「イモトのWiFi」「にしたんクリニック」、不妊治療の「にしたんARTクリニック」などさまざまな事業を手掛けるエクスコムグローバル代表取締役社長・西村誠司氏。25歳で起業し、現在は個人純資産300億円といわれる西村氏は、いかにして成功したのか!? 渋谷の一等地に完成した豪華絢爛な住宅で、その半生を語るインタビュー最終回。自身を変えた子供たちへの想い、そして究極の子育て論。【他の回はこちら】
金に追われていた自分を子供たちが変えてくれた
「売上が数百億にのぼる企業になれば、そのトップの方は、お金よりも次のステップに行っています。派手に自分に金を使うことは減り、社会のためにどう使うか、世の中のためになにができるかを考えるようになるんです。自分のために使いまくって派手な生活をするのは、会社の利益が2〜4億くらい、社長の給料が3〜4000万円くらいの層だと思いますよ。私も30代の時はまさに、社会のことより金のことばかり考えるそんな人間でした」
そう恥ずかしそうに笑う西村氏。現在は採算度外視で不妊治療の「にしたんARTクリニック」を立ち上げ、シングルマザー、シングルファーザーの家庭に旅行支援を行うキャンペーンなども実施して、社会貢献を目指している。
「金よりも世の中のことを。そう思えるようになったのは、私の子供たちの存在が大きいかもしれません。7歳くらいの子を高級レストランに連れて行っても、まったく喜びません。家に持ち帰って家族で一緒に食べるチェーン店のハンバーガーの方が、子供たちにとっては何百倍も価値がある。そして彼らが喜んでくれることに、私たち親は人生をかけたい。それは決してお金ではないと思ったんです。子供たちが、私の価値観を変えてくれました」
以来、お金は社会貢献のために使うものに。派手なクルマや家は、「にしたん」の名前を世の中に伝える宣伝費、必要経費として割り切ってきた。
「企業が成長すれば、そこからは社会への責任が発生します。地震の被災地に私が電話をして『頑張ってね』なんて言っても、なんの価値もない。私が果たす責任はお金を出すこと。『お金ばかりを追わない』と言いながら矛盾するようですが、お金は誰にとってもパワーになります。社会に循環させるために、私もまた頑張って働かないとなりません」
フェラーリで学校へお迎えに。息子に言われた言葉とは
西村氏にとって、子供の存在が、社会へ目を向けさらに企業を成長させるきっかになった。ではその子供たちに、どうお金の教育をしているのだろう。
「お小遣いは与えていません。どうしても必要なものがあれば私たちに相談をしてくれと。でも、だからといって『あれもこれも買って』とは言いませんね。父として見ていると、彼らはあまり物欲がない印象です。
私たちは10年ほどアメリカに住んでいた時期があり、上の子供たちはアメリカの学校へ行っていました。一度、学校にフェラーリで迎えに行ったら『恥ずかしいからもう2度と来ないで』と怒られてしまいました(笑)」
西村氏は、新聞配達を始めた13歳から54歳の今日に至るまで、常に働き続けてきた。だからこそ、仕事においては子供たちに伝えたいことがある。
「自分の仕事が誰かのためになっているか。それを常に意識してほしい。社会貢献とまではいわなくても、同僚のためでもいいんです。大きな仕事をしてほしいのではなく、コツコツと積み上げて、そしてみんなに愛される優しい人であってほしい」
西村氏の両親がそうだったように、子供たちにも「勉強をしろ」とは言っていない。いわゆるお受験も本人が望まないかぎりはしないと決めている。もちろん会社を継いでほしいとも思っていない。
「ただただ健康でいてほしい。そして自分の心地よいと思ったことを地味でもいいから突き詰めて幸せになってほしい。ただそれだけです」
親の考えを押し付けず、一歩引いて子育てをしている西村氏。自分のために、金のために働いてきた自分を変えてくれた子供たちを優しく見守りながらも、その愛は子供たちを育ててくれた世の中全体に、社会貢献というかたちで注がれていく。
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西村誠司/Seiji Nishimura
1970年愛知県生まれ。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1995年インターコミュニケーションズ(現エクスコムグローバル)を設立。モバイル通信サービス「イモトのWiFi」、メディカル支援サービス「にしたんクリニック」「にしたんARTクリニック」などさまざまな事業を展開。著書に『最強知名度のつくり方 売上98%減からのV字逆転を実現した必勝術』がある。