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2026.04.18

なぜ、岡崎慎司はドイツのアマチュアクラブの監督になったのか「ドイツでプロ選手を誕生させる」①

2024年夏、現役を引退したサッカー元日本代表FW・岡崎慎司。引退後はFCバサラマインツ(ドイツ6部)の監督に就任。現在はクラブの会長として、経営にも深く関わる。独占インタビュー第1回は、新人監督・岡崎慎司について。【特集 2026FIFAワールドカップ】

なぜ、岡崎慎司はドイツのアマチュアクラブの監督になったのか「ドイツでプロ選手を誕生させる」①

ヨーロッパでやり残したこと、悔しさが新たなモチベーションに

――現在、岡崎慎司さんが指揮されているFCバサラマインツについて教えてください。
「日本人サッカー留学生をドイツでサポートしていた高校時代の先輩から、日本人アマチュア選手の苦労話を聞いていたこともあり、新しいクラブを作ることを僕が提案したのが始まりです。2014年に発足しました」

――当時、岡崎さんはマインツでプレーしていました。日本人選手がドイツでプレーするうえで、環境や文化の違いなど苦労することは多いと話されていましたね。
「日本からヨーロッパへ出ていくと純粋にサッカーという競技面でのギャップはもちろんあります。でもそれ以外にも、言語から始まり、生活環境や文化が違うし、アジアや日本に対する偏見を持っている人もいます。そういうなかで挑戦する難しさがあり、同時にそれがやりがいに通じることもあります。

でも僕はアマチュアの日本人選手に比べたら、恵まれた環境だと感じました。馴染まない環境で頑張ってもうまく行かず、帰国する人も多いと思います。だからこそ、『ヨーロッパで活躍する』と挑戦する若い日本人選手たちのサポートになる場所、クラブを作れないかと思ったんです」

――クラブ発足時、11部から昇格を続けて、今はドイツ6部で活動しています。引退後、ここで監督業をスタートさせた理由は?
「現役を続けられるのであれば、続けたかったというのが本音ですが、膝の怪我もあり、思うようなプレーができないシーズンを過ごしました。大きな悔しさが残っていたし、このまま日本に戻る気持ちよりも、ここヨーロッパで新たな挑戦を指導者として歩みたいという想いが強くありました。

ちょうどそのころ、バサラマインツの監督が、1.FSVマインツ05の女子チームの監督に就任することが決まったことで、僕がバサラマインツを指揮することになったんです」

――ドイツ6部はどういうリーグなんでしょうか?
「ドイツにはブンデスリーガ1部を頂点に、2部、3部までがプロリーグです。4部や5部は地域、州リーグで、選手もプロとアマチュアが混在するセミプロリーグ。でも、ブンデスリーガの23歳以下や21歳以下のチームが参加していることもあり、ドイツだけでなく、ヨーロッパで注目されているリーグです。僕らが戦う6部はアマチュアリーグの最上位と位置づけされていますが、目標は3部昇格。5年、10年の長いビジョンでプロリーグを目指しています」

選手時代には想像もできなかった監督の複眼的、複合的視点

――バサラマインツにはどういう選手が在籍していますか?
「ドイツ人選手の多くは学生です。そして、日本人は大学や高校を卒業するタイミングでドイツに来た選手が中心で、チームの約半数が日本人選手になります。ワーキングホリデービザや就労ビザを持ち、仕事をしながら、サッカーを続けています」

――サッカーがひとつの趣味ととらえるドイツ人と日本人とでは、モチベーションも大きく違いますね。チームを指揮するうえでの弊害にはなりませんか?
「練習や試合への参加状況は選手それぞれ違うけれど、指揮する僕にとっては、大きな問題とはなっていません。上を目指すというクラブの目標に適した選手を集めていますし、クラブや選手の成長には、チーム内の競争が重要だと伝えています」

――競争に勝たなければ試合には出られない。だからこそ選手はピッチ上でどのようなプレーができるか? が求められていると。
「そうですね。でも、監督になって思うのは、選手時代は自分のことだけを見ていたなと。監督になってみるといろんなことすべてが難しいと感じます。選手時代は監督の采配に『なんであの選手を使わないんだ』『あいつばっかりじゃないか』といった不満を抱くことがありましたが、それってあくまでも僕の目線での意見でしかない。

でも、監督ってもっと複眼的、複合的というか、複雑な視点でチームを見なくちゃいけない。個の力がある選手を起用すれば、有利な試合もあるけれど、使いすぎると組織がバラバラになってしまうとか、能力はあるけれど、練習参加回数が少ない選手を使えば、不満に感じる選手もいる。プロチームではどうかわからないけれど、今、アマチュアチームを指揮するうえで、考えることはいっぱいあって、本当に難しいなと思っています」

