放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。
「難しい仕事や案件を任されると目を背けてしまいます。そんな自分を変えていくにはどうすればいいのでしょうか?」という御相談をいただきました。
「難しい仕事」は、やり遂げると信頼獲得やチャンスにつながるけど、しくじると低評価やレッテルにもなるのでフリーズしがち。
難題に向き合う本人の心のマネジメントも、そんな仕事を部下に任せるリーダーのコーチングも一筋縄ではいかないものですよね。
そこで今回は、これまで約1万人の芸人の卵たちを賞レースやテレビなどの大舞台へと送り出してきた僕が、「難しい仕事と向き合う心のツボ」を、ゆっくりほぐしていきたいと思います。
「難しい」に対して「難しく」向き合っていませんか?
まず、難しい仕事から目を背けてしまう人は、やる気がない人でも弱い人でもなく「丁寧な人」です。
きちんとやろうとするタイプなので、きちんと手ごわい仕事に費やす時間と労力の大きさを見積もってしまい、及び腰になってしまうんですね。
しかし、そんな「きちんとタイプ」は、ある傾向にハマりがち。それは“「難しい」に対して「難しく」向き合ってしまう”パターンです。
例えば、芸人の卵にとって「新ネタづくり」は難しい仕事なので、なかなか取りかかれない、行動に移せない生徒が一定数います。
が、そんな生徒ほど、まじめに授業のメモを取り、先輩のネタをYouTubeで見漁り、あらゆる笑いの知識を詰め込んでいたりします。そう、きちんとやりたいという想いから頭でっかちになっているんですね。
そんなとき僕は、彼らにこんなふうに伝えます。
「バイト先でマニュアルを渡されたとき、ペライチだと行動しやすいけど、30ページだと思考停止しない? 知識を増やすことはいいことだけど、やたらマニュアルを分厚く、難しくすると、最適解が見つけにくくなるよ」と。
15年間、育成の現場に身を置いて分かってきたのは、「丁寧な人ほど、難しい仕事を前にすると、自らマニュアルを分厚くしてしまい、その中にあるはずの最適解を見つけることができず、やがて自分に失望していく」といった“「難しい仕事」×「難しくとらえる」の相性の悪さ”なんです。
では、どのように思考して、向き合えばよいのか? 次のステップに進みましょう。
「難しい仕事」は「気難しい人」に変換して考えましょう
困難な仕事や案件にフリーズしている生徒に、僕はこんな言葉を投げかけています。
「難しい仕事は“気難しい人”に変換して考えてみると、向き合いかたが分かってくるよ」と。
もし、あなたの前に「気難しい人」が現れ、イライラしていたり、傲慢にふるまってきたらどうしますか?
きっと賢いあなたは「こっちも気難しい態度だと険悪になるだけ。やわらかい物腰でいこう」と、スッと身を引きますよね?
この“ハードな相手に対してマイルドに対処する能力”こそ、難しい仕事に対する相性のいい態度なんです。
泣いてる友人に「泣くな!」と言ってもダメですし、酔っている同僚に「酔うな!」と言ってもダメですよね?
対応に苦慮する案件はゴールへの道筋も複雑なので、それ以上は複雑にしないで「マイルド」や「シンプル」といった柔和な対処を心がけることがベターです。
難しい仕事に取りかかるときは、それなりの恐怖を感じるものですが、シンプルに“恐怖は逃げると倍になるけど、立ち向かえば半分くらいになるよな”と思考し、いま持っている能力の手札でコツコツやり始めてみる。
もちろん、手が止まっても、そもそも難しい仕事なんだから当たり前。あなたの才能の問題ではない。
そう、案件がハードなぶん、自分に対してはソフトに、やさしくしていくことも大切なんです。
部下に難しい仕事をやらせるリーダーは、今日のポイントの「逆」を心がけましょう。
発注時に「オレの時代はこうだった」「だけどオレは○○をして乗り越えた」など“余計な言葉でマニュアルを厚くしない”こと。
ただでさえ難しい仕事なので“発注者まで「気難しい人」にならないように気をつける”ことがポイントです。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。