PERSON

2024.07.02

松井大輔「ドリブル特化の指導で、後世に残る選手育成を」横浜FCや浦和で異色コーチング

2024年2月に現役引退を発表した松井大輔。現在は横浜FCのスクールでドリブルを中心に指導している。また浦和レッズアカデミーのロールモデルコーチにも就任。自身の武器であるドリブルをいかに子どもたちに伝えているのか? インタビュー2回目はドリブラー育成の重要性について訊いた。

フットサルをやってよかった

――年齢を重ねた松井選手は献身的な守備やバランサーとしての能力も長けた選手という印象がありますが、やはりドリブルは大きな武器だと感じます。子どものころから、ドリブルが好きだったのでしょうか?

「そうですね。ただ単にボールをずっと持ち続けていたかったので。試合でボールが持てる時間は限られているじゃないですか? 僕らは『キャプテン翼』世代です。ボールを持って、相手を抜いて、スルーパスを出す翼くんは本当にカッコよくて、翼くんを真似るのが流行っていた時代だったので、自然とそれにとりつかれていったという感じです」

――とはいえ、常に翼くんみたいにはできないですよね。

「もちろん。プロになってから毎日僕は躓いてましたよ。昨日はできた、でも今日はできない。この試合は良かったけど、次の試合はダメだったとか、ドリブラーは波があるので。ドリブルというのは、相手と対峙して、抜くか獲られるかの2択しかない。効率良く抜けるなんてそうそうないんです。三笘(薫)選手は効率良く抜けているけど、それはロジックがあるから。すごいと思いますよ」

――壁にぶつかりながら、重ねたキャリアだったんですね。

「やっぱり失敗しないと得るものってないと思うんです。成功ばかりだと、実はメンタル的には弱くなる。ドンと落とされたときに、這いあがれないから。毎日の練習で、試合で、失敗を重ねるわけじゃないですか? そのたびに怒鳴られる。でも、それが僕にとっては大事なことでした。今思えば、僕に関わってくれた監督は、そうやって失敗することも許してくれていた。

怒鳴られはするけれど、『ドリブラーなんだから、失敗することで怖気づくな』というメッセージがあったし、そういう監督と出会えたことはすごく嬉しかった。僕はなかなか難しい選手だと自分でも思っているけれど、そういう僕を使ってくれるんだから。代表でいえば、(イビチャ・)オシムさんもそうだし、岡田(武史)さんもそうでした。いろんな監督がいましたけど、やっぱりありがたいですね」

――ヨーロッパで長いキャリアを過ごしたことが、失敗を恐れずにチャレンジすることに影響を与えましたか?

「フランスへ行ったことは、僕のキャリアにとってもっとも大きな分岐点だったと思います。4-4-2の左や右でプレーし、目の前の相手を1対1で抜かないと、自分の価値が無くなっていく。そういう環境で戦ったことは、大きなプレッシャーを背負い、難しさもありましたけど、その勝負で勝って、アシストや得点することで、自分の評価を上げられる。そういう勝負は厳しいけれど、同時にとても楽しかったですね」

――武器をさらに磨くことができたんですね。

「あと、フットサルをやったことも大きいです。フットサルは狭いコートで、少ない人数で戦わなくちゃいけないので、戦術もサッカーとは違います。1対1の攻防の場面も多い。そういうフットサルでのボールタッチ、ボールキープを経験したからこそ、今の僕の思考、ドリブルのロジックも整理できたと感じています。

始めたときは、もっと軽く考えていたんですよ。フットサルはとても深かった。サッカーと通じる面もありますが、別競技だと感じました。35歳で引退すれば、もっと良い指導ができたかもしれない。でも、フットサルをやって本当によかった」

感覚的だったドリブルを、論理的に整理して、言語化

――横浜FCでは小学生のスクールでコーチをされていると。

「はい。週1でドリブルに特化したメニューを教えています。小学1、2年のグループと3年から6年のグループで、各グループ20名くらいを教えています。ドリブルって感覚的なものとロジックで説明できる部分があるので、その両方を伝えたいと」

――ドリブラーは天性の感覚というイメージが強いですが、論理的に説明できる部分があるのですか。

「そうですね。身体の使い方やボールの置き方などをどうするかで、結果が変わる部分があります。相手と対峙したときにこういう角度なら、よーいドンで走り出したときに勝てるとか、こんなふうにボールを持っていけば、こういう感じで相手を抜けるというふうに、ロジックを伝え、それを頭で理解してもらう。そうすれば、あとは感覚で動けるようになるので」

――ご自身のなかで、感覚的に動いてきたものを、論理的に組み立てて、伝えるという作業のように思いますが、そういうものは現役時代に言語化していたのでしょうか?

