現在開催されている大阪・関西万博のプロデューサーに就任したことをきっかけに、ここ2年間は大阪で過ごす機会が増えたという小山薫堂さん。街が進化しているから、これまでにはない新しいジャンルやシステムに挑戦する店もでき、そこがまた訪れる人を惹きつける。最強にして超最新レストランガイド「ゲーテイスト2025」。

小山薫堂が再発見した大阪の食
「今の大阪は勢いがあります。心地よく過ごせるホテルが増え、その周辺にはカジュアルから高級までさまざまな飲食店やショップ、スポットが集まっている。大阪の文化的価値が日々、高まっている印象を受けますね」
例えば数日ごとに料理人が変わるポップアップスタイルのレストラン『秘密のシェフズテーブル O』は、大阪の勢いを表す店だ。
「毎日放送でプロデューサーを務める、関西の食のキーパーソンの本郷義浩さんが開いた秘密のお店です。関西の予約困難店や仙台、北九州といった遠方の有名店の料理人が、ここだけの料理を作る。派手なのにかしこまらないこの仕組みは、大阪だからこそなのかもしれません」
同じように、大阪の今を感じさせてくれるのが、2024年8月に開業したフォーシーズンズホテル大阪にある鮨店『鮨 ラビス 大阪ヤニック・アレノ』だ。
「フレンチの巨匠といわれるヤニック・アレノさんが、日本初出店の場に選んだのは、東京ではなく大阪でした。しかもお鮨で。今は東京よりも大阪のほうが成長の余地があると、彼が感じたからではないでしょうか」
たとえ高級店であっても、気さくで飾らない。そんなところが大阪の魅力を体現している。
「大阪で今一番好きなことが、ホテルのサウナで地元の人たちの何気ない会話を聞くこと。そこにはさまざまな大阪のエッセンスや情報がつまっている。本当に楽しい。変にもったいぶらないところがいいですよね」
これまで知らなかったお店にも足を向けるようになると、その実態がさらに見えてくる。天下の台所といわれるだけあって、そもそも食のレベルは高いが、お勘定をしてみると驚くほど安い店も多い。高級店が集まる北新地にある『パイナップル2』は、まさにそんな鉄板焼き店だ。
「帝国ホテル出身のシェフが開業したお店だからか、ハムカツなどB級的な料理も上質で品がある。ハムカツにチーズを合わせてほしいなど、メニューにはない要望にも余裕で応えてくれるから頼もしくなります」
小山さんはふらりと入った店でもレベルが高いことを、目の当たりにする経験を重ねたそう。
「天満で偶然入った細い路地にあるたった1坪のワインバーが面白かった。テーブル代わりのキャビネットを客と店員が囲んで飲む独特なスタイルで一体感がある。みんなが楽しんでいるのがよくわかるんです。それから定宿近くの天ぷら店も安くて美味しくて、店主の人柄がよくて。これまでは関西での食事は京都が定番でしたが、大阪や神戸に足を運ぶようになると、関西の魅力が倍増。新幹線を使えば、神戸でご飯を食べて大阪で飲んで京都に帰る、なんてこともできます」
1.大阪・梅田「秘密のシェフズテーブルO」
国内外の有名店に出合える、大阪新名所の注目レストラン
大阪・梅田の再開発で2025年3月に開業した「グラングリーン大阪」。南館の1階にある『秘密のシェフズテーブル O』は、国内外の有名シェフが数日替わりで料理するポップアップスタイルのレストラン。この日カウンターに立つのは、イタリア・ミラノでミシュランの星を獲得する徳吉洋二シェフ。「東京・神保町の支店『アルテレーゴ』の味を関西の方にも」と腕を揮う。日本人唯一のパルマハム職人多田昌豊氏の生ハムも含めた本場仕込みのコースで、特別な機会に恵まれた客を魅了する。
2.大阪・堂島「鮨 ラビス 大阪ヤニック・アレノ」
フレンチと江戸前鮨の融合。感性入り混じる魅惑のコース
和仏の融合で比類ないコースを味わえるレストランが2024年10月開業。現代フレンチの巨匠ヤニック・アレノ氏と30年にわたり技を磨いた鮨の安田至料理長が生みだすコースは予想外の連続と話題を呼ぶ。13品にも及ぶコースは、エモーションと名づけられた前菜からスタート。かんぱちと昆布バター、ムール貝のソルベと紫蘇、パイに青のりといった斬新な組み合わせに心を揺さぶられ、イサキやシマアジなど江戸前鮨に満たされる。和仏フュージョンの甘味も数種登場し、最後まで期待と高揚が続く。
3.大阪・北新地「鉄板ステーキ パイナップル2」
一流ホテルの味をカジュアルに。創作鉄板料理でワインも進む
北新地のビル地階の鉄板ステーキ店。本店「パイナップル」のオーナーシェフから絶大な信頼を得て店を任されるのは、大石峰啓シェフ。大阪の帝国ホテルをはじめ有名レストランで磨いた鉄板技は、さまざまな料理に生きている。薄く衣をつけて揚げ焼きにする「ハムカツ カチョカバロ」はチーズの風味とロースハムの旨みが際立つ逸品。焼き加減抜群のフィレステーキはもちろんのこと、サラリと焼き上げる「肉みそキムチピラフ」など、どの料理も最上の味。つまみでワインなど重宝する。
この記事はGOETHE 2025年9月号「特集:陶酔レストラン ゲーテイスト2025」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら