柳沢敦(鹿島アントラーズ)、大黒将志(川崎フロンターレ)…Jリーグのコーチとして活躍する元日本代表FWがいる。名古屋グランパスのコーチを務めている玉田圭司もそのひとり。2024年は埼玉県の昌平高校をインターハイ優勝に導いた。初めて指揮を執ったチームを飛躍させたその哲学について訊いた。インタビュー2回目。

1980年4月11日千葉県生まれ。習志野高校卒業後、柏レイソルに入団。2004年日本代表入り。2006年名古屋グランパスへ移籍し、同年ドイツ、2010年南アフリカとワールドカップ2大会連続出場。2015年からセレッソ大阪でプレーし、2017年名古屋へ復帰。2019年V・ファーレン長崎に移り、2021年現役引退。2024年春、埼玉県の昌平高校サッカー部の監督に就任し、夏のインターハイで同校を優勝へ導く。2025年、名古屋グランパスのコーチに就任。
リスクを冒さなくなると成長はできない
――引退後、玉田圭司さんは解説者には転じなかったですね。
「サッカーを見るのは好きですし、海外サッカーもJリーグもよく見ているけれど、解説をやってみたいとは思わなかったんですよね。いろんな考え方があると思うんですけど、僕は指導者を目指すと決めていたので、まっすぐにその道に進みました」
――2024年春に埼玉県の名門、昌平高校サッカー部の監督に就任しました。前監督(現チームディレクター)の藤島崇之さんは、高校時代のチームメイトだったそうですね。
「昌平の強化部には藤島以外にも習志野の仲間が揃っていて、以前から『いっしょにやろう』という話をしていました。僕が引退したことで、より現実味が増して。僕自身も子どもたち、ユース世代を指導することは大きな経験になると考えて、最初はスペシャルコーチという形で1年関わり、その後監督になりました」
――春に監督に就任し、夏のインターハイで全国優勝。快挙とも言われています。どんなエッセンスをチームにもたらすことができたと考えていますか?
「もともと、技術力のある選手が揃っていたし、組織としての戦術、規律という土台のうえに、選手個々が活きるようなサッカーをしたいと思っていました。だから、『成長するために何をすべきかを考えよう』と。『個性を発揮することが大事だよ』と伝えていました。どんな試合でも勝つことは大事。インターハイでも選手たちは『絶対に優勝するぞ』という気持ちでまとまってくれた。とはいうものの、日頃言っていたのは『勝つためだけにプレーするな』ということです」
――勝利至上主義ではないと。それでもトーナメント戦であるインターハイでは、どうしても「勝つためのプレー」を選択してしまうのでは?
「勝利を目指すなとは言ってない。ただ、勝つためだけにサッカーをしていると、すごく雑なプレーが増えるんです。リスクを冒さず、消極的なプレーになってしまったときは、『絶対にそういうプレーはしないでくれ』と伝えました」
――理解は得られましたか?
「たとえば、ミスを怖がって積極的なプレーができないのと、たとえミスがあってもチャレンジしているときとでは、選手の成長はまったく違うんです。確かにミスで失点してしまった試合もあります。それでも『チャレンジ』を続けてくれたことで、ミスをした選手だけじゃなくて、チームとしても気づきを得られ、成長することができる。もちろん、高校年代だからというのもあります。ここから、大学やプロでサッカーをしていく選手も多い。だからこそ、原点となる高校時代では、成長を意識したプレーを選択してほしいと思っています」
――玉田さんの高校時代の経験も影響しているのでしょうか?
「かもしれませんね。僕がプレーした市立習志野高校は、いわゆる勝利至上主義という空気はなかった。僕が勝手にそう思っているのかもしれませんが(笑)。ライバル校だった市船(市立船橋高校)は、勝利に関して非常に厳しい空気があったと思います。だから、市船にはなかなか勝てなかったし。でも、僕は習志野の空気が合っていたし、習志野だから成長できたと感じています」
ミスをして笑っている選手を怒鳴る気にはなれない
――結果よりも成長という想いは高校時代から持っていたのでしょうか?
「そうですね。負けてもいいなんてことは、言われたことはありません。ただ、何のためにサッカーをやっているのかと言ったら、やっぱりサッカーが楽しいから。楽しさのなかで、勝つのが一番だという想いは、プロに入ってからも変わらなかった。自分が本当に楽しんで、サッカーをやっているときこそ、結果を残せたし、チームに最も貢献できた。そういう想いがずっとありました。それは、監督になっても変わらないですね」
――楽しさにもいろいろあると思いますが……。
「そのときどきで、何が楽しいかは変わるので、言葉にするのは難しい。代表に入って、海外の選手とプレーして、歯が立たない。じゃあどうやって攻略するのかと考えて、挑戦することを楽しいとも感じるし、敵だけでなく、味方や観客の意表をつくプレーをするのだって楽しい」
――挑むことと楽しさが繋がっているようですね。
「たとえば、ミスをした選手が笑っていると怒る人もいます。でも僕はそうは思わない。笑ったことを責めるつもりもないし、全然いいと思っている。ミスしちゃったけど、次もう1回やってみようという意気込みで笑みが出ることだってあるでしょう。考え方によっては、『こいつ面白いな』という風に僕は思っちゃう。『ミスしたくせに笑ってんじゃないぞ!』というのは絶対にイヤだなと考えています」
――勝利の喜びも大きいけれど、敗戦が勝つことに繋がることもありますよね。
「そうですね。もちろん、プロならば、勝たなきゃ評価されない部分もあります。でも、どんなチームだって、永遠に勝ち続けるのは無理じゃないですか? 負けたとき、その試合のなかでも、自分たちが満足できる部分のパーセンテージが高ければ、チームは絶対に強くなる。勝てるチームになれると思っているんです。そういうチームを作りたいと考えています。だからこそ、選手にはリスクを恐れずチャレンジしてほしいんです」
※3回目に続く

