2000年代のJ-POPシーンを語るうえで欠かせない存在・AI。圧倒的な歌声と、心に寄り添う詞で支持されてきた彼女が、デビュー25周年の節目に初のメッセージブック『ひとりじゃないから』を刊行した。長く人々を励まし続けてきた“AIの言葉”は、どのように生まれ、どんな思いが込められているのか。インタビュー前編では、自身初となる書籍制作の裏側と、80のメッセージが生まれるまでを語ってくれた。 #後編

決め手は、“自分の言葉で元気をもらう人がいる”というひと言
中学校卒業後、生まれ故郷でもあるロサンゼルスへ渡り、音楽の道へ。2001年に帰国し、日本で歌手デビューして以降、AIの歌声は私たちの生活に溶け込み、気づけば街やテレビのどこかで自然と耳にする存在となった。
そして2025年、デビュー25周年を迎えた節目に、初のメッセージブック『ひとりじゃないから』を刊行した。
本書は、自身の名を広めた大ヒットソング「STORY」をはじめ、数々の歌詞を紡いできた、作詞家・AIの“言葉”に焦点を当てた1冊だ。
「本を出す? 私が? 自分の人生なんて大したもんじゃない。書籍を出すならば、もっと面白い人生の人がいるはず。最初はそう思っていました(笑)」
そんな彼女の背中を押したのは、「歌詞を書くように書いてほしい。AIさんの言葉で元気をもらう人がいる」という編集者のひと言だった。
「自分に何か面白くできることがあるのかな、と半信半疑でしたが、これまで多くの人から、自分の力になる言葉はたくさんいただきましたから、面白いかどうかはさておき、とにかく伝えていこうという気持ちでしたね」
実際、このメッセージブックを読むと、その言葉からも想像できる、人間としてのAIがまるごと感じ取れるような1冊になっている。
制作過程では、まずAIがこれまで歩んできた半生を編集チームへこと細かに語った。
「トータルで3日間くらい話したかな。途中から“こんなにも真剣に聞いてくれるのか”とうれしくなりました。下手したら、スタッフの皆さんのほうが、私のことを私以上に知ってしまったかもしれません(笑)」
これまで体験したことのない、半生を語るということによって、AIさんにも新たな気づきがあったという。
「他人に話すことで、自分のことをより深く知ってもらったり、自分の気づかなかった面に気づいてもらえたりと、短い期間でしたが、安心感が生まれていきました」
どこまでもこだわり続けたのは「言葉」
そんななかでも、AIが最後まで妥協しなかったのは“言葉の真実味”だった。
「私が人生で受け取ってきた言葉や、いろいろな局面で感じてきた言葉は、自分にとってもすごく大切なもの。だから表現にはこだわりました。
説教じみていないか、嫌な気持ちにならないか、おかしな表現になっていないか。それはもう、“意地悪な客”になって、細かくチェックしましたよ(笑)」
編集者が補足を加えた言葉に対しても、AIらしさが薄れるならすぐに修正。作詞とは違う難しさもあったという。
「話したままの言葉って、文字にすると案外伝わりにくいものですよね。もちろん、補足していただくのはありがたいのですが、私らしくなければ変えました。
“人に伝えるための言葉”ですが、“自分の言葉”でもありますから。私にとっては“余計な”表現だったりするので、スタッフの皆さんとバランスを取りながら、一緒に作り上げていきました」

1981年アメリカ・ロサンゼルス生まれ、鹿児島県育ち。中学卒業後、ロサンゼルスの名門LACHSAでダンスとゴスペルを学ぶ。卒業後、日本でデビュー。力強く繊細なボーカルと、誰かを勇気づける歌詞で「Story」「ハピネス」など数々のヒット曲を生む。2025年、デビュー25周年を迎えた。
タイトル「ひとりじゃないから」に込めたもの
自分の言葉で誰かが元気づけられるなら――。これは、作詞におけるマインドと変わらない。人を鼓舞していくAIの原動力のひとつといってもいいだろう。80のメッセージには、その思いがまっすぐ込められている。ただ、そこに押しつけめいたものはない。
「私の言葉を、誰がどのように受け取るかなんてわからないじゃないですか。その人がうまくいくかどうかもわからないですから」
受け手にとって変わりうる言葉であることも自覚しているし、意図的に多層的な表現を使っているようでもある。
書籍のタイトルにもなった「ひとりじゃないから」という言葉にもまた、さまざまな意味合いを帯びた言葉だという。
「優しさの意味での“ひとりじゃないから”のほかに、“ひとりじゃないから”こそ、その先、あんたはどうすんの?という意味もあります。ちゃんと自分のこれからのことを考えられているか?」という。
自分と、未来へ連なっていく誰か。その存在を前提にしたメッセージであることは、「キミが私を守るから」という言葉にも通じる。
「受け取り方は人それぞれって言いましたけど、なかには一点で“こう受け取ってくれよ”というものもあります。ただ80もメッセージがあるので、ひとつひとつ説明できなくて、結局、思い思いに感じ取ってくださいって言っちゃうんですけど(笑)」

これを読んで、よりいいほうに向かってもらえれば
AIの80のメッセージには、「優しさ」をテーマにしたものも多い。他人がかける「優しさ」に対する鋭敏なアンテナを持っていることが感じられる。
例えば、メッセージ10の「人の優しさに 逆らえない 逆らわない」。余白があり、読む側によって何通りにも意味があるようにも思える表現だ。
「優しさって基本はありがたい。でも、素直に受け取れないことってあるじゃないですか。自分に余裕がないと、ありがたいけど……っていう(笑)。
その優しさに返せないとき、何か返そうとすると、途端に全部爆発して、優しくしてくれた人に全部ぶつけてしまいそうな。そんな“ありがたいけど……”の気持ち。
結局、優しくしてくれる人は優しいんですよ。パワーがあるし。何より尊い。でも……永遠のジレンマですね(笑)」
必ずしも正義・正論でいるわけではない。そんな、人間味が溢れたAIだからこそ、多くの人が共感するのだろう。

最後に、これからメッセージブックを手に取る人にメッセージをくれた。
「私がこれまで受け取ってきた言葉を私なりに解釈して、そのまま伝えています。どんな方でもチェックしてくれたらうれしいですし、元気がない友達などにプレゼントしていただいてもいいかも。
少しでも、何か生きるヒントになったらうれしいです。もしかしたら、この本をきっかけに、何かと繋がれたり、いい出会いが生まれたりするならば、それは最高。ぜひ手に取っていただけたらと!」
「ひとりじゃないから」――次世代にも繋ぐことのできる普遍的なメッセージがここには記されている。
書籍衣装協力:アラミンタ ジェームス、プロヴォーク デザイン ブティック、アコック、パンカデリック(すべてジャック・オブ・オール・トレーズプレスルーム TEL:03-3401-5001)