――岡崎さんが監督に就任することに対する選手たちの期待も大きかったのでは?
「それは感じます。『新しい指導で、俺らを変えてくれるんじゃないか』みたいな。でも、僕が伝えるのは、基本、ベースのことです。練習中からしっかりコミュニケーションを深めないとダメだとか、練習からしっかり集中しなくちゃいけないとか、ボールを受けて、切り替えるときに、ため息をつくなとか、小さなリアクションにまで細かく指摘しています。

でも、彼らにしたら、今までの指導者から言われていたことと変わらない。でも、そういう基本ができていないと、上へは行けないし、基本的なことが当たり前にできるのがプロ選手だから」

岡崎慎司
岡崎慎司/Shinji Okazaki
1986年4月16日兵庫県生まれ。滝川第二高校卒業後、清水エスパルスに加入。2010年南アフリカ大会以降、ブラジル、ロシアとW杯3大会出場。2011年にドイツに渡り、シュツットガルト、マインツでプレー。2015年夏にはプレミアリーグレスターへ移籍し、リーグ優勝に貢献。2024年ベルギーのシントトロイデンで現役引退。日本代表通算119試合出場、50得点。引退後は自身が長く運営に関わってきたFCバサラマインツ(ドイツ6部)の監督に就任。

アマチュアリーグでプレーする選手たちを育成していく

――ワールドカップにも出場し、プレミアリーグやブンデスリーガでプレーし、世界のトップレベルのなかで戦ってこられた岡崎さんにとって、アマチュアリーグのレベルに物足りなさを感じることはありませんか?
「そういうのは全然ないんです。この間も対戦相手の映像を見ていたときに『こいつスゲーな』と言っている僕に対して、スタッフが驚いていました(笑)。スペイン2部でプレーしていたときも、レベルがどうのっていう感覚はなくて、普通に今自分のいる現場にアジャストしていましたね。

だから、ドイツ6部であってもアマチュア選手でも、発見や驚きはある。今9部のバサラマインツのセカンドチームを指導したときも変わらないですね。ただただ、目の前の選手を成長させたい、彼らはもっとうまくなれると信じているんですよね。これは多分、世界中の監督が抱いているんじゃないかな」

――だから、細かいことも指摘してしまうと……。
「選手からしたら、そんな細かいことと思うかもしれないけど、そこが大事なんだよと繰り返し伝えています。6部や9部でもいいから挑戦したいと、ドイツに来た彼らの意志を尊敬しています。彼らにはまだ自分に弱い部分もあるけれど、ここで変われたら、伸びる可能性が大きいと感じています」

――その想いが選手たちの後押しになるのでは。
「でも僕が彼らに期待しているほど、選手自身が自分に期待していないんじゃないかと思うこともあります。『岡崎さんは特別ですよ』みたいなことを言われると、『なんでそんな弱気なんだ、ヨーロッパでプロになるために来たんだろ』という話もします。だけど、打っても打ってもなかなか響いていないと思うときもありますね」

――世代間キャップなんでしょうか?
「息子が今17歳で、うちの選手と同世代なんですよ。だから、そうだよなって納得できる部分もあります」

――なにが必要なんでしょうか?
「やっぱり一緒にいてあげる時間が必要です。練習で口酸っぱく言えるかどうかが結構大事。人生を賭けて来ている選手もいますから、サッカーに限らず、生活の部分のサポートも必要だと思うので、定期的に個人面接も実施しています。とにかく僕らは、彼らを見ている、気にかけていると選手に感じていてほしいですね」

――理想の監督として、母校の黒田和生さんの名前を挙げていました。
「黒田先生はサッカーだけでなく、人としての成長、人間力を培うような指導をしてくれた方です。僕の人生にとって、その教えはいろんな場面で、形を変えて、今も生きています。だから人間育成というのは、重要なことだと信じています」

――それを今、バサラマインツで実行している。
「僕は、10代後半から20代前半の世代の選手と向き合っているけれど、高校生より厄介かもしれませんね。だけど、たとえプロになれなかったとしても、彼らの人生にとってバサラマインツでの時間がひとつのキッカケになればいい。ドイツへ来たけど、うまくいかなかったで終わらせてほしくない。カテゴリーなんて関係なく、自分が関わる人間がなんらかの形で成長させたいという気持ちが強いです」

――加えてクラブの昇格も目指さなければいけない。
「はい。チームの選手を集める上でも本当にプロを目指す選手は給料が安くとも4部や5部を選択するケースが多いのが現状です。だけど、バサラマインツからドイツでプロに個人昇格した選手が出れば、チーム内の空気も変わっていくと思います。国を問わず、陽の目を見てこなかった逸材を見出してヨーロッパでプロに育てたいという夢もあります。ブンデスリーガを経験していないドイツの選手をJリーグへ移籍させたりとか。そんなこと誰もやったことがないでしょ。そこに僕自身もチャレンジし、監督としても成長をしなくてはいけませんから」

※2回目に続く

TEXT=寺野典子

PHOTOGRAPH=菅原敬太

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