「38歳で指導者ライセンスの講習を受けたときに、言語化、言葉のチョイスが大事だと感じました。僕自身、感覚的な選手だったと思います。実際に『言葉で伝えるのは難しい』と思っていました。でも、それを論理的に整理し、言語化すれば、ほかの人にはない僕らしい指導ができると思ったんです。僕はプレーヤーとしては不真面目だったけれど、だからこそ、今、真剣に勉強し、真面目にやっていこうと」

――松井さんが子どものころ、ドリブルを教えてくれる人はいましたか?

「いませんでしたね(笑)。当時はボールタッチを増やして突破するドリブル、アクロバティックなドリブルもありましたけど、今はそういうことをしているとすぐにボールを獲られてしまう。だからこそ、ボディフェイントやキックフェイントなどの細かなフェイントや相手の逆をとる動きなど、小さなことを繰り返しトレーニングして、身体に植え付けたいと思っています。年齢を重ねると個性や癖がついてしまうので、子どものころに身につけることが大事だと思っています」

――だからこそ、子どもを教えたいと思ったのですか?

「幼少期、若年層の育成が一番大事だと考えています。今後、トップチームを指導するようになるかもしれませんが、今は子どもたちを見ていきたい。日本が強くならないと面白くないじゃないですか? そのためにも子どもの力を上げなくちゃいけない。日本サッカーのために底上げをしたいんです」

松井大輔/Daisuke Matsui
1981年京都府生まれ。2000年、鹿児島実業高校より京都パープルサンガへ加入。2004年アテネ五輪に出場し、同年秋、フランス2部リーグ、ル・マンUCへ移籍。以降、古豪ASサンテティエンヌ、グルノーブルと渡る。2010年W杯南アフリカ大会出場。ロシア・プレミアリーグのFCトム・トムスクへ半年間のレンタル移籍後、2011年フランスリーグのデジョンに在籍。ブルガリアPFCスラヴィア・ソフィア、ポーランド1部のレヒア・グダニスクを経て、2014年ジュビロ磐田へ加入。2017年ポーランド2部のオードラ・オポーレで再度の海外挑戦。半年後の2018年横浜FCに加入。2020年冬にはベトナムリーグサイゴンFCへ。2021年9月10日、Y.S.C.C.横浜フットサルと契約し、翌1月にはJ3のY.S.C.C.横浜への加入。サッカーとフットサルの二刀流に挑戦。2024年2月現役引退を発表。横浜FCサッカースクールコーチと、浦和レッドダイヤモンズのアカデミーのロールモデルコーチを務めている。

――横浜FCと浦和レッズというふたつのJクラブで指導をするというのは、特殊なことだと思いますが?

「クラブによって、そのスタイルに染まっていくことが必要な面もあるかもしれないけれど、選手は監督や指導者によって、大きく変わるんですよ。だからこそいろんな指導者の指導を受けるほうが良いと思うんです。今、僕はチームを見るのではなく、選手個々を見ていきたいと考えています。だからクラブの垣根を超えて指導したいと思っていたところで、お話を頂き、両クラブにも了承頂いたというわけです」

――レッズではどのような指導をされているのですか?

「主に『切り取り』という指導ですね。サイドの選手を集めて、ドリブルのトレーニングを行ったりしています。アメフトと同じで、サッカーでも、自主トレを見るコーチがいたり、プレーに特化した部分コーチというシステムが始まっています。この選手に足りないものは何で、どういうトレーニングが必要かを分析しながら、練習方法を提示する。今まではチーム全体を見るコーチが主流でしたが、僕は個人にフォーカスするコーチとしての道を切り拓いていきたい。自分の道は自分にしか歩めないので。いろんな人がやってきたことじゃなくて、自分にしかできないことをやっていきたい」

――いわゆる個人戦術ですね。

「チームの戦術は監督が考える。でも、選手個々の能力をあげるうえで、個人戦術、個人に着目した指導者は居なかったので、自分ができるのは個人戦術だと思ったんです」

※3回目に続く

TEXT=寺野典子

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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