アーティスト、アイナ・ジ・エンド。彼女を語る際、人気グループBiSHの元メンバーといった説明はもはや不要だろう。圧倒的な表現力で、日本の音楽界において存在感を存分に発揮しているのだから。そんな彼女が、自身初となるフォトエッセイ『達者じゃなくても』に、その半生を綴った。インタビューをまとめる体裁ではなく、自らの手で文字どおり書き上げたのだ。

2015年より所属した「楽器を持たないパンクバンド」BiSHが、2023年6月に解散。以降もグループ在籍時からのソロ活動を本格始動させて、新曲を続々リリースし、公演も多数実施。2025年10月からは全国9都市を巡るワンマンツアー”革命道中”を開催予定。
「書くこと」でたどり着いた“真実の自分”
「もともと文章を書くのは好きでした。ただ、いざ書くとなると、いろいろ苦労もありましたね。本としての体裁が整ったのは、編集者さん、校正者さんのおかげです(笑)」
家族、恋愛、グループ、ソロになってからのこと……。本作に綴られた40の“おはなし”からは、30歳を迎えた人間、アイナ・ジ・エンドがリアルに感じられる。書くことは、歌詞のようにはいかなかったそう。
「作詞の場合は、メロディーが助けてくれるので、少々ふんわりさせていても成立するのですが、エッセイにはメロディーの助けはありません。そのぶん、逃げられませんでした」
文章を書くことに向き合うべく、趣味の読書も量を増やし、その表現を磨き上げてきた。そんななか、書いたことで得た気づきもあったようだ。
例えば、作品中に「恋愛」と銘打たれた小編がある。これは、彼女の初恋を綴った章だ。
「アイナ・ジ・エンドとして、これまで恋愛について話したことは全然ないので、どう向き合えばいいのかという不安がありました。いざ書いてみるとこんなにも表現しやすいのか、と。自分にとって、“書く”ほうが、温度感をきちんと伝えられるんだと実感しました」
一方で、書くことへの躊躇もあった。人生30年を振り返れば、辛いことも少なくなかった。それをどう表現すればよいのか。苦労自慢に見えはしまいか、自己満足に陥りはしまいか。
「27歳のころは、ちょうどミュージカル『ジャニス』と、映画『キリエのうた』が重なっていて、1日の休みもなかった時期。これを書くことは難しくもありました。でも、これから自分の道を進む人たちにとって、“アイナはこういう道を選んだんだ”程度に軽く読んでもらえればいいと思うことで気が楽になりました。その時期は、自分にとっては不可欠だったので、書かないという選択はなかったです」
一方で、彼女の文章とともにこの本を彩るのが、表情豊かなたくさんの写真である。
「数年前までは、“自分がこうありたい”という強い想いのもと、カメラの前に立つことが多かったんです。ある時から“なるようにしかならん”って思い始めました(笑)。動きを型にハメにいこうとしないほうがいいんだなと。これは、自分がずっと続けているコンテンポラリーダンスの発想にも近くて、カメラの前でも楽になりました」
言葉どおり、彼女の自然体が楽しめる仕上がりとなっている。
このように一冊の本にまとめることで、自分自身を改めて探究する旅となったようだ。ソロになって気づいたことも数多くある。なかでも彼女の軸である「歌」については、新たなフェイズを迎えているという。
「10年歌って、ようやくアイナ・ジ・エンドに似合う歌というものが見えてきた段階。それは、これまでの多くの経験から学べたことですが、ソロの場数を多く踏めたのも大きいです。だから今は、これまで以上に羽ばたけるような気がしています」
最後にタイトルの「達者」に込めた想いを話してくれた。
「自分自身を評価するなら、不器用で怠惰な人間。自分のような達者じゃない人でも、達者でも、がむしゃらでも、怠惰でも、生きていければいい。そんな想いを込めて、他の本と被らないよう検索して決めました(笑)。私の好きな尾崎豊さんの著書『誰かのクラクション』みたいに、誰かの心に残ったらいいなと思っています」
