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2026.07.16

習い事や早期教育を“するだけ”では、子供の才能は発現しない。行動遺伝学の権威が指摘

子供に生まれつき備わっている才能があるのなら、少しでも早く発見し、伸ばしてやりたい。そう思うのが親心だが、その才能はどうすれば見つかり、どうすれば開花するのか。行動遺伝学者、安藤寿康氏連載第3回。【その他の記事はこちら】

習い事や早期教育を“するだけ”では、子供の才能は発現しない。行動遺伝学の権威が指摘
Unsplash / Gautam Arora ※画像はイメージ

才能の発現に必要なのは“自由度”

幼少期からさまざまな習い事や体験をさせることが、子供の才能を見つけ、伸ばすのに役立つ。そんな説を唱える教育学者や専門家がいることもあって、早期教育が盛んだ。しかし、「早期教育によって子供の才能、社会的に傑出している能力が開花するという科学的根拠はありません。むしろ幼少期の神童が、そのまま世界最高レベルの大人になるケースは意外に少ないというデータすらあるくらいです」と安藤氏。

「私は、早期教育そのものを否定しているわけではありません。親が子供に習わせたいと思うものがあり、時間や費用、子供の体力といった条件が許すなら、やらせてよいと思っています。膨大な商品が並ぶホームセンターで『好きなものを自由に選べ』と言われたら困惑するのと同様に、何の指針も与えられなければ、子供は困惑するでしょう。なので、親がある程度のバイアスをつくってあげるのは賛成です。

とはいえ、幼い頃から始めたとしても、その分野で秀でる保証はありませんし、たくさん習い事をしたからといって才能が発現するわけでもありません。なぜなら、あらゆる能力には遺伝が関係しているからです」

親が意図的に習い事をさせても、子供は、おもしろいと思えば夢中になり、手ごたえがなければ離れていく。この“おもしろさや手ごたえを感じるか否か”も、遺伝的素質によるものだ。では、子供にハマるものが見つかるまで、ありとあらゆることにチャレンジさせるのが得策かといえば、答えはNO。

「幼少期はまだ経験してないことばかりなので、さまざまな習い事をそれなりに楽しめるだろうと思いますし、やり続ければあるレベルまでは上達するでしょう。とはいえ、その子本来の素質や才能が発揮できているとは限りません。才能の発現に大切なのは、子供が興味を抱いたら、どこまでも突き詰め、深められる自由度の高い環境。そうした環境に、子供が憧れを抱けるような先生やコーチ、インストラクターが一人いると、子供がインスパイアされ、才能が一気に花開くことは十分あると思います。逆に、マニュアル的にカリキュラムが組まれている習い事や、受験のためにつくられたようなメソッド系の教室での体験は自由度が低いため、子供の素質を伸ばせるかどうか疑問です」

そもそも、才能の発現の入口となるのは習い事だけではない。もっと身近なこと、たとえば幼稚園や保育園で耳にしたピアノの音に魅せられた、親とキャッチボールしたら楽しかった、祖父とやった将棋がおもしろかった。こうした日常の経験が、特定の分野への興味を駆り立て、夢中になって取り組むうちに、才能を発揮するようになる。つまり、子供の才能の開花を後押しするのに、習い事や体験学習、旅行、イベントへの参加などに、多大な時間と費用をかける必要はないというわけだ。

「子供が自ら夢中になり、才能の片鱗が認められるようなものが見つかったら、その時は、できる範囲で時間とお金をかけ、本物に触れさせてやってください。それが、その子の才能をさらに伸ばしてくれるはずです」

幼少期に自分の才能に気づく人はごく一部

昨今は、「やりたいことがない」「夢中になれるものが見つからない」という声も多い。それはつまり、自らの素質や才能に気づけていないということなのか。

「幼少期に自分はこの分野に秀でていると気づける人は少数で、多くの人は、なんとなく合うものはあっても、完全にハマるものが見つからない状態でしょう。勉強せずともテストはいつも満点だとか剛速球が投げられるなど、わかりやすい形で能力が発揮できればよいのですが、多くは自分自身も才能と気づかないくらい些細な形で発現するケースが多いからです。それを見逃さないことが、やりたいことを見つける第一歩ではないでしょうか。

たとえば野球の場合。プレイヤーとしては平凡でも、戦術やデータ分析に関心を抱くとかボールの構造に興味を持ったとしたら、それは、才能の萌芽かもしれません。突き詰めていけば、どんどん得意になり、才能と呼べるものになる可能性はおおいにあります。将来データ分析や物理学の分野に進むかもしれませんしね。つまり、野球は単なる入口で、その奥にはもっと広い世界が広がっているのです」

であれば、親は我が子の才能の萌芽にいち早く気づき、バックアップしてやるのが理想だ。もっとも、子供自身が何に関心を持っているかを行動に表すことなく、それどころか、本人も自覚していないとしたら、親が察するのは難しい。ただ、少なくとも、「才能がないのだから続けてもムダ」とダメ出しするとか、「野球をやめ、プログラミングをやった方が役立つ」などと軌道修正するのは悪手。子供をコントロールしようとせず、やりたいようにさせるのが得策だろう。

「少しでも関心を抱くものがあるなら、『やっても意味がない』『将来に役立たない』などと考えず、まずは挑戦してほしいですね。気持ちが動かされること自体、素質があるということなのですから」

次回は、現代社会で必須と言われる非認知能力と遺伝の関係について話を聞く。

【その他の記事はこちら】

安藤寿康 / Juko Ando
1958年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。慶應義塾大学名誉教授、教育学博士。日本における双生児法の第一人者で、専門は行動遺伝学、教育心理学、進化教育学。『生まれが9割の世界をどう生きるか』『教育は遺伝に勝てるか?など著書多数。

TEXT=村上早苗

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