世界的な人気モデルであるメルセデス・ベンツのGクラスは、オーダーすらできないという異常事態にあった。大がかりな改良を受けて、再び脚光を浴びる新しいゲレンデを紹介する。
長年にわたってGクラスが形を変えなかった理由
「ゲレンデが買えない……」
ここ数カ月、そんな声を何度も耳にした。ゲレンデヴァーゲンこと、メルセデス・ベンツGクラスの受注が中止されていたのだ。ディーラーに行っても注文を受けつけてもらえないということは、ウェブサイトや雑誌の誌面で紹介しても無意味ということになる。むしろ、「webで見たのに買えないとはどういうことだ!?」というクレームにつながりかねないので、メルセデス・ベンツ日本の広報車両のラインナップからも、Gクラスは姿を消していた。
「ゲレンデ、どこへ行っちゃったのだろう?」
この質問の答が、2024年7月26日に出た。2018年の2代目Gクラスの発表以来、最大の改良を受けた新型Gクラスがお披露目されたのだ。大がかりな変更を施したニューモデルを投入する切り替え期だったために、しばし市場から撤退していたのだ。
では、新しいGクラスはどこが変わったのか? これを紹介する前に、このクルマが唯一無二の存在になった歴史について簡単にふれておきたい。
1979年にデビューした初代Gクラスは、NATO軍に制式採用された軍用車両の民生版だった。正式採用ではなく制式採用というところがガチで、安易にメカニズムや部品を変更することは許されなかった。
というわけで、1979年から2018年の長きにわたって、基本的な構造を変えずに初代Gクラスは作り続けられた。そうこうするうちに、あの無骨なたたずまいがある種のアイコンとなった。「成功したらゲレンデに乗ろう」という人の期待を裏切るわけにはいかないので、2018年にデビューした2代目は、初代のスタイルを踏襲した。
カッコだけでなく、ドアを閉めた時の「ガキン」という感触や、走り出してオートロックが鍵を閉める時の「ガチャコン」という音も、初代のものを再現しているところに、メルセデスの本気を感じた。つまり結成45年の老舗ロックバンドが、昔の音を再現するために最新の音響テクノロジーを使う、みたいなことになっている。
こうした史実を踏まえて、新型メルセデス・ベンツGクラスを紹介したい。
Gクラス初となる機構も搭載された
前述した理由から、新型Gクラスのスタイリングはほとんど変わっていない。厳密に言うと運転席・助手席の斜め前方の柱(Aピラー)や、フロントのスポイラー、ボンネットの形状が微妙に変わっているらしい。「らしい」というのは、新旧2台を並べてみないと認識できないくらいの微妙な変化で、“間違いさがし”レベルの違いしかないのだ。
ただし、こうした微細な変更が、風切り音の低減や空力特性の向上による燃費性能の向上をもたらしたという。
では何が大きく変わったのかというと、まずエンジンが変わった。日本に最初に導入されるのはメルセデス・ベンツ G 450 d ローンチエディション(ISG搭載モデル)と、メルセデスAMG G 63 ローンチエディション(ISG搭載モデル)の2モデル。
前者は3ℓ直列6気筒ディーゼルターボエンジン、後者は4ℓV型8気筒ツインターボエンジンを積むが、いずれもISGと48V電気システムと組み合わされる。ひらたく言うとマイルドハイブリッドということで、ついにGクラスもいよいよ電動化されることになった。
これまでのメルセデス・ベンツの各モデルは、モーターの力でアシストするマイルドハイブリッド化によって、加速は滑らかになり、静粛性と燃費が向上した。新型Gクラスも、上質な走行フィールと省燃費の面で前進すると予想できる。
電動化とともに、メルセデス・ベンツGクラスに初めてMBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザー・エクスペリエンス)が搭載されることもトピックだ。
「ハーイ、メルセデス」と呼びかけると、カーナビの目的地設定からオーディオの楽曲選択、エアコンの調整までやってくれるインターフェイスが、Gクラスにも採用されたのだ。モデルチェンジ前のオーナーからすると、うらやましい改良だろう。
ほかに気になったポイントは、G450dにこれまでオプションだったアダプティブダンピングシステムが標準装備になることや、クルマのキャラの変化を司るDYNAMIC SELECTに「Trail」「Rock」「Sand」の3モードが追加されたことだ。
つまり乗り心地をさらに快適にする機構と、オフロードでの機動力をさらに引き上げる制御が加わっている。
というわけで、スタイリングは変わらず、パワートレインは時流にあわせて進化、快適性とオフロード性能の向上にさらに注力、というのが新しいGクラスのざっくりとした概要だ。ファンにとっては理想的な変化だと思われるが、いかがだろう。
機会を見て、実際に試乗してのフィーリングをお伝えしたい。
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メルセデス・コール TEL:0120-190-610
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。