この人ならば、何をやってもロックになる。芸人としても活躍する粗品が2枚目のアルバム『佐々木直人』をリリースした。タイトルはありのまま本名。歌詞もメロディーも演奏もありのまま本人。

「ありのまま」のロックを歌う。本名アルバムに込めたむき出しの魂
収録曲「告白」では自分が認めない対象を徹底的に否定。「惑乱竜クレイジア」では嫉妬心や自分のもろさをさらけ出し、「直人とお母さんの歌」で溢れんばかりの愛を歌う。
ギターとボーカルは粗品自身。ドラムスは岸波 藍。ベースは藤本ひかり。楽器の数が少ない3ピースバンドなので、演奏のなかに心地よい隙間が生まれ、歌詞がストレートに響く。
「1枚目のアルバム『星彩と大義のアリア』は、ジャンルとしてのロックを意識し、リーゼントにして、革ジャンを着てライヴ会場に向かいました。まず、カタチから入ったわけです」
その後、もっと自分らしいスタイル、自分らしい音楽を模索していった。
「大阪でライヴをやる日、朝起きた寝ぐせの髪でパジャマのまま、東京から新幹線に乗りステージに立ちました。すると大きな発見があった。無敵なんですよ。自分のままでいいので、正解も不正解もない。強いて言えば、自分であることが正解です」
それまでに体験したことがないほど気持ちよかった。
「楽曲もありのままの自分で行こうと制作したのが今作です」
歌う内容も、演奏も、むき出し状態で完成した『佐々木直人』は、やはり、ありのままのロックだった。
ロックは音楽のジャンルだけではない。生き方でもある。戦う人がそのスピリッツのまま音楽をやるからロックになる。
粗品は2歳でピアノを、13歳からギターを始めた。今はピアノとギターとコンピュータでデモ音源をつくる。今作は全12曲。2週間でつくったデモをもとにドラマーとベーシストがニュアンスを加えていく。
「僕は音感がいいんです。リズム感、声のトーン、スペース感覚……など音楽の素養をお笑いにも生かしてきました。同じネタでもテンポや間で伝わり方はまったく違う。だから音感のよさをお笑いに生かし、客席の反応から得た感覚を音楽にも生かしています」
このアルバムには、時間がかかった歌詞もあった。
「ラストの『直人とお母さんの歌』です。書きたいことが多すぎました。僕の母は辛抱ばかりだった人。両親は大阪で焼肉店を切り盛りしていて、母は父方の兄弟に厳しくされていました」
そんな母のひと言が粗品の努力の源泉になっている。
「直人が生まれた時、私はすべてを赦した」
この母の言葉のなかに、自分への深い愛情を感じた。
「父は腎臓を悪くしました。でも血のつながった身内は誰も臓器を提供してくれませんでした」
父は母から腎臓を移植。一命をとりとめた。血縁ではないが、臓器は奇跡的に適合した。
「並んだベッドに横たわり、手術室に運ばれていく父母の姿は忘れません」
数年後、父はがんで他界。母はひとつの腎臓で体調を崩しながら、店で立ち仕事を続けた。そんな母への愛情が曲にぎゅっと詰まっている。今も実家に戻ると母の愛情を思い切り浴びる。
「愛しの直人よ! と迎えてくれます。愛情たっぷりに育てられたことが僕の努力の源泉です」
「皆さんが飲み会を楽しむ間に、僕は誰にも負けない努力をします」
粗品は創作活動で成果を得るため、他のさまざまを排除。
「創作は睡眠時間を削って続けます。その代わりオフ日には17時間くらい、泥のように眠る」
芸人とアーティストの共通の障害はお酒と女性だと言う。
「このふたつを排除すれば、創作にかなりの時間を捻出できる。だからお酒はやめて、女性とも距離を置いています。
僕のように常にメラメラ燃えている人間は、お酒に時間を割いていたらダメ。皆さんが飲み会で楽しんでいる間に、僕は誰にも負けない努力をします」

芸人・アーティスト。1993年大阪府生まれ。2歳からピアノ、13歳からギターを始める。芸人として受賞歴多数。2020年よりボカロ曲を、2024年にはアルバム『星彩と大義のアリア』を発表。2025年10月2日より全国5大都市ツアー「新世界より」をスタート。