2011年、女優の加藤ローサと結婚した松井大輔。結婚後はフランス・ディジョンで生活をスタート。その後、松井はブルガリア、ポーランド、静岡・磐田市、横浜、ベトナムと活動の拠点が変わった。ふたりの息子をどんなふうに育てているのか、インタビュー最終回は、家族の話を伺った。
親としての想いが出てしまうからこそ難しい
――現在、お子さんはおいくつですか?
「長男は中1で、次男は5年生です」
――サッカーはやっているんですか?
「上はバレーボールをやっています。『ハイキュー!!』を見て、やってみたいと。そこは『キャプテン翼』じゃないのかって(笑)。下の子はサッカーやっていますよ」
――教えたりはするんですか?
「『教えてくれ』と言われても、『お父さんは教えられない』と言ってます。遊び感覚でいっしょにサッカーをすることはありますが、教えるとなると、自分の子どもだと、力が入りすぎちゃうし、厳しくなりすぎてしまう。そうすると、子どもは面白くなくなるだろうし、サッカーを好きでなくなるのはイヤなので。楽しくやってほしいから、僕は教えません」
――どういう父親ですか?
「昭和っぽい父親だと思います。あまり、いろいろ言う感じでもないので。最後の砦でありたいと思います。おやじは何も言わないけど、怒らせないほうがいいよっていうのが、いいのかなと。そういう感じのラスボスみたいな存在になれたらと。反抗期もあるので、普段から厳しくしておかないと。おやじは厳しいというのがないと、歯止めがきかなくなることもあるので。反抗期には備えています」
――厳しい?
「基本的なことしか言わないですよ。人に迷惑をかけないとか、自分のことは自分でするとか。今の子どもはスマホを持っているから、SNSなどでも使ってはいけない言葉があるとか、マナーを教えたり」
――松井さんは高校進学時に、お父さんと一緒に九州の高校を周られましたね。
「そうですね。父親が僕にやってくれたこと、子どもがやりたいということのあと押しはしたいと思っています。うちの子どもは自己主張が強い。やりたいこと、やりたくないことがはっきりしているので。やりたいなら自分のことは自分でやるのは、最低限のこととして、そのうえでバックアップしたいですね」
――理想の父親像は?
「難しいですね。自分の子どもほど難しいものはない。ほかの子どもになら、うまく言葉が出ることでも、自分の子どもってなると、僕の感情が出すぎて、親としてという想いが強く出てしまうから。それが正しいとも限らないし、だから考えてしまうんです。意識しているのは、息子たちとは、人間として、一人の男として向き合い、つきあっていきたい。まだ子どもですけどね(笑)。子どもの成長に合わせて、距離を置いて話すことで自立を促せる面もあるだろうし……。でもまあ、やっぱり難しいですよ」
――さまざまな国でプレーしていたために、単身赴任だった時期もあるんじゃないですか?
「そうですね。これまでの僕はサッカーしかしていなかったので。どこへ行くのも妻が居なければ、実現できなかったと思いますし、彼女が支えてくれなかったら、プレーを続けられなかったと思う。まさにパートナーという感じです。子育ても相談や報告があって、僕は僕の意見を言うけれど、基本的には任せっぱなしだったので。感謝しかないですよ」
――これからは恩返しもしたい?
「そうですね。彼女が居てくれること、やってくれることが当たり前じゃないというふうにはいつも考えています。だから、食器を洗ったり、片づけたり、家事をすることは基本ですよ。サッカー選手はそういう選手が多いんじゃないかな(笑)」
――引退を決めたとき、奥様はどんなご様子でしたか?
「いつもと変わらないですね。特に何か言われたということもなくて。息子たちは『引退試合するなら、僕も出たい!』と言ってましたけど。
決めつけない、選択肢を与える、決めるのは選手
――指導するうえでやらないことはありますか?
