2023年シーズンを最後に現役引退した元サッカー日本代表のFW李忠成は、シンガポールに拠点を置き個人投資家として生計を立てている。現役時代から整骨院を経営するなどビジネスを展開。投資の勉強もサッカー選手のキャリアの終盤から始めていた。
サッカー選手のセカンドキャリアの可能性を広げたい
自宅は世界最大級の屋上プールで有名な高級リゾート、マリーナベイ・サンズから徒歩圏。現役引退後の李忠成はシンガポールに生活拠点を置き、投資家として研鑽（けんさん）を積み生計を立てている。
「サッカー選手には寿命があるけど、投資家に寿命はない。ウォーレン・バフェットもチャーリー・マンガー（2023年に死去）も、死ぬまで現役。自分から退場しない限り投資家は続けられるので、すごく憧れがありますね」
2012年にイングランドのサウサンプトンに所属したのを機にビジネスに関心を持ち、浦和レッズでプレーした2014年に都内で整骨院を開業。投資にはキャリア終盤に興味を持ち、証券アナリスト試験の参考書を読みあさるなど勉強に励んだ。
今は現役時代に蓄えた資産を運用し、主に日本株に投資している。
「メインは日本株で、上場企業をファンダメンタル分析（企業の財務などの基礎的な指標を用いて株価や為替の将来の値動きを予想する手法）して投資するスタイルです。世界を見ればマイケル・ジョーダンら元アスリートが金融界で活躍した例はあるけど、日本のサッカー選手はまだ誰も成していない。日本でプロサッカーが始まって32年。日本サッカーのセカンドキャリアの可能性を広げたいと思っています」
ピッチ内外で本田圭佑とも交流
スタートアップ企業に特化した新ファンドを設立した元日本代表MFの本田圭佑と連絡を取ることも多いという。1学年下の本田とは北京五輪アジア予選を戦った2007年以来の間柄だ。
李が決勝戦のオーストラリア戦で決勝ボレーを決めて優勝した2011年アジア杯カタール大会も一緒に戦った。
現在は本田もシンガポールに活動拠点を持っており、ピッチを離れてからも再び投資家という同じフィールドに立っているのは、何かの縁。李にとっては選手時代と同様に尊敬し、刺激を受ける存在だ。
「投資はとりあえず2年スパンで考えています。僕が今まで身を置いていたFWの世界は数字が選手の価値を決める。金融の世界も数字がすべてなので、時間があれば上場企業の決算短信や有価証券報告を見てアルファ（マーケットが気づいていない価値）を探しています。投資家として大きくなりたいですね」
李はアルビレックス新潟シンガポールでプレーした2023年シーズンを最後にスパイクを脱いだ。引退後もシンガポールに生活拠点を置くことを決めたのは、めざましい経済発展を遂げる東南アジアにポテンシャルを感じたからだ。
20年に及ぶ現役生活で培った人脈を生かして、日本と東南アジアのサッカーの橋渡しにも従事。アジア各国の選手のスカウティングに加え、シンガポール、タイ、マレーシアのクラブに所属する日本人選手のマネジメントも手がけている。
「海外でプレーする時に東南アジアは格が落ちるイメージがあるけど、オーストラリアなどと比べるとサラリーを含めた待遇は東南アジアの方が断然いい。競技レベルも急速に上がっているので、日本と東南アジアのサッカーをつなぎたい思いは強いですね」
整骨院経営に東南アジア関連のサッカービジネス、そして本業の投資。サッカー解説など日本での仕事もあり、シンガポールと日本を行き来する多忙な日々を送る。3ヵ国8クラブでプレーした20年のプロ生活は終わったが、そのバイタリティーは少しも衰えていない。
Tadanari Ri ／李忠成
1985年12月19日東京都生まれ。在日韓国人4世で、2007年2月に日本国籍を取得した。FC東京の下部組織出身で2004年にトップチーム昇格。柏レイソル、サンフレッチェ広島を経て2012年1月にイングランド2部のサウサンプトンFCへ移籍。2013年にFC東京に期限付き移籍し、2014年浦和レッズに完全移籍。横浜マリノス、京都サンガを経て2022年にアルビレックス新潟シンガポール入り。U-23日本代表として、2008年北京五輪にも出場出場した。国際Ａマッチ11試合2得点。趣味はゴルフ。利き足は左。身長1ｍ82cm。
