PERSON

2025.12.26

抱っこでレコーディング、ツアーで授乳…このままでは壊れる。AI、子育てで変わった仕事の仕方

2025年、デビュー25周年を迎えたアーティスト・AIが、自身初となるメッセージブック『ひとりじゃないから』を刊行。その半生のなかで感じてきたこと、受け取ってきた言葉を、AIならではの視点で紡いだ80のメッセージを収録した。インタビュー後編では、母になったことで見えてきた景色や、仕事との向き合い方の変化について語ってもらった。 #前編

「このままでは壊れると思った」子育てを経て変化したAIの仕事観

一番の変化は、“母になったこと”

デビュー25周年を振り返ると、「あっという間だった」と語るAI。J-POP史に数々の軌跡を刻んできた彼女が、初の書籍『ひとりじゃないから』を制作するにあたり半生を振り返ると、改めて“挑戦”を重ねてきたことに気づかされたという。

「自分のなかで一番大きな変化を与えたのは、やっぱり子供を授かったことですね」

2014年に結婚し、2015年に長女、2018年に長男を出産。その間も音楽活動を続けてきた。

「子供を授かってからは、それはもう人生が変わりました。些細なことでいえば、遅寝遅起きが早寝早起きに変わった(笑)。それまでは睡眠を邪魔されるのがいちばん嫌いだったんですよ。

でも子供がいたらそんなこと言っていられない(笑)。子供は、私の睡眠なんて関係ないですからね。すべてが予定どおりになんていかないんだから。今は思いますよ、世の中の皆さんどうやってるの!?って(笑)」

母として、アーティストとして歩む日々は、AIをより強くしていった。

「赤ちゃんの頃は、レコーディングに連れて行ったこともありました。胸元に抱えたままマイクの前に立つんです。途中でね、いいタイミングで泣いたりするんですよ(笑)。それで録り直したりということはしょっちゅう」

聞けば楽しそうにも思えるが、当時の苦労は計り知れない。一方で、大ヒットソング「ハピネス」は妊娠中に作詞したもの。「キミが笑えば」というフレーズの「キミ」は、やはりお腹の子だったのだと想像せずにはいられない。

「ツアーもおっぱいをあげながら、でしたからね。自分のなかでもアップダウンはあって、そういう些細なことをひとつ乗り越えるのも大変な時期でしたけど、その大変な時期があったからこそ、今の自分がある。それは確実に言えますね」

メッセージブック『ひとりじゃないから』のなかにも、親子愛を思わせる箇所がいくつもみられる。母としての愛が加わったAIの力強く、優しい姿がそこにはある。

AI
1981年アメリカ・ロサンゼルス生まれ、鹿児島県育ち。中学卒業後、ロサンゼルスの名門LACHSAでダンスとゴスペルを学ぶ。卒業後、日本でデビュー。力強く繊細なボーカルと、誰かを勇気づける歌詞で「Story」「ハピネス」など数々のヒット曲を生む。2025年、デビュー25周年を迎えた。

嫌いだった“なんとかなる”を、受け入れられた理由

母というパーソナリティが加わることで、また仕事人としての心構えも大きく変わっていったという。自分の思いどおりにいかない育児と向き合ううちに、寛容性が育っていった。

「なんとかなるでしょう、どうにかなるでしょうって言葉があるじゃないですか。これ、子供が生まれるまでは、私がいちばん嫌いなフレーズだったんですよ。

昔は、自分の力で、とにかくなんとかしなきゃ、って思っていたタイプ。マネージャーと喧嘩したりもするんですが、“AIは真面目すぎる”と言われるほどで。私、結構真面目なんですよ(笑)」

それゆえに、思いどおりにいかない苛立ちを溜め込んでしまいがちだったが、育児を続けるうちに心の変化が訪れた。

「育児に向き合っているうちに、だんだんね。ちょっとずつ、“なんとかなるだろ”って思い始めて(笑)。最初の2年くらいは、自分の性格と折り合いをつけるのが、結構難しかったんですけどね。このまま続けてたら“死ぬな”って思いました」

完璧主義の自分と、これは手抜きなんじゃないかという疑念とのジレンマ。歌を仕事にしている以上、子供のちょっとした風邪への対応ひとつ取っても、判断に迷うことが多かったという。

「いろいろな人のアドバイスも受け入れて。結局、もういいや、なんとかなるって(笑)。そう言えるようになってから、楽になりましたね」

ミュージシャンとして大成した今、チームを率いる存在にもなるなかで、リーダーとしての振る舞いなどにも影響はあったのだろうか。

「人に強要するタイプではないんです。自分が細かいだけで。ただ昔は気になっていたことも、“その人の人生だし”と割り切れるようになりました。今は、自分がやるべきことをちゃんとやればいいって思うようにしています」

