PERSON

2025.11.27

玉田圭司はなぜ、指導者の道を選んだのか

2021年に現役引退した、元日本代表ストライカー・玉田圭司。2025年から古巣名古屋グランパスのコーチに就任。指導者の道を歩み始めた玉田の思考を探るインタビュー企画。第1回は監督と選手の信頼関係について。

玉田圭司はなぜ、指導者の道を選んだのか
玉田圭司/Keiji Tamada
1980年4月11日千葉県生まれ。習志野高校卒業後、柏レイソルに入団。2004年日本代表入り。2006年名古屋グランパスへ移籍し、同年ドイツ、2010年南アフリカとワールドカップ2大会連続出場。2015年からセレッソ大阪でプレーし、2017年名古屋へ復帰。2019年V・ファーレン長崎に移り、2021年現役引退。2024年春、埼玉県の昌平高校サッカー部の監督に就任し、夏のインターハイで同校を優勝へ導く。2025年、名古屋グランパスのコーチに就任。

サッカー観が熟成し、指導者の道へ

――早速ですが、指導者になりたいという想いはいつからありましたか?
「若い頃からずっと持っていたというわけではなくて、年齢を重ねるごとにその気持ちが強くなっていったという感じです。引退の数年前には、『絶対に指導者になるんだ』という気持ちで、決意が固まっていました」

――決意するきっかけは?
「なにか具体的な出会いとか、出来事があったというわけではないんです。選手として指導者を見る中で『こういう言葉の伝え方があるのか?』とか、『自分だったら、こうするのにな』という気づきが芽生えてきました。そういうことが重なって、指導者としての自分像が作られていきました。実際にチームを指揮するには、『自分らしさ』が絶対に大事。軸がなく、誰かのコピーではよくない。30歳を過ぎたあたりから、自分のなかでサッカー観が固まってきました」

――30代半ばからは、セレッソ大阪、名古屋、Vファーレン長崎と移籍をしました。
「移籍ってネガティブに考える人がいるかもしれないけど。僕にとっては新しいチャレンジとして視野も広がったし、とても良かったと思っています。2013、14年というのは、自分のなかで気持ちよくサッカーができていなかった。そんなときに当時J2だったセレッソ大阪からオファーをいただいた。行ってみたら、扇原貴宏や山口蛍をはじめ、若くていい選手がたくさんいて、こんなメンバーとサッカーができるのはすごく楽しかった。自分がもう少し若ければ良かったのにと思いました(笑)」

――アドバイスした若手の変化に、指導者的満足感が芽生えるベテランが多いと聞きます。
「確かにそういうこともあったから、セレッソでの経験はキャリアの分岐点になりました。その後長崎へ行く決断をしたのも、セレッソでの経験があったからだし、長崎で指導者的な意識をさらに感じていきました」

すべての選手を幸せにするのは難しい

――2010年にリーグ優勝を飾ったときの名古屋グランパスには、ストイコビッチ監督への思いが選手から溢れていたと感じています。
「ストイコビッチ監督は本当に『真面目』な監督で、選手一人ひとりの個性を活かそうとしていました。現役時代にあれほどのテクニックを持つ選手だったのだから、僕ら選手に対して、物足りなさとか『なんでできないんだ?』みたいな気持ちもあったかもしれないけれど……。

ピクシーのもとでプレーするなかで、選手として好きだったというのを超えて、彼の人間性に惹かれていきました。とても魅力的で、『この人に認められたい』という気持ちがすごく強くなった。ピクシーのそういう部分、選手にそう思わせる存在になるというのも、僕のひとつの目標です。

どうすれば、そういうリーダーになれるのか、それは立ち居振る舞いなのか、言葉なのかわからないし、ピクシーも選手にそう思わせるために何かをしていたかはわからない。彼のナチュラルな人間性なんだとも思います。僕もそういう指揮官になりたい。ピクシーが生み出していた空気を意識していきたいなと思っています」

――信頼関係なんでしょうか。
「そうですね。信頼はとても重要です。でも、優しくすることだけで、信頼が生まれるわけではない。信頼を築くには、言葉や行動がとても大事になってきますし、時間も必要」

――指導者には言語化力が求められるけれど、同時に見る力も必要。公平性も大事なのでしょうか。
「そうですね。でも、それは本当に難しいです。指導者も人間だし、サッカー観もそれぞれだから、選手に対して好き嫌いという感情が芽生えてもしょうがない。そういうなかでも、先入観を持たないとか、ピッチ上での結果を見るとか、判断基準を明確にすることが重要です。ただ、指導者として、すべての選手を幸せにするのは難しいかもしれない」

――試合に出られない選手が幸せにはなれないというのは、当然の話ですからね。さまざまな人間がいるなかで、組織を回していためには、リーダーが掲げるはっきりとした基準があり、それがブレないということが、公平や平等へ繋がるのかもしれません。
「そうですね。監督が要求したことに対して、どう応えてくれるのか、タスクへ対しての取り組む姿勢が、選手への信頼感を高めてくれる。それは、僕自身現役時代に感じたことですね」

――選手時代に見ていたリーダーの姿は参考になりますね。
「サッカー観は人それぞれあります。だからこそ、トップに立つ人間は、しっかりとした哲学を持ち、それをチームに落とし込んで、選手に要求する。選手は要求に応えつつ、自分の個性を活かしながら、指導者の描くビジョンに寄せていくというのがチーム作りで重要なこと。だからこそ、リーダーがブレてしまうと、チームも崩れていくと思います」

※2回目に続く

TEXT=寺野典子

PHOTOGRAPH=名古屋グランパスエイト

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