新規訪問数は年間100軒以上。世界の次世代バーカルチャーを追うお酒ライターが、アジアの新興国が塗り替える「Asia’s 50 Best Bars」の勢力図をリアルレポート! 台湾・高雄編。

台湾のカルチャー都市として発展を遂げる高雄
台湾南部に位置する高雄は、台北に次ぐ第二の都市でありながら、港町ならではのリラックスした空気が漂う街だ。かつては重工業と貿易で栄えた都市だが、近年はアートやカルチャーを取り入れた再開発が進み、文化都市として進化を続けている。
象徴的なのが、巨大なアート作品が点在する「駁二芸術特区」。倉庫群をリノベーションしたギャラリーやショップが立ち並び、街歩きしながらアート体験ができる。また世界最大級のパフォーミングアート施設「National Kaohsiung Center for the Arts」が存在するなど、その動きは加速している。
一方で、市内にはシーフードや台湾ならではの屋台料理が並ぶ六合夜市があり、観光客にも地元の人々にも開かれた、親しみやすい空気が流れるのも魅力的だ。
かつては人材や資金が台北に一極集中していたが、地価の高騰や地方を見直す動きから、高雄にも新しいビジネスの流れが生まれつつある。こうした都市の変化は、バーカルチャーに確実に影響を与えている。ローカルの素材や感性を取り入れた一杯や、空間そのものを体験として設計するバーなど、新しいスタイルが次々と生まれているのだ。
海外のカクテル技術を積極的に取り入れながら、独自の食文化や味覚と融合させて発展を続ける台湾・高雄。そのバー文化の現在地を紐解きたい。
ウイスキーカクテルで高雄のカクテル文化を牽引する「MALTAIL」
「MALTAIL」という店名は、MALT(麦芽=ウイスキー)とCOCKTAILを掛け合わせたもの。シングルモルトウイスキーをベースにした創作カクテルで、世界的な評価を集めるバーだ。2024年のオープンから間もなく、2025年には「Asia’s 50 Best Bars2025」で75位にランクイン。高雄で初のベストバー入りを果たした、高雄のカクテル文化の象徴的な存在だ。

日本ではハイボールやストレートで飲まれることが多いウイスキーカクテルだが、海外ではカクテルベースとしての人気も高い。「MALTAIL」では、「ウイスキーサワー」や「ロブロイ」といった定番に加え、約8種類のシグネチャーカクテルを展開している。
「MALTAIL JOURNEY」と名付けられたメニューは、オーナーバーテンダーであり、著名なカクテルライターでもあるトニック・リュー氏自身が撮影した写真とともに構成されているのが特徴。写真から直感的に一杯を選ぶことができ、さらに味わいはチャートで可視化されているため、自分の好みに合ったカクテルに自然とたどり着ける仕掛けになっている。
ウイスキー銘柄に掛けたカクテル名にもユーモアがある。「Find the new Black」は、ジョニーウォーカーブラックラベルに、カモミールやマンゴー、アプリコットなどを合わせ、ジョニーウォーカーのフルーティな側面を引き立てる。
また、旅をテーマにしたカクテルも多い。たとえば「Mango Sago」は、香港発祥のデザート“楊枝甘露”をモチーフにした一杯。「Seaside Blossom」や「Dessert of Snowman」といったバーテンダーがどこかで目にしたような風景や記憶もカクテルに落とし込まれている。
素材には、高山烏龍茶や台湾紅茶、南国のフルーツ、ハーブなど台湾らしい食材を使用。そこに自家製の発酵シロップなど技術を掛け合わせることで、独自の味わいを生み出す。
ウイスキーを軸にしながら、一杯のなかで台湾という土地を表現。その完成度の高さにおいて、「MALTAIL」はいまの台湾を代表するバーのひとつといえるだろう。
ディープな台湾文化をモダンに表現「bar dip」
カクテルを“文化に触れる体験”として提供しているのが、「bar dip」だ。コンセプトは、“HAKKA(客家)Cultural Experience”。中国南部にルーツを持ち、台湾にも多く暮らす漢民族、客家の食文化を、現代的な感性で再解釈している。

店名のdipは、客家の伝統工芸である藍染(インディゴ染め)の工程に由来する。素材を浸し、色や成分を抽出するプロセスを、カクテルにおける浸漬・抽出・発酵などの技法に重ねたものだ。
象徴的な一杯が、店名を冠した「dip」。鮮やかな青色が印象的で、カルダモンや紫蘇、アロエ、赤豆のアイスクリームなどが使われ、フレッシュさとセイボリー(旨味)なニュアンスを両立。仕上げにバタフライピーから抽出した天然の青を落とすことで完成する。

“セイボリー”はこのお店のもうひとつのキーワードだ。乾物やスープ、ハーブ、発酵といった要素を巧みに取り入れることで、カクテルをドリンクとしての一杯ではなく、食文化を体験するものへと昇華させている。
提供方法にも遊び心がある。例えば「三生湯3.0」は擂茶(れいちゃ)と呼ばれる客家の雑穀茶にコーヒーやピーナッツを合わせたカクテル。餅や胡麻、すり鉢が一緒に供され、ゲストは自ら胡麻をすり、餅とともに味わうという体験型のスタイルになっている。
カクテルの美味しさはもちろん、その背景にある台湾文化の奥行きまでも感じさせてくれる一軒だ。
スイーツショップのなかに現れるオーセンティックバー「JustIn」
禁酒法時代に流行した“スピークイージーバー”は、いまや世界的にも定番のスタイルとなっているが、ここまで徹底して作りこまれたシークレットバーはそう多くない。
「JustIn」は、表向きはパティスリー、右奥の扉を開けると、本格的なバー空間が現れる。カクテルを手掛けるのは、オーナーバーテンダーのジャスティンだが、彼は同時にパティシエでもある。表で提供するデザートも、すべて彼自身によるものだ。
カクテルには、デザートの発想が色濃く反映されている。「Opéra dans l’ opéra」は、チョコレートケーキの定番である“オペラ”をカクテルとして再構築した一杯。甘さは控えめにしながらも、華やかな香りによってカカオの魅力を巧みに引き出している。バースペースでもスイーツのオーダーが可能で、マカロンやレモンタルトといった一皿に合わせてカクテルを楽しむことができる。シグネチャーだけでなく、気分に合わせたテーラーメイドのカクテルを得意とするのもこのバーの特徴だ。
台湾らしいカフェ文化とバー文化が溶け合うスタイルは、この街ならではの魅力を体現している。

独自の進化を遂げながら、たしかな技術に裏打ちされた発展を続ける台湾・高雄。
台湾のバーシーンが、世界でさらなる注目を集める日も遠くないだろう。

お酒ライター 児島麻理子
出版社、洋酒会社勤務を経て、酒にまつわる執筆やプロデュースを行い、酒の魅力を発信し続ける。2025年には酒に特化したPR会社TOASTを立ち上げた。年間に訪れる新規バーは100軒以上。世界中の蒸留所も巡っている。







