ART

2026.09.01

あのフェルメール「真珠の耳飾りの少女」が4度目の来日中

フェルメールの絵に魅せられた人はこの画家が残した作品を訪ね歩く。まるで巡礼のように、ヨーロッパへ、アメリカへ。スコットランド、アイルランドにも。会いに行く旅を続ける幸せ、ときに絵が会いに来てくれる喜びを噛みしめながら。

あのフェルメール「真珠の耳飾りの少女」が4度目の来日中
展覧会のアンバサダーはオランダ生まれのミッフィー。ミッフィーも耳飾りはそこにするの?

時代を超えた神秘性をまとう名画

画家ヨハネス・フェルメール。17世紀オランダで活躍した画家。生涯で描いた絵は50点足らずと言われ、本展公式図録によれば、37点現存としている(真贋をめぐって諸説あり)。一度、彼の絵に魅せられると、その全作品を見ることを生涯の旅のテーマとするファンも多い。現存点数からも全点鑑賞も不可能ではない。あ、1点、盗難に遭ったままの作品があるので、それを除けばと言う話。作品はオランダ、フランス、イギリス、ドイツ、アメリカなどの北半球の主要な都市に点在しているので、欧米の人にとっては鑑賞コンプリートがそれほど難しくはないのだろう。

また、日本でもたいへん人気があり、どの作品もサイズ的に大きなものは少ないので、しばしば日本にもやってきてくれる。今また、大阪中之島美術館にオランダのデン・ハーグにあるマウリッツハイス美術館から2点の貴重な作品が来日している。

その一つがフェルメールの絵の中でも最も有名で最も人気の高い《真珠の耳飾りの少女》だ。一度、見たら忘れられない絵というものがあるが、多くの人にとってこれもそんな絵の一つだろう。

ヨハネス・フェルメール《真珠の耳飾りの少女》1665年頃 © Mauritshuis, The Hague 内覧会にて撮影
ヨハネス・フェルメール《真珠の耳飾りの少女》1665年頃 マウリッツハイス美術館
内覧会にて撮影

暗い背景の中でこちらを振り返る少女。光るその大きな灰青色の瞳に掴まれる。もう一つ光かがやくのが大きな真珠の耳飾り。オランダの少女でありながら、頭には東洋的な色鮮やかな青いターバンを巻いている。

フェルメールがこの少女を描いたのは彼が33歳の頃とされている。誰か特定の人物ではなく性格やタイプを表現する「トローニー」と呼ばれるジャンルだそうだ。なので、表情は理想化され、異国風の装いを纏っていることで、時代を超えた神秘性を漂わせている。

ヨハネス・フェルメール《真珠の耳飾りの少女》1665年頃 油彩/カンヴァス 44.5 × 39cm マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague

この絵を所蔵するマウリッツハイス美術館は、アムステルダムから鉄道や高速道路で1時間以内で行けるデン・ハーグにある邸宅美術館だ。デン・ハーグはアムステルダム、ロッテルダムに次ぐオランダ第3の都市。このたび、美術館の改修工事による臨時休館に伴い、この少女が日本に旅してきた。

フェルメール作品を求めて、人は旅をする。そうして、一つずつ、自身のフェルメール地図にポイントをつけていく。一方、絵もまた旅をしてきてくれる。西洋の国から遠くこの東洋の果ての日本に今回もまた。今回も、というのは彼女にとって、日本は4度目の来日となるからだ。1984年に初めて東京に(このときは《青いターバンの少女》と呼ばれていた)、2000年は大阪に、2012年〜13年には東京と神戸に。そして今回となる。

僕は学生時代、1979年にマウリッツハイス美術館で初めて実物を見た。そのときには、フェルメールよりもレンブラントの絵を見ることに一生懸命で、この絵もここにあるんだなと思った程度だった。その後、2000年に大阪に来たので見に行った。確か2時間くらい並んだ。2012年には日本で。このときは美術記者になっていて、内覧会で見た。そして、3年前、2023年マウリッツハイス美術館を訪れ、そこで再会した。

3年前、マウリッツハイス美術館で撮影した《真珠の耳飾りの少女》。クロスを張った壁もここが邸宅美術館であることを主張している。

1984年の来日は国立西洋美術館「マウリッツハイス王立美術館展」、2000年は大阪市立美術館の日蘭交流400周年記念特別展覧会「フェルメールとその時代」で観客動員60万人という記録がある。2012年の「マウリッツハイス美術館展」東京都美術館と神戸市立博物館合計およそ120万人だった。

