2025年春、配信ドラマ主演で俳優復帰を果たした成宮寛貴が、次なる挑戦として選んだのは、三島由紀夫の名作戯曲『サド侯爵夫人』。演出は、デビュー作でもタッグを組んだ宮本亞門。12年ぶりの舞台、しかも主演という大役に、成宮は何を思い、どう向き合おうとしているのか。運命に導かれるように決めた舞台出演の背景と、座長として意識する“仕事人としての立ち回り”を語ってもらった。インタビュー前編。

今、三島作品に挑むのは、自分が乗り越えるべき試練
2025年3月に配信スタートしたABEMAオリジナルドラマ『死ぬほど愛して』で、ミステリアスな連続殺人鬼を演じ、圧倒的な存在感を見せつけた成宮寛貴。
次に挑むのは、18世紀のフランスを舞台にした三島由紀夫の戯曲『サド侯爵夫人』だ。
「三島作品はハードルが高いと、ずっと思っていました。 (三島の代表作)『金閣寺』も、中学生の時に3ページ読んだところで脱落してしまったくらいで(苦笑)。でも今回このお話をいただいて『サド侯爵夫人』を何度も読み直し、古典的な表現や言葉の美しさに日本の美学を素直に感じました」
一方で、情熱的で毒々しいレトリックをはじめとする独特な三島ワールドを、自分のものにする難しさも痛感しているという。セリフ量は膨大で、決して容易な挑戦ではない。
「だからこそ、この作品は、今の僕が乗り越える試練だとも思っています」

1982年東京都生まれ。2000年、宮本亞門演出の舞台『滅びかけた人類、その愛の本質とは…』でデビューし、2001年、『溺れる魚』で映画初出演。『ごくせん』『オレンジデイズ』『ブラッディ・マンデイ』『相棒』(2011〜2016年)など、数々の話題作に出演。2024年、俳優活動の再開を発表し、ABEMA連続ドラマ、『死ぬほど愛して』主演で復帰を果たす。
取材時(11月中旬)は、まだ稽古が始まる前。完成図が見えていない状況だが、不安よりも期待の方が大きい。
「美しい言葉、その言葉の裏に隠されている本当の想いを、薄い皮を1枚ずつめくるように見つけていく。その作業を今から楽しみにしています」
もっとも、自分なりに思い描いているプランは、演出を手がける宮本亞門によって、一度は完全に壊されるだろうとも覚悟している。
「そこでいったんフラットになり、あらたに構築していくことが必要な役だと覚悟しています。でも、そんな風に、“今の自分には届かない目標”だからこそ、成長につながる。いくつになっても、挑戦することは必要だと感じています」
この舞台は、成宮寛貴の現在地を測る仕事になるだろう。
主役の役割は、相手を立て、場を整えること
舞台『サド侯爵夫人』で成宮が演じるのは、性に奔放で、娼婦虐待の罪に問われている夫・サド侯爵の出獄を待ちわびる貞淑な妻・ルネ。本作は、女性の役をすべて男性キャストが演じるオールメール公演だ。
サン・フォン伯爵夫人に東出昌大、妹のアンヌに三浦涼介、シミアーヌ男爵夫人に大鶴佐助、女中・シャルロットに首藤康之、ルネの母・モントルイユ夫人役に加藤雅也と、個性豊かな俳優陣が集う。
「みなさん、一緒に芝居をするのは初めてですが、加藤さんは大好きな俳優さんで、以前から共演したいと思っていたので夢がかなって嬉しいです。首藤さんも世界で活躍されているダンサー。ご一緒できて光栄に思っています。
東出くんとはバラエティ番組でお会いしましたが、自分の物差しをしっかりと持っている素敵な方。どんな芝居をされるのか楽しみですし、大鶴さんや三浦くんとお会いするのも、今からワクワクしています」

“初めまして”を楽しむために、常にフラットな姿勢で相手と向き合う。それが成宮のモットーだ。ネガティブな先入観は、相手の真の姿や魅力に気づかないこともあるからだという。
「相手の風貌や周りの評判などに振り回されず、自分の目できちんと相手を見極めたいんですよね。
それから、ちゃんと相手の目を見て、誠実にコミュニケーションをすること。無理に盛り上げようとしなくても、自然体で誠実に接していれば、それはきっと相手に伝わり、良い関係が築けると思っています」
主演=錚々たるメンバーを率いる座長でもある。成宮に、その意気込みをたずねたところ、「主役の役割は、相手役を立てることだと思ってやっています」という答えが返ってきた。
「前に出過ぎず、相手の想いを受け取り、それを汲んだうえで球を投げ返すのが役割だと僕は考えています。お互いの足並みを揃え、チューニングする役割とでも言うのかな。
自分をカッコよく見せようとして、取れないような球を投げてしまうと、ガチャガチャとしたまとまりのない舞台になってしまう気がするんですよね。
それに尊敬する加藤雅也さんが出てくださっていますからね。頼れるところは、先輩に甘えてしまおうかと(笑)」
信頼で場を回す。それが成宮寛貴流の座長像だ。

ターニングポイントでは誰かが手を差し伸べてくれる
連続ドラマの主演に続き、話題の舞台で主役の座を射止めた成宮寛貴。
「いつかまた舞台をという想いはあったが、こんなにも早く実現するとは予期していなかった」と、静かに振り返る。
「17歳の時、亞門さん演出の舞台『滅びかけた人類、その愛の本質とは…』でデビューして以来、亞門さんとは何かとご縁がありまして。
去年の夏、芸能界復帰が決まったタイミングで偶然再会し、その直後にこの舞台の話をいただいた。すごく運命的なものを感じたというか……。『これはやらないといけない、やるべきだ』と、運命が言っている気がしたんですよね」
これまでのキャリアを振り返ると、重要な局面には必ず“誰か”の存在があったという。
「『こんなことに挑戦したい』と思ったとき、いつも扉の前に誰かが立っていて、その人と手をつなぐと、扉が開くんです」

連続ドラマ『死ぬほど愛して』の主演も、そのひとつだ。『金田一少年の事件簿N』『ブラッディ・マンデイ』などで親交のあった作家・脚本家の樹林伸からのオファーによるもの。
3年前に「やってもらいたい役がある」と声をかけてもらった際は断ったが、2024年、芸能界復帰を決めたタイミングで再度打診され、2年も待っていてくれたことに感激し、二つ返事で受けたのだという。
「俳優という仕事はひとりではできません。オファーをくださる方々がいて、応援してくださるファンがいて、支えてくれるスタッフがいる。多くの人によって生かされている職業だと思っています。そう考えると、僕は本当に恵まれていますよね」

