友人宅に急にお呼ばれした場合やちょっとしたプレゼント、自宅でのカジュアルなランチ会などの際に、近所のスーパーやデパートなどで5,000〜1万円で買える“ちょっといいワイン”を知っておくと大変便利なもの。おいしいのは絶対条件で、ちょっと蘊蓄も語れると最高ですよね。そんな「街中で買える、1万円以下の“お宝ワイン”」を、年間1000種類近いワインをテイスティングし、つねにおいしいワインを探し求めているワインブロガー・ヒマワイン氏がご紹介。

ワインが苦手な人に飲んでほしい
私は東京・恵比寿のワインショップ「ワインマーケットパーティー」によく行きます。理由は店長と友人だからで、ワインを買いに行くこともあれば、テイスティングバーのカウンターでワイン片手にお喋りに興じに行くこともままあります。
必然的に、最近のおすすめワインを聞くことも多いのですが、そんななかでも熱量高めにおすすめされたのが、今回紹介する「ラン・クロ」というワインです。価格は税込4,005円でした。
生産地はフランス・ボルドー。ボルドーのワインといえば、シャトー・なんとかみたいな名称で、果実味は控えめで渋みが強く、クラシックなフランス料理の濃厚なソースに合う、みたいなイメージがありますが、この「ラン・クロ」は、「そりゃ認識が古すぎですよ」と教えてくれるような1本です。
よく、ボルドーは貴族のワイン、ブルゴーニュは農家のワイン、なんてことが言われます。ボルドーに多い「シャトー」という名称からも、貴族が所有する土地で造っているというイメージがあり、農家が造ることが多いブルゴーニュには「シャトー」を名乗る生産者が少ない気がします。
今回の主役「ラン・クロ」は、ボルドーのワインでありながら、シャトー・なんとかではありません。生産者の名前はヴィニョーブル・ポンティ。ヴィニョーブルとはワイン農家のことで、つまりボルドー版の“農家のワイン”と呼びたくなる1本なのです。
そしてこのワインは昨今流行りの自然派ワインでもあります。ボルドーでありながらシャトーでなく、クラシックなスタイルでもない自然派ワイン。21世紀のボルドーっていう感じがします。
このスタイルを主導しているのが、2019年に5代目当主の座に就いた女性、エレーヌ・ポンティさんです。法律と経営を学んだのち、アメリカや中国で過ごし、その後生まれ故郷であるボルドーのフロンサックに戻ったという人物。
彼女は畑を引き継ぐとすぐにオーガニック農法・ビオディナミ農法を採用。人的介入を極力減らし、樽の風味を抑えた(『ブドウを覆うのではなく、引き立てる』と彼女は表現しています)ワイン造りをしているそうです。
ちょっとマニアックな話になりますが、このワインの2021年ヴィンテージで使用しているSO2(亜硫酸塩=酸化防止剤)の量は52mg/L。EUの規定では赤ワインの上限は150mg/L、オーガニックワインでも100mg/L。52mg/Lはかなり“少なめ”であることがわかります。
飲んでみると、「これがボルドーワイン!?」と驚くほどチャーミングな果実味が印象的です。ボルドーの赤ワインを形容するときに使われがちな「どっしり」「ずっしり」みたいな雰囲気はなく、軽やかで爽快な後味があります。フレンチレストランではなく、午後のバーベキューが似合う、そんなワインです。
公式サイトに直接の記載はありませんが、掲載されているポートレートを見る限り、ラベルに描かれているのはエレーヌさんご本人だと思われます。畑(=クロ)に佇む女性を描いた水彩画のイメージ通りの柔らかく、親しみやすい味がします。
変わりつつあるボルドーという産地。このワインは、それを象徴する1本であるような気がします。すべてのワインの入り口にこのワインがあったら、ワインは渋くてすっぱくて苦手、みたいな人は確実に減らせるのにな、みたいなことを思ってしまうような親しみやすさ。ぜひ一度味わっていただきたいワインがまたひとつ増えました。
ヒマワイン
年間約1000種類のワインを飲み、「ヒマだしワインのむ。」というブログを運営するワインブロガー。高いワインも安いワインも、地球上で造られるすべてのワインが好き。

