好きな人も、嫌いな人も気になるのがメルセデス・ベンツのGクラス。V8エンジンを積む最強モデルに試乗した。
2024年にマイナーチェンジしたGクラス
クルマ好きの間で好き嫌いがわかれるモデルのひとつが、メルセデス・ベンツのGクラスだろう。
ゲレンデ否定派(以下、否)「なんであんなに乗り心地の悪いクルマに、2000万も3000万も支払うのか」
ゲレンデ肯定派(以下、肯)「1979年に初代モデルが登場して以来、悪路の走破性を追求するブレのない開発姿勢から、あの乗り心地になっている」
否「では伺うが、ゲレンデ乗りの何%が、フロント、センター、リアの3つのデフロックを駆使して悪路を走るのか」
肯「300m防水のダイバーズウォッチと同じで、“できるけどやらない”と、“できない”の間には天と地ほどの差がある」
といった具合に、議論は白熱する。ま、0点をつける人と100点満点を与える人にわかれるくらい個性的なクルマだということでもある。
このGクラスが、2024年にマイナーチェンジを受けた。ゲレンデはどのように変わったのか、あるいは変わらなかったのか。排気量4ℓのV型8気筒ツインターボエンジンを搭載した高性能版、メルセデスAMG G63に試乗した。
暴れ馬をねじ伏せる
V8エンジンを始動してまず行うことは、「ハーイ、メルセデス」と話しかけて、ナビゲーションの目的地や空調、オーディオをセッティングすることだ。Gクラスに、初めて音声コマンド機能のMBUXが備わったのだ。
アクセルペダルに足を載せて、軽く力を込めるだけで、G63はすーっと滑らかに加速する。それには理由があって、このV8ガソリンも直6ディーゼルも、エンジンのスターターとモーター、そして回生ブレーキによる発電という“一人三役”を担うISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)が備わるようになったのだ。
ISGは最高出力こそ20psとそれなりであるけれど、クルマを押し出す力であるトルクは最大で208Nmも発生する。軽自動車が60Nm程度であることを考えると、停止状態からの発進加速が力強く、スムーズになっていることに、ISGが大いに貢献していることは間違いない。
ISGは燃費向上のためのシステムであるけれど、発進加速を滑らかにしたり、変速をスムーズにしたり、エンジンのフィーリングやパフォーマンスを洗練・向上させることにも寄与している。事実、マイナーチェンジ前、つまりISGが備わらないモデルに比べて、0-100km/h加速のタイムは0.1秒短縮して、4.4秒となっている。
“ゼロヒャク”が4.4秒ということは、ポルシェ911カレラTの4.5秒より速いということ。車重2.5トンを超える超ヘビー級のG63をフル加速させると、V8の咆哮が車内に満ちて、とんでもない迫力になる。同時に、ドライバーは、俺はこの暴れ馬をねじ伏せているんだという満足感を得ることができる。
オフロード性能優先は譲れない
では、乗り心地はどうか?
マイナーチェンジによって、かなり乗用車っぽくなったのは間違いない。路面コンディションや走り方に応じて足まわりのセッティングを変えるアダプティブダンピングシステムに、AMGアクティブライドコントロールサスペンションが組み合わされるようになり、特に中高速コーナーが連続するような場面では身のこなしが滑らかさを増した。
ただし、市街地や山道で感じる、新品のリーバイス501のようなゴワゴワ感は依然として残る。
SUVは大きくふたつにわけることができ、そのひとつは本格的なオフロード走行を想定したラダーフレーム構造だ。これは屈強な梯子型のフレームにサスペンションを直接取り付ける堅牢な構造で、悪路での耐久性が高いいっぽうで、路面からの衝撃が乗員にダイレクトに伝わる(=乗り心地が悪い)という弱点がある。
ラダーフレーム構造を採用するのはGクラスのほかにジープ・ラングラーやトヨタ・ランドクルーザー、スズキ・ジムニーなど、いまや少数派。スタイルはSUVであっても、乗用車と同じフレーム構造を採用するモデルが多くなっている。
新しいGクラスも、圧倒的な悪路走破性能と引き換えに、基本骨格とボディが別々に動くように感じる、ラダーフレーム構造らしい乗り心地は引き継いでいる。つまりG63のゴワゴワした乗り心地は、オフロードでの強さを徹底的に追求するという、頑固一徹な哲学の表れなのだ。乗り心地が悪いというよりも、頑固なクルマなのだ。
というわけで冒頭の議論に戻って、「オフロード最優先なのはわかるけれど、新車から手放すまで一滴の泥も着かないでしょ?」ということになる。ただし、バタバタとするタイヤをなだめながら、V8の暴力的なパワーをコントロールしていると、クルマと一対一で向き合っている、タイマン張って勝負している、という気になるのは事実だ。なんでもかんでも便利になった世の中で、成功した方がゲレンデを選ぶのは、ヒリヒリするほどのダイレクト感がたまらない、という理由もありそうだ。
ゲレンデ否定派のなかには、「だって都市部はG クラスが多すぎる」という主張する人もいる。今回、45年前の初代モデルとほとんど変わらないGクラスを見ながら、多すぎることは気にならないと感じた。
仮に、超豪華メンツが揃った夢の夏フェスが行われたとする。
B’zも、ガンズ・アンド・ローゼズも、レッド・ツェッペリンも、イーグルスも、ギタリストはみんなギブソンのレスポール。でも、「レスポール多すぎ」という感想を持つ人はいないはずだ。おそらくみなさん、「レスポール格好いい」と思うはず。同じように、どれだけ増えてもゲレンデは格好いい。形を変えずに作り続けてきたメルセデス・ベンツの勝ちだ。
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