ここを訪れた人の多くが「言語化するのが難しい空間」と言うのは、それぞれが異なる感性を秘めていることの証明である。石川県にある特別な紅茶専門店「TEATON」を訪ねた──。【特集 会員制への誘い】

“知”と“想”の感性に触れる、会員制ティーサロンの比類なき世界へ
日本の空は、その日も安全で平和だった。羽田から1時間と少しで到着した小松空港は、いつもと変わらないのどかな風景で、飛行機の発着状況を知らせるアナウンスに「日本はなんと親切な国なのだろう」としみじみ思う。ふと、搭乗アナウンスを全撤廃し“サイレント・エアポート”と呼ばれるようになったヘルシンキの国際空港を思いだす。必要な情報は、自ら率先して得るべきものであり、“与えられる”楽さに甘えるうちに、個々が持つ感性が鈍化するというのは考えすぎか。
今回、石川県の加賀市を目指した理由は、会員制ティーサロン「TEATON」を訪れることだったが、この時はまだクローズドのスタイルを貫くその真意を摑めないでいた。
あるがままの心に還り感じるままの時間を
タクシーに乗りこみ、10分ほどで到着した「TEATON」は、利便性の高い国道沿いにありながら、かなり浮世離れしたオーラに包まれていた。ファッションに精通した人なら、必ず知っている「PHAETON(フェートン)」は同敷地内に店を構えるセレクトショップ。まるでカテドラルのような静謐(せいひつ)さを纏った空間には、オーナーの坂矢悠詞人(よしひと)氏が独自の審美眼で買いつけた洋服やニッチフレグランス、ヴィンテージの眼鏡が整然と並ぶ。
2020年に坂矢氏が会員制のティーサロンを開いたのは、世界中からこの場所を目指して買い物に訪れる人々が立ち寄ることのできる場をつくりたいという思いから。ネパール紅茶との出会いによって、その魅力に一気にのめりこんだという坂矢氏が選んださまざまな産地の紅茶とともに供するグルテンフリーのスイーツは、東京を拠点に活動するパティシエの鶴見昂(たかし)氏が監修。
会員のみが持つICチップ入りのカードキーで入店すると、そこに広がるのは時間ごとに移りゆく自然の光に包まれる開放的な空間だ。ガラス窓の外に日本の原風景を眺めながら視線をメニューに向けると、「たとえ薬を切らしても、紅茶はきらすな」という文言が。これは歴史上、偉大な英国人のひとりとして歴史に名を刻むウィンストン・チャーチル「たとえ戦地で弾丸が切れようとも、紅茶は切らしてはいけない」と厳命したエピソードになぞらえたもので、1杯の紅茶を飲むことで戦時下においても兵士や市民がせめて“日常”を感じられる時間を持てるようにという気遣いだったのではないかと推測する。
春雲が優雅に流れる空は、世界の紛争地帯にもつながっている。どうか早く平和が訪れますようにと悠長に願っていられる状況下にはないとしても、この日常と非日常のはざまのような時間が永く続くことを祈らずにはいられない。いつもより心の揺れを感じるのは、果たして紅茶の香りの魔法だろうか。
さり気なく配されたアート作品に囲まれて
おそらく人によって紅茶専門店「TEATON」の捉え方はさまざまで、「紅茶が最高に美味しいティーサロン」という感想もあれば、「自然を身近に感じられて心が落ち着く場所」や「グルテンフリーのヴィーガンスイーツがとてつもなく美味しい」という意見もあるだろう。坂矢氏が蒐集するイサム・ノグチの照明やジャン・プルーヴェのエアシャッターといった作品がセンスよく配された空間に魅了される人も少なくないはずだ。
ここに何度も足を運ぶうちに、最初の頃の印象が大きく変化することもきっとある。なぜならば「TEATON」は、人の感性の深部にある“知”と“想”に静かな響きをもたらす場所だからだ。もっと深く知りたいという探求の心は常に人間だけが持ちうる想像力とともにある。自らの視点で物事を自由にじっくり見つめる心が動いた時、この場所への扉が開かれるのだ。
TEATON/ティートン
How to join
新規の入会は年に3〜4回、公式ホームページにて不定期募集。年会費についても都度、告知がある。会員にはカードが配布される。
Information
同じ敷地内にあるセレクトショップ「PHAETON」は非会員でも入店可。
住所:石川県加賀市伊切町い239
TEL:0761-75-7535
営業時間:11:00〜18:00
定休日:火曜ほか不定休
公式サイト:www.teaton-co.com
この記事はGOETHE 2026年6月号「総力特集:会員制への誘い」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら

















