PERSON

2025.03.06

サッカー元日本代表・李忠成が、現役時代から整骨院経営を始めた理由とは

2023年シーズンを最後に引退した元日本代表FWの李忠成は、セカンドキャリアの生活拠点をシンガポールに置く。20年のプロ生活ではイングランドのサウサンプトンFC、浦和レッズ、アルビレックス新潟シンガポールなど3ヵ国8クラブでプレー。現在はサッカー界の発展に尽力する活動をしながら、整骨院経営や投資家としても活躍する李だが、ビジネスに興味を持ったきっかけは何だったのだろうか。

イングランドにいた時にセカンドキャリアを意識するようになった

初の海外移籍が人生の転機となった。

2012年1月、当時26歳の李忠成はサンフレッチェ広島からイングランドで2部に相当するチャンピオンシップに所属していた、サウサンプトンに加入した。

日本でもイングランドでも、1日のチーム練習は2時間程度。自主トレや身体のケアなどを含めても自由に使える時間は多い。

過去に所属したJリーグのクラブでは、自由時間をテレビゲームやパチンコなどに時間を割く選手が多かったが、サウサンプトンでは大半の選手が不動産投資などのビジネスに関わっていたという。

チームメイトとの食事会でも、経営者としての話題が中心。李も自然とピッチ外での事業展開に興味を持つようになった。

「空いた時間をどう使うかは選手次第。プレミアの選手たちに刺激を受けて、経営の勉強をしようと思いました」

ロンドンの南西約110kmに位置するサウサンプトンは、沈没した豪華客船タイタニック号の母港として知られる港町。当時はプレミアリーグ昇格争いを繰り広げていたチームで、李は公式戦5試合目の出場で初得点を記録。2012 年3月末にケガを負い長期離脱するまで高いパフォーマンスを発揮し、プレミアリーグ昇格に貢献した。

サッカーの母国でもプレーが通用する手応えをつかんだ一方で、資産形成やセカンドキャリアに対する意識に関しては日本とイングランドの差を痛感。現役を続けながら始められるビジネスを模索するようになった。

翌2012~2013年シーズン。1部のプレミアリーグに昇格したサウサンプトンで、李はケガで出遅れたことや監督交代の影響で出場機会を失う。

サッカーと経営者の二刀流を貫く

“放出要員”となってチーム練習にも参加させてもらえない状況が続き、2013年2月にFC東京に移籍してJリーグ復帰。2014年には浦和レッズに活躍の舞台を求めた。

浦和レッズに移籍したタイミングで、満を持して都内で整骨院を開業。それはサウサンプトン時代からあたためていた計画で、自腹を切って高校時代の同級生を最先端のレーザー治療を施す治療院に送り込み、1年間修行してもらうなど、入念に準備を進めてきたうえでのチャレンジだった。

「サウサンプトンの時に(チームメイトの吉田)麻也が日本から呼んだパーソナルトレーナーのレーザー治療を自分も受けさせてもらいました。それがすごくよかったので、そのトレーナーのもとで高校の同級生に1年間、修行してもらったんです」

整骨院開業当初には、浦和レッズの強化幹部とペトロヴィッチ監督に呼び出され「選手なんだからピッチ上のことに集中しなさい」と注意された。

それでも「すべてはプレーで判断してほしい」と突っぱねて経営を続行。事業開始によりピッチ上でも結果を出さないといけないという良い意味での緊張感、プレッシャーが増し、選手としてもプラスに働いたという。

サッカーとの“二刀流”は順調で、2店舗目も出店。コロナ禍で再び1店舗に縮小したものの、2025年で開業から11年目を迎え、現在も7人のスタッフを抱えている。

「サッカー選手の価値をビジネスで形にしたいと考えた結果、自分の強みは運動の仕方やケア、栄養の部分だという結論にいたりました。ケアの部分を生かしたのが整骨院の経営。コロナもあったけど、経営は安定しています」

また、当時のJリーグでは現役中に経営者となる選手はほとんどおらず、新たな道を切り拓きたい思いもあった。その影響もあったか、浦和レッズでは李の整骨院経営を機に、他の選手もビジネスに興味を持ち始めた。

興梠(こうろき)慎三が地元宮崎で家族が経営していたローストチキン店を関東に出店し、槙野智章は整髪料をプロデュース。仲間たちの活動の幅を広げた意味でも、李がチームに果たした役割は大きい。

Tadanari Ri /李忠成
1985年12月19日東京都生まれ。在日韓国人4世で、2007年2月に日本国籍を取得した。FC東京の下部組織出身で2004年にトップチーム昇格。柏レイソル、サンフレッチェ広島を経て2012年1月にイングランド2部のサウサンプトンFCへ移籍。2013年にFC東京に期限付き移籍し、2014年浦和レッズに完全移籍。横浜マリノス、京都サンガを経て2022年にアルビレックス新潟シンガポール入り。U-23日本代表として、2008年北京五輪にも出場出場した。国際Aマッチ11試合2得点。趣味はゴルフ。利き足は左。身長1m82cm。

TEXT=木本新也

PHOTOGRAPH=アフロ

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