親にとって命題ともいえるのが、「我が子を“いい子”に育てるにはどうしたらいいか」。ところが、「親の育て方でどうにかなるものではありません」と、安藤寿康氏。その理由をひもとく。行動遺伝学者・安藤寿康氏連載第4回。【その他の記事はこちら】

非認知能力は鍛えられるものではない
やさしい、思いやりがある、明るい、前向き、積極性がある、努力家。“いい子”の定義は多少異なるだろうが、どの親にも、「こんな人間になってほしい」という理想像があるに違いない。
「残念ながら、パーソナリティ、つまり性格や個人の思考・感情・行動の傾向や特性は、親の育て方でどうにかなるものではありません。なぜなら、知能や運動能力、身体的特徴と同じく、遺伝の影響がとても強いからです。明るい人も根暗な人も、親の育て方や教育でそうなったわけではなく、持って生まれた資質によるところが大きい。読者のみなさんも思い当たるのではないでしょうか」
では、自主性や勤勉性、協調性、忍耐力、計画性など、社会で活躍するのに必要不可欠とされる「非認知能力」はどうだろう。これらを育むメソッドが注目されているということは、後天的に身につけられるということなのでは?
「そもそも非認知能力という言葉は、学術用語ではありません。非認知能力と呼ばれているものの多くは、心理学的にはパーソナリティの一部なので、遺伝が関わっています。それなのに、“能力”という言葉の印象からか、鍛えれば伸びるものだと思われているようですね。ゆえに、親御さんたちは、『ある環境に置き、適切に教育すれば、どんな子でも理想通りに育つ』と期待するのでしょうが、その考えは危険。そうなってくれない我が子を責め、そう育てられなかった自分を責めることになりかねませんから。自主性や勤勉性といったものは、筋肉のように鍛えれば鍛えるほど成長するものではないということを、まずは認識していただきたいと思います」
欠点がプラスに働くこともある
パーソナリティは遺伝の影響から逃れられない。ただし、「分別のつく年齢になれば、状況に応じて求められているパーソナリティを“演じる”ことができるようになる」とも、安藤氏。
「たとえば、内向的な人が営業職に就いたとします。内向的という本来の性格を前面に出しては仕事にならないので、営業先では、明るく、社交的に振る舞う……といったぐあいです。
もっとも、自分が自分でいられるようなリラックスできる環境だと、内向的な人物に戻ってしまいます。なぜなら、内向的というパーソナリティが、その人が遺伝的に持って生まれたセットポイント、基準点だからです。セットポイントは、その時々の環境や状況や意識の持ち方で多少上下するものの、内向的な人が外向的な人になるといった“完全なるパーソナリティの移行”はありません」
もともとのパーソナリティとは多少違っても、「この場面では、こうあるべき」と理解していれば、それにふさわしい振る舞いをすることは可能。ということは、親がすべきは、子供本来の性格を矯正しようとすることではなく、状況に適した言動を教えることなのだろう。
「そもそも私は、誰もが“いい子”である必要はないと思っていますし、社会で活躍するのに非認知能力が不可欠だとも考えていません。世の中はさまざまな人間、今風に言えば、多様性で成り立っています。まじめで勤勉な人もいれば、ふざける人や怠け者もいますし、計画性に富んだきちんとした人もいれば、だらしない人もいるのは当然のこと。むしろ、“いい子”ばかりでは、社会が硬直化し、多様な環境の変化や危機的状況に柔軟に適応できなくなる危険性すらあります。
学校で、神妙にすべき場面でついふざけてしまう子、いますよね。先ほどの話とは矛盾しますが、まじめにしないといけないとわかっていても、性格的にふざけずにはいられない子がいてもいいんじゃないかと。それに、そのふまじめさが緊張をほぐしたり誰も気がつかなかった新しい視点を示してくれて功を奏することもあると思うんですよ。お笑い芸人として成功している人たちは、その代表格でしょう。ネガティブに捉えられがちな性質も、場合によってはプラスになる。そのことも、親御さんには覚えておいていただきたいですね」
最終回は、昨今目立つ青少年の犯罪について、遺伝的見地から話を聞く。
安藤寿康 / Juko Ando
1958年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。慶應義塾大学名誉教授、教育学博士。日本における双生児法の第一人者で、専門は行動遺伝学、教育心理学、進化教育学。『生まれが9割の世界をどう生きるか』『教育は遺伝に勝てるか?など著書多数。