2017年のルーヴル美術館「フェルメールと風俗画の巨匠たち」では12点が集められ、2018〜2019年にも上野の森美術館と大阪市立美術館で「フェルメール展」が開催され、最大9点のフェルメール作品が展示されたがこのどちらの展覧会にも《真珠の耳飾りの少女》は入っていない。

近年、フェルメールの人気がこれほどまで高まった大きなきっかけは1995年〜96年、アメリカのワシントンナショナルギャラリーとオランダのマウリッツハイス美術館で開催された展覧会の影響が大きかったと言えよう。日本の雑誌でも、会期終了後であるにも関わらず、大きく取り上げられたりもした。

1995年〜96年、アメリカのワシントンナショナルギャラリーとオランダのマウリッツハイス美術館で開催され、それぞれ21点、23点の作品が集められ公開された。
1995年〜96年、アメリカのワシントンナショナルギャラリーとオランダのマウリッツハイス美術館で開催され、それぞれ21点、23点の作品が集められ公開された。

ちなみに僕は当時、別の編集部にいて、この特集には関わっていないものの、この号を見たときの衝撃はとても大きかったのを覚えている。タイトルの強さと相まって、やはりこの少女の眼差しには目が釘付けにされる。

2つの瞳の輝きとひときわ強い真珠の耳飾りの輝きが円弧を成して、そこから円を形成すれば、その中心には紅い唇がある。唇の端は潤い光っていることに動きを感じる。その唇から採ったのであろうBRUTUSのロゴの色が一層のインパクトを与えている。

それ以来30年。僕はいくつもの美術館に旅をしたし、絵も旅して来てくれて、すべてのフェルメール作品を見た。必ずしもそれぞれの絵を所蔵する館ではなく、各地の展覧会にやってきて、別の美術館で見た経験も含めてではあるが。今後、すべて、本来の所蔵館で見るというルールを課して、引き続き巡礼をしていきたいものだ。

1995年〜96年の展覧会で最大23点のフェルメール作品が集められたときはこのブルータスをはじめ、多くのメディアがもうこれ以上は無理と書いていたのだが、なんと、2023年、アムステルダム国立美術館で開催された「フェルメール展」では、28点が一堂に集められた。会期の途中で《真珠の耳飾りの少女》だけ、マウリッツハイス美術館に帰ったが。このときは、門外不出と定められているニューヨークのフリックコレクションが建物改修の時期で、その所蔵作品が加わったことが点数に寄与することになった。上記、マウリッツハイス美術館での《真珠の耳飾りの少女》の写真はそのときに撮影したものだ。

さて、今回の大阪中之島美術館「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展」にはフェルメール作品がもう1点来ている。《ディアナとニンフたち》。この絵はフェルメール20歳代前半に描かれた初期の代表作である。中央には古典神話における月の女神・ディアナ(三日月を象った髪飾りをしている)、周囲には女神に付き従うニンフ(森の精)たち、そして犬が、森の中で穏やかに過ごしている。誰もこちらに目を向けていない。画面には安らぎに満ちた穏やかな雰囲気が漂い、温かみのある色彩が特徴。

ヨハネス・フェルメール《ディアナとニンフたち》1653–1654年頃 油彩、カンヴァス 97.8×104.6cm マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague 内覧会にて撮影

そのほか、フランス・ハルス《男の肖像》、レンブラント・ファン・レイン《笑う男》、ヤン・ステーン《老いが歌えば若きが笛吹く》など全12点で展覧会は構成され、また、堂々たる大画面のシアターでフェルメールについて深掘りできたり、フェルメールが過ごしたデルフトという町の紹介、年譜もあり、作品の所蔵館が世界地図にポイントされていたりする。この地図は公式図録にも掲載されているのだが、なぜか内覧会でも撮影禁止だった。真贋をめぐる議論にでも関わるのだろうか。

展覧会チケットは抽選制で入手は困難かもしれないが今後まだ追加抽選があるようだ。詳細は展覧会公式サイトを参照してほしい。

フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展
チケットは抽選制。詳細はこちら

Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。

TEXT=鈴木芳雄

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