PERSON

2024.12.21

文武両道を貫く張本兄妹の父が、卓球よりも優先したこと【子育てインタビュー】

2024年夏開催のパリオリンピックにそろって出場するなど、日本卓球界を牽引する張本智和、美和兄妹。卓球の実力だけでなく、学校の成績はもとより、通っていた学習塾の全国模試で優秀な成績を収めるなど、共に勉学にも秀でていることは広く知られている。文武両道を地でいく兄妹は、どのように育ったのか。父、張本宇氏に話を聞いた。#後編(12/22公開)

張本智和、美和兄妹と張本宇氏、妻・凌さん。

卓球よりも優先した「規則正しい生活」と「勉強」

14歳でITTFワールドツアー・チェコオープンの男子シングルスで優勝し、ワールドツアー最年少記録を更新。2022年に行われたアジアカップの男子シングルスにおいて日本勢では33年ぶりの金メダルを獲得し、世界ランキングも日本男子歴代最高順位である2位にランクイン。18歳で初出場した東京オリンピックでは団体銅メダルを獲得、2024年11月開催のアジア卓球選手権では日本に50年ぶりの金メダルをもたらしアジア王者となった長男、智和。

2021年開催の世界ユース卓球選手権で出場したU-15カテゴリー全4種目で史上初の4冠に輝き、2024年のパリオリンピックでは、女子団体銀メダル獲得に貢献。同年10月、アジア選手権女子団体決勝で中国の強豪たちを次々と撃破し、50年ぶりとなる優勝の原動力となった長女・美和。

若くして才能を開花させた張本兄妹に、幼少期から卓球を教えてきたのが、中国出身で、自身もプロとして長年活躍してきた父・張本宇氏だ。

張本宇氏
張本宇/Yu Harimoto
中国・四川省のプロ卓球選手として活躍後、1993年に来日。その後、カタールやイタリアでプレーし、1998年からは仙台ジュニアクラブのコーチとして活動。元プロ卓球選手でマレーシア代表監督経験もある凌と結婚し、2003年に長男・智和、2008年に長女・美和が誕生。兄妹ともに日本代表選手として育て上げる。現在は張本仙台ジュニアクラブを運営し、女子ジュニアナショナルチームのコーチも務める。

宇氏が仙台ジュニアクラブのコーチとして来日したのは、1998年のこと。以来、現在にいたるまで25年以上に渡り、元プロ卓球選手だった妻・凌さんと共に、数多くの子供たちを指導してきた。

「智和も美和も、卓球を始めたのは2歳頃からです。練習場にはそれより前、まだ赤ちゃんの時から連れて行っていましたね。私と妻が他の子供たちを教えている間、その子たちの親御さんが、智和の面倒をみていてくれたこともあります」

二人とも卓球場で育ったようなものだが、宇氏いわく、「夫婦でコーチをしていたので、連れていくしかなかった」からで、英才教育のためではなかった。実際、練習時間は、他の生徒と同様、1日2時間が基本。智和氏が小学校高学年になり、大会で活躍するようになってからも、せいぜい3時間程度。週末も1日中卓球漬けということは皆無だったという。

「我が家の教育方針は、『1に健康、2に勉強、3に卓球』。幼少期は、健康に育つことが一番大切ですし、学生なのだから勉強するのは当たり前。私たち夫婦は、子供たちに、その時々にやるべきことを、正しく、きちんと、やってもらいたいと思っていました。

とくに妻は、その気持ちが強かったですね。私自身は、智和が大会に出て、優勝するようになってからは、もう少し練習させたい気持ちもありましたが……。家庭では、奥さんの言うことを最優先するのが一番ですからね(笑)」

「卓球を辞めたい」と言われたら受け入れていた

智和は小学校入学前から、卓球クラブのそばにある学習塾にも通うようになった。それも自分から希望して、だ。

「当時、卓球クラブの生徒たちの多くが、その学習塾に通っていました。だから、智和は、塾に行くのは当然のことだと思ったのかもしれませんし、少し年上の子たちの真似をしたかっただけかもしれません。いずれにしても、勉強するのは楽しかったようで、喜んで通っていました。

学校から帰宅後、まず宿題を済ませ、学習塾がある日はそこで勉強してから卓球の練習をし、夜9時には就寝。学習塾で出される宿題は、朝、学校に行く前に済ませていました。時間が限られていたからこそ、集中して取り組めたのではないかと思います」

学校、塾、卓球クラブの3か所を往復する日々は、かなりストイックな生活のようにも思える。けれど、幼いうちからルーティーンになっていれば、子供にとってそれは、“当たり前のこと”となり、ストレスや不満を抱くことはないのかもしれない。

実際、智和も美和も、日本代表選手となり、海外遠征が増えた中学生以降も、学校の宿題はもちろんのこと、通っていた塾からも課題を取り寄せ、卓球の合間を縫って勉強を続けてきた。勉強することは、兄妹にとって、それほど日常的なものになっていたのだ。

張本美和と張本宇氏、妻・凌さん。
多くの親が悩むのは、“子供のゲーム問題”だが、「我が家は、『週末だけ、勉強や卓球などやるべきことをやった後で』がルールでした」と宇氏。全面的に禁止するのではなく、“息抜き”のツールとして上手に活用していたようだ。

ただし、カギになるのは、「本人が楽しみ、自ら進んで取り組むかどうか」。どんなに幼くても、もちろん意思はある。子供の気持ちをないがしろにして親が無理やりやらせたのでは、どこかでひずみが生じてもおかしくはない。

「子供に卓球をやらせたい、選手にしたいと、熱心な親御さんもいらっしゃいますが、大切なのは、その子自身のやる気です。卓球が好き、卓球が楽しいという気持ちで、夢中になって練習をする子の方が、絶対に伸びます。私たち夫婦も、もし、智和と美和が卓球を辞めたいと言ったら、それを受け入れるつもりでした。プロにしようと思って、卓球を始めさせたわけではありませんから」

後編ではその真意と、思春期を迎えてからの子供との接し方について聞いた。※12/22公開

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=卓球レポート/バタフライ

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