「決めつけないことですね。『こういうふうにやったほうが良いよ』と言っても、常に『最終的には自分で考えて決断してね』というスタンスです。『今日教えたことは、試合のなかで自分が良いと思えば、使えばいいし、必要ないと思えば使わなくていい』と。大事なのは、選手自身の判断を促すこと。そのための選択肢を増やすのが僕の仕事だと思っています」
――たとえば、言われたことをできない。僕は下手なんだと、過小評価する子どももいるんじゃないですか?
「確かに全員がうまくできるわけじゃないので、悩むことはありますよ。でも、『できない』とは思わないでほしい。リフティングができない子がいたら、『僕も子どものころは何回しかできなかったけど、毎日ボールを触っていたら、10回が20回になったよ』と。日々の積み重ねで上達できるから、できないと諦めてしまうんじゃなくて、続けてほしい。
よく聞かれるのは『どういう練習がいいですか?』ということ。僕が伝えるのは、自分の好きなようにボールを触ってほしいと。ドリブルができないんだったら、足でボールを転がすところからやってみようと。一人ひとりに合わせてアドバイスをしたいですね。うちの息子が試合に出られなかったときに、『試合に出ているあの子は毎日走っているらしいよ』と言うと、『じゃあ、パパ明日から走ろうよ』という感じだったので。そういう仕向け方ができればと思っています」
――子どもの可能性を閉じない。
「そうですね。どれだけ『楽しく』を提供できるかが大事だと思っています。こうすればサッカーが楽しくなるとか、巧くなっていくんだよっていうのを促したい。楽しいと集中しやすくなるんです。だから、得意なことを伸ばしてあげたい。そうすれば、苦手も克服できるので。
もちろん、なかなかうまくいかない子もいます。そういう子が巧くなるのを見たいですね。今日はできなかったけど、1週間後に会ったら、できるようになっていたり、成長という変化を目にするのが楽しいです。子どもはその幅も大きいので、僕も頑張ろうという気持ちになれるんです」
ドリブルを教える本物がいないなら、僕ならできると思った
――日本代表でも三笘薫選手や伊東純也選手など、ドリブラーがゲームを動かしています。
「今のサッカーはブロックを組んで、相手に嵌めていくという戦術が主流です。そういうなかで、ドリブルで一人抜けば、数的優位が作れます。だからこそ、起点となるサイドハーフの選手がいるチームが強い。サイドはチームの翼なので。翼が折れたら飛べないでしょう?」
――確固たるチーム戦術が浸透している現代サッカーだからこそ、ドリブラーの個性が輝く。
「立ち位置や攻め方などいろんなものが決まっていても、ドリブルは想定外なんですよ。相手と対峙してのプレーなので。どういうふうに動くか予想ができない。たとえば、ピッチの3分の2まではチーム戦術で攻めることができても、最後の3分の1、アタッキングゾーンは選手個人個人の能力やアイデアの勝負になってくる。だから貴重なんですよ」
――いつの時代もスーパーなドリブラーがいますよね。
「ドリブルって魅力的じゃないですか? ドリブラーがボールを持ったら、何かが起きるとぞと、見る人を釘付けにしてしまう。面白い選手、個性的な選手も多い。そういう選手は後世に残ります。後世に残るような選手を育成したいですね」
――ドリブルデザイナーというYouTuberもいますね。
「ドリブルのレパートリーやいろんなボールの触り方、考え方が増えるというのは、選手にとっての引き出しになるので、良いと思います。僕が見ても面白いなと感じることもある。でも、実際にそれが試合で使えるか、海外で使えるかといえば、使えるもの使えないものがあると思います。レベルが上になればなるほど、使えるものは限られてくる。
そういうなかで、ピッチに立ち、プレーし、経験した僕自身はいろんな正解を知っている。その正解を論理的に示せるなら、僕がやってみようと思ったというのはあります。僕は経験があるので。それを活かして、日本サッカーの底上げができればいい」
――経験が宝だと。
「そう考えると、僕は指導者としての経験はまだまだ足りない。だからこそ、いろんな引き出しを持たないといけないと思うし。今は引き出しをいっぱい増やす時期かなと思っています」