PERSON

2024.12.12

プロ8年目で開花。楽天・藤平尚真投手、苦しい時期を乗り越え再起する原点とは

プロ8年目の2024年シーズンから中継ぎに転向し、47登板で20ホールド、防御率1.75の大活躍。プレミア12で快投を見せた、楽天・藤平尚真がスターとなる前夜に迫った。

2015年夏の甲子園、神奈川大会準決勝で登板する藤平尚真。
2015年夏の甲子園、神奈川大会準決勝で登板する藤平尚真。

プロ8年目での飛躍、プレミア12でも6試合無失点

惜しくも決勝戦で台湾に敗れ準優勝に終わったプレミア12。

ケガのため出場辞退の選手が相次ぐ苦しいチーム編成のなかで、決勝戦以外はすべて勝利をおさめており、若手選手の底上げという意味では成果を感じる大会だった。

そんな状況で、投手で最も強烈なインパクトを残したのが藤平尚真(楽天)だ。

2023年までは先発としてなかなか結果を残せずにいたが、プロ8年目となる2024年シーズンは中継ぎに転向すると、47試合に登板して20ホールド、防御率1.75をマーク。プレミア12でもリリーフの中心として6試合、6回を投げて無失点、12奪三振という圧巻の成績を残した。

名門でエースナンバーを背負うも苦しんだ高校時代

そんな藤平は中学時代には初代U15侍ジャパンのメンバーに選ばれており、横浜高校でも入学当初から大器と評判の選手だった。しかし、プロ入りまでの道のりは決して順風満帆だったわけではない。

1年秋には背番号1を背負ったものの、神奈川県大会では3回戦で慶応高校に打ち込まれてコールド負け。2年春はケガで登板できず、2年夏の神奈川大会決勝でも東海大相模を相手に0対9と大敗を喫している。

ちなみにこの試合は長く横浜高校で指揮を執った渡辺元智監督のラストゲームであり、相手の東海大相模はその後、夏の甲子園でも優勝を果たしている。

2年秋にはようやく神奈川県大会で優勝を果たし、関東大会に進出したが、ここでも藤平はつまずくこととなる。

初戦で対戦した常総学院を相手に4回までは無失点と好投を見せたものの、5回に相手の3番バッターの宮里豊汰(現・茨城トヨペット)に完璧な逆転ツーランホームランをレフトスタンドに叩き込まれ、チームもそのまま敗戦となったのだ。

当時のノートには以下のようなメモが残っている。

「上背があり、手足が長く、いかにも投手らしいが、雰囲気ほどボールになかなかすごみが出てこない。軸足の右膝が折れるのが早く、下半身の粘り強さも不十分で、しっかり支え切れていないため、ボールに力が伝わっていないように見える。

時折、指にかかったボールは勢いがあるが、現時点では変化球のほうが目立つ。100キロ台のカーブと120キロ台のスライダー、110キロ台のチェンジアップと120キロ台のフォークのコンビネーションで三振奪う。

少しフォームに変化をつけるなど、考えて投げているように見えるのも長所。ただ力勝負できるだけに球威がないのが残念」

ちなみにこの日の最速は141キロという記録が残っており、宮里に浴びた逆転ツーランもストレートをとらえられたものだった。

高校3年でようやく才能が開花

ようやくその才能が開花し始めたのは最終学年になってからだ。

印象に残っているのは3年春の県大会、東海大相模戦でのピッチングである。

4回に味方のエラーをきっかけに2点を失い、8回には3番打者の山田啓太(現・JFE東日本)にツーランを浴びたものの、7回1/3を投げて自責点2と好投。チームも延長の末にライバルを下した。

この時のノートには秋からの成長が感じられたことが記されている。

「上半身も下半身も全体的に体つきが一回り大きくなり、フォームの安定感もアップした。秋とは腕の振りもボールの勢いも格段に向上している。

ほとんど外角というのは気になるが、ストレートはコンスタントに140キロを超え、手元での勢いも申し分ない。縦、横2種類のスライダーも腕を振って投げられており、特に横に変化するボールは右打者が腰を引くほど。

(中略)

軸足の膝が折れるのが早いのはどうしても気になり、中盤にスピードが落ちるスタミナは課題。それでも冬から春にかけての成長は十分」

続く3年夏にはようやく自身初となる甲子園にも出場。初戦の東北高校戦では立ち上がりからいきなり5者連続三振を奪い、6回2/3を投げて13奪三振、1失点という快投を見せている。

この頃にはドラフト1位候補という評価は万全のものとなっていた。ちなみにこの年は他にも今井達也(作新学院→西武)、寺島成輝(履正社→ヤクルト)など高校生投手に好素材が多かったが、楽天の球団関係者からは星野仙一シニアアドバイザー(当時)から「200勝できる可能性がある投手」というオーダーで藤平を選んだという。

冒頭でも触れたように、プロでもなかなか結果を残すことができなかったが、高校時代に苦しんだ経験が活かされているのではないだろうか。

2024年シーズンとプレミア12で見せたピッチングは間違いなくプロでもトップクラスのものだっただけに、2025年以降もさらなる進化を遂げてチームを牽引する活躍を見せてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=アフロ

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