1974年のデビュー以来、「ベーシックカーのマイルストーン」であり続けるのがフォルクスワーゲン・ゴルフ。このクルマが世界のベストセラーであり続ける理由を、ドイツ取材で探った。
実用車であるけれど、ただの移動の道具ではない
世に傑作と呼ばれるモデルはいくつかあるけれど、フォルクスワーゲン・ゴルフも間違いなくそのうちの1台だ。1974年に初代がデビューして以来、50年にわたって「実用乗用車のメートル原器」というポジションを維持しているからだ。いまだに、世界中の自動車メーカーのエンジニアが、ゴルフを目標にしているのだ。
ゴルフは自動車として優秀であるだけでなく、50年間で3700万台以上が販売されるほど愛されてきたクルマでもある。筆者は2014年にオーストリアのヴェルター湖という美しい避暑地で行われるフォルクスワーゲン・ゴルフGTIの巨大オーナーズミーティングを取材して、驚いたことがある。5月の週末の3日間に、全ヨーロッパから延べ20万人が愛するゴルフに乗ってこのイベントに押し寄せ、飲めや歌えの大騒ぎ、大変な盛り上がりを見せていたからだ。
ヴェルターゼーという愛称で呼ばれたこのイベントは、「環境負荷に耐えられない」という地元自治体の要請で、残念ながら2023年に中止になってしまった。要は人が集まり過ぎたのだ。そこでフォルクスワーゲンは2024年より、本社のあるドイツ北部のヴォルフスブルクでオーナーズミーティングを開催することに決めた。
それが2024年7月26日(金)から28日(日)にかけて開催された「GTI FAN FEST 2024」で、イベントのテーマは「ICONS COMING HOME」。計2500台、1万5000人以上のファンがゴルフの生まれ故郷に“帰省”した。
イベント初日の朝、ヴォルフスブルグの街にはところどころ渋滞が発生するほどゴルフが集まり、会場に入ると駐車場に主にGTIを中心にした新旧のゴルフがずらりと並んでいる。感心したのは1974年に発表された初代(ゴルフⅠ)や1983年に登場した2代目(ゴルフⅡ)が多いことで、ものすごく高価なスーパーカーではないけれど、大事に、大事に乗られているのだ。
ゴルフⅠやゴルフⅡがいま見ても古臭くなっていないことも驚きで、おそらく流行に乗って飾り立てたデザインではなく、機能を極めたシンプルなスタイリングだからエバーグリーンなのだろう。ちなみに初代ゴルフのデザインを手がけたのは、自動車デザインの巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロ氏である。
会場に足を踏み入れると、歴代のゴルフが展示されているほか、チューニングやカスタマイズのショップも出店しており、会場を何周しても飽きるということがない。飲食も充実しており、名物のカリーブルスト(カレーソーセージ)を頬張る来場者も頻繁に見かける。愛車自慢が行われる特設ステージにはたくさんの人が集まり、インタビューに答えるオーナーには盛大な拍手がおくられた。
1台のクルマのオーナーズミーティングにこれだけの人が集まり、盛り上がるということに驚くと同時に、大いなる感銘を受けた。スペースの関係で来場者を事前登録制としたことから、勝手に人が集まってきたヴェルター湖のイベントのような規模感はないけれど、それでもみなさん熱心で、目を輝かせながらイベントに参加している。限定2000枚の「GTI Tシャツ」は初日に完売したというから、恐れ入る。
以前、ドイツのジャーナリストから、こんな言葉を聞いたことがある。
「もし大学の構内で教授と学生が同じクルマに乗っているとしたら、それはフォルクスワーゲン・ゴルフだ」
つまり、クラスレスな存在ということだ。今回のイベントでも、ゴルフが年齢、性別を問わず、幅広い方々から愛されていることがわかった。ゴルフは実用車であるけれど、ただの移動や運搬の道具ではなく、ともに暮らす家族のような存在なのだろう。
いまも乗用車のスタンダードであり続ける
イベントで“ゴルフ愛”を肌で感じた後は、ヴォルフスブルク近郊で、最新のゴルフに試乗した。
2019年にお披露目された8代目のゴルフは、2024年に大きな改良を受けた。改良が広範囲におよぶことから、「ゴルフ8.5」とも呼ばれている。前後のライト類やバンパーの形状が変わった外観はシュッとした印象になったけれど、より大きな変化があったのは内装だ。
センターに12.9インチという大型のタッチスクリーンが置かれ、これがナビゲーションや車両セッティングなどのインターフェイスを司る。このタッチスクリーンの使い勝手が大幅に向上して、快適に操作できるようになった。具体的にはスクリーンの最上段のソフトスイッチが備わり、ここを操作するとワンアクションで必要な情報にたどり着ける。操作のデジタル化が一気に進んだ印象だ。
試乗したのは1.5ℓガソリンエンジンに48Vのマイルドハイブリッドシステムで、最高出力116psはゴルフ8.5のラインナップ中で最も低い。けれどもモーターのアシストのおかげで市街地からアウトバーンまで、ストレスなく走ることができた。ベーシック仕様でもパフォーマンスは充分で、「最廉価版でも満足できる」というのはゴルフの伝統だ。
アウトバーンで試したのは、追従型のクルーズコントロールと車線維持機能を組み合わせた“Travel Assist”と呼ばれる運転支援装置。これを作動させると、ドライバーはハンドルに手を添えているだけでスムーズに走ってくれる。速度制限の標識を読み取る機能も備わることから、スピード違反の不安も軽減してくれる。
足まわりのセッティングを変更できるアダプティブシャシーコントロール“DCC”による快適な乗り心地もあって、高速道路を長距離移動しても疲労が非常に少なくなっている。もう少し先の話になるけれど、自動運転の未来が見えたような気がする。
冒頭に記した通り、ゴルフは実用乗用車のメートル原器でありスタンダードであるから、走行性能などの基本性能はこれまでも高かった。そこにデジタル化、電動化、半自動運転といった最新の自動車技術がバランスよく盛り込まれているのがゴルフ8.5だった。この先も、自動車メーカー各社の目標となり続けるはずだ。
日本では2024年9月より受注開始、2025年の年明けよりデリバリーが始まるとのことだ。
問い合わせ
フォルクスワーゲンカスタマーセンター TEL:0120-993-199
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。