤル・ワラントという言葉だ。これは、簡単に言えば英国王室御用達ということ。ただしロイヤル・ワラントを授ける基準は厳しく、実際に王室の方が愛用していなければ認められない。
このブランドは、エリザベス女王がご存命だった頃に、女王と故エディンバラ公、そしてプリンス・オブ・ウェールズ(現在のチャールズ国王)の3名からロイヤル・ワラントを授けられていた。英国王室から愛されるクルマで、やんごとなき人々をもてなし、楽しませてきた歴史とノウハウは伊達ではないのだろう。
そんな史実を掘り起こしたくなるほど、レンジローバーAUTOBIOGRAPHY P550e PHEVは優雅なクルマだった。
問い合わせ
ランドローバーコール TEL:0120-18-5568
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。