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2025.12.28

ピース又吉「1日3回行っていた本屋に行けなくなった」理由【桝本壮志対談④】

NSC(吉本総合芸能学院)で10年以上人気講師1位を獲得し続ける桝本壮志さんが、縁の深い芸人・クリエイターと語り合う本連載。25年以上の付き合いになるピース・又吉直樹さんを迎えた4回目。

桝本壮志と又吉直樹

「太宰が好き」と公言した本当の理由。あえて“王道”を選んだ優しさ

桝本 まったん(又吉直樹さん)は現代文学もいろいろ読んでいたのに、芥川賞を受賞したときに好きな作家として太宰と芥川をあえて挙げたんだよね。

又吉 僕が好きと言ってもびくともしない作家の名前を挙げたかった……という理由もありましたね。

桝本 それは何でなんだろう?

又吉 たとえばバラエティ番組で「芸人の私服をジャッジ」という企画があったとします。そのとき、僕があるブランドの服を着ていって、「お前メッチャダサいな」と言われたら、そのブランドに迷惑かかりますよね。

桝本 なるほど。

又吉 だから僕は、そういう企画では古着を着るようにしてたんです。それを本に置き換えたときに、「あんな奴が読んでる本」みたいに言われて迷惑をかけたくないと思いました。そして「自分が好きって言ったぐらいで、びくともしない作家って誰や」と思ったら、やっぱり漱石とか太宰とか芥川になったんです。

桝本 本当はもっと違う名前も浮かんだんだけど……。

又吉 そうですね。そう答えたら「本好きを公言していて、2000冊も読んで太宰ですか(笑)」とか言われたりもしましたけど、初めて本を読む人の入り口としても、本をたくさん読んできた人の出口としても耐えられる壁だと思うので、いいセレクトだったなとは思います。実際もちろん好きですし。

又吉直樹
又吉直樹/Naoki Matayoshi
1980年大阪府寝屋川市生まれ。NSC東京校5期。前コンビでの活動を経て2003年に綾部祐二とお笑いコンビ「ピース」を結成。文筆業では2015年『火花』で第153回芥川賞受賞。近著にヨシタケ シンスケとの共著『本でした』など。2026年1月に新作小説を刊行予定。

「芸人が書いた小説」という偏見。本屋に足が向かなくなった3年間の苦悩

桝本 まったんの本を読んでいて驚いたのが「本屋に行きづらくなった」って言葉なんですよね。僕も本屋によく行くんですけど、2020年に小説(『三人』)を出してから行けなくなって。又吉さんの場合は「芸人がこっち(文学)の領域を侵すな」みたいな風当たりがあったみたいだけど、これまで本に救われてきた人が本屋に行けなくなったのは辛かったんじゃない?

又吉 言論に携わる人や文芸の人は、テレビ業界より「平等であること」に敏感な人たちだと思っていたんですよね。差別に対しても早い段階で「これは良くない」と感性で感じ取っている人たちだ、と。

桝本 そう思うよね。

又吉 でも僕が小説を書いたときに、「芸人が書いた小説」という部分だけを切り取って発言をする人がいたんです。普段は公平性を大事にしている人たちのはずなのに、職業の貴賎で物事を見ているような言い方に、僕はショックを受けて。ある作家さんから「こっちの仲間になる気があるんなら……」みたいな言い方をされたこともありますし。

桝本 えー、ひどいですね、それ。

又吉 僕はいじめっ子に与するのは絶対嫌やし、威張ってる権力者も昔から好きじゃないんで、そこに入っていきませんでしたけど。それで2~3年は本屋に行きづらくなってしまいました。

桝本 2、3年も!? 『火花』は2015年刊行やから、それから数年か。

桝本壮志
桝本壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)および、よしもとクリエイティブアカデミー(YCA)の講師。2連覇した令和ロマンをはじめ、多くの教え子をM-1決勝に輩出している。新著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』が絶賛発売中! 桝本壮志へのお悩み相談はコチラまで。

又吉 僕はもともと1日3回くらいは本屋さんに行ってたんで、いまだにその本調子には戻れてないですね。そのとき誰に何を言われたかを覚えてて、棚を見たらその人がいるわけじゃないですか。それで「この人、嘘つきやな」とか思ってしまうので行けなくなるんです。

桝本 実は僕も似た経験があって、あるタレントさんが「表に出てくる放送作家は信用できない」って言っているのを聞いたあとで、本を出したり『サンデージャポン』に出演したりすることに「僕はやっちゃいけないことをしてるのかな」と感じた時期があります。それで本屋に行くことが億劫になったし、本を好きだったのに嫌いになる話は、ちょっとわかる。

一方で、まったんに嫌なことを言った人たちの気持ちになってみると、文章だけでやってきた自分たちのグループに、芸も演技力もある人が入ってきたのが怖かったんだろうね。

又吉 でもえらいもんで、僕が「この人すごいな」「いかついな」と思っている作家さんは、僕のことを歓迎してくれたんですよね。「読みましたよ。面白かった!」って。北方健三さんは、初めて会った時に手を広げて「又吉さん握手をしましょう」って言ってくれましたし。

桝本 余裕がある人は違うよね。

又吉 たとえばテレビの現場で、芸人でもタレントさんでもない人が大活躍したら、僕も桝本さんも「面白かった!」って言うじゃないですか。

桝本 もちろん言います。

又吉 それって、やっぱり「二十何年も自分はこの世界でやってきた」という自負もあるし、「自分には自分の芸があるから、別の人が面白いことしているのはそれでええやん」というのがあると思うんです。作家でも、大多数の人はそうなんですよ。でも、僕が幻想を抱きすぎていて、一部でいろいろなことを言う人達の存在を大きく感じてしまったんです。

桝本 それは本気で本を愛してきたからこその反動やろうね。

又吉 あとテレビの世界と比較すると、『いいとも』(笑っていいとも!)とかって、ほんとあらゆる職種の人が出てたじゃないですか。「誰かのそっくりさん」というだけの学生さんも出たりするし。僕、そういう部分が「テレビっていいな」と思ったりするんです。『のど自慢』とかも一般の人が出てますけど、メチャクチャ面白いじゃないですか。

だから僕、テレビって差別とかの問題では「遅れてる」と言われることもありますけど、「誰が出てもいい」という平等さでは先んじてる部分があると思うんです。僕は文筆の世界のほうが先進的やったと思ってたんですけど、そこは印象が変わった部分でした。

※5回目に続く

TEXT=古澤誠一郎

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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