育児を通して得た成長と、AIらしいポジティブな変換力が、大きな支えとなったのだろう。

苦労のあとには“楽”がある

仕事人として真面目で、つい詰め込みがちになるというAI。そのリフレッシュ法はどんなものなのだろう。

「とにかく食べます(笑)。そのとき食べたい美味しいものならなんでもOK。ツアー中なんかは、ケータリングも充実しているので。それも楽しみ。食べると本当に元気が出るんですよ(笑)」

そして印象的だったのが、“音楽が聴けるようになった”という言葉だ。

「“最近どんな音楽聴いてますか?”とか、取材でも日常でもたまに聞かれることがあるんですが、子育てに追われているときは、うまく答えられなかったんです。聴けてないから。

音楽って余裕がないと聴けないんですよ。子育てにてんやわんやしているときは、なかなか“自分の時間”というものがないし、心にもそんな余裕がなくて。もちろん自分の曲なんかもまったく聴けない。でも子供が成長して少しずつ余裕が生まれたときに、自然と音楽を楽しめるようになりました」

歌声にも変化が出てきたという。

「子育てって自分を成長させる修行だったんだなって(笑)。食べたいときに食べられない我慢、座りたいときに座れない我慢、トイレ行きたいときに行けない我慢。これってもう修行じゃないですか。これを経験したから、今、すごく楽になっているんです」

そう話すAIは、ふと高校時代のLA生活を思い返す。生まれ故郷でもある街で、ゴスペルに触れ、歌手を志して異国で挑戦した日々だ。

「夢を追いかけながら、たくさんの経験をして、すごく大変で。でもやっぱり当時も、この経験があとになって活きてくるって信じていました。このツラさを乗り越えられた自分にも自信が持てるし。これがあったから次もいけるって思えました」

経験を活かす。とはよく言うが、その言葉をAIはまさに体現してきた。

「ときにイライラすることもあると思うけど、これも修行って思えれば、ね」

そうした経験が、彼女の紡ぐ言葉、歌詞にも現れてくるのだ。

「何もない人生よりも、なんかあったほうがいいんですよ、絶対に。自分のことでいえば、そうした経験から、歌詞も生まれるわけですし。もちろん歌っている最中も、変な言い方ですが、“自分に伝わる”んです」

AIの歌詞に、歌声に心を動かされたことのあるリスナーたちは少なくないと思うが、さまざまな人生経験と、乗り越えてきた思いが相まって、歌詞に乗ったとき、化学反応が起きるのだという。

「歌っていると、“自分が感動するとき”っていうのがあって。やっぱり歌詞を書いたときって、自分の経験もあるし、その言葉が生まれた背景も流れもわかっているので。自分に酔いしれるのではなくて、改めて、自分を俯瞰してみて、その歌詞が自分を感動させるんですよね。

簡単に言うと、ツラいときのほうが、思いをのせやすい。楽していると、軽くなる。もちろん、ハッピーに向かって生きていますけど、ツラいことがあってもやっていけるんです、ということです。ちょっと難しい話かもしれませんが」

語るエピソードのひとつひとつが、聞く人を励まし、背中を押してくれる。ツラい時期を乗り越えながら「なんとか楽しく、ハッピーにやっているよ」と語るその人生をとおして、応援してくれる存在が、AIなのかもしれない。

「ハッピーオーラをくれる仲間が私の周りにはたくさんいます。そういう人たちは、見えないところでも気遣いができるし、素晴らしい動きをしているんですよ。でも、努力を見せないし、言わない。そんな仲間たちの姿が励みになっています。

見習うべきことっていろいろあるけれど、それはひとつじゃないし、バランスよく、多くの人のアドバイスを聞いて、取り入れて、自分に合うかどうかわからないけど、一応やってみる。何が答えなのかはわからないですからね」

きっとAI自身も、そんなふうに周りを支え、鼓舞する存在なのだろう。最後に、自身の描く将来像を聞いた。

「本当、将来のことなんてわかりませんからね。今は歌ってますけど、急にメイクさんになりたいとか思うかもしれないじゃないですか。でもそうやって可能性を開いておけば、いざというときにいくらでもチャレンジできる。自分がしたいと思ったときに、それができるように。そういうふうに軽やかに生きていければと思います」

彼女が、その道を歩むために必要だった言葉たちが詰まった80のメッセージを体感できる、本作『ひとりじゃないから』。何か道に迷っていたり、うまくいかないモヤモヤを抱えている人たちにAI自身の経験とその言葉が、きっと優しく寄り添ってくれるはずだ。

書籍衣装協力:アラミンタ ジェームス、プロヴォーク デザイン ブティック、アコック、パンカデリック(すべてジャック・オブ・オール・トレーズプレスルーム TEL:03-3401-5001)

TEXT=高村将司

PHOTOGRAPH=倭田宏樹

STYLING=後藤則子

HAIR&MAKE-UP=小野明美

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