2024年最多安打のタイトルを獲得し、刺殺数でも日本記録を樹立した、楽天・辰己涼介がスターとなる前夜に迫った。
全143試合出場、パ・リーグの最多安打タイトル獲得
今江敏晃新監督を迎えたものの、優勝争いに絡むことができず4位に沈んだ楽天。これで3年連続のBクラスとなり、なかなか浮上のきっかけをつかめずにいるが、そんなチームにあって奮闘を見せているのが辰己涼介だ。
プロ入り6年目の2024年シーズンは初めて全143試合に出場し、158安打を放ってパ・リーグの最多安打のタイトルを獲得。
さらに守備でもシーズン歴代最多となる397刺殺を記録するなど見事な活躍を見せた。名実ともにパ・リーグを代表するセンターとなったと言えるだろう。
注目選手として認識したのは大学1年秋
そんな辰己は兵庫県立社高校の出身で近本光司(現・阪神)の2年後輩にあたる。
当時は全国的には無名の存在だったが、立命館大進学後は運動能力の高さが買われて1年春から外野手のレギュラーに定着した。初めて現場でプレーを見たのは2015年5月7日に行われた関西学院大との試合だ。
1年生ながら1番、ライトで出場。しかしこの日は3打数ノーヒットに終わり、当時のノートにも詳細なメモは残っていない。プロフィールの数字を見ても178cm、68kgとまだまだ体も細かったことがよくわかる。
注目選手として認識したのは1年秋のリーグ戦、対関西大戦だ。この試合で辰己は5番、ライトで出場。6回の第3打席には右中間へのタイムリーツーベースを放ち、チームの勝利に貢献している。
当時のノートには以下のようなメモが残っている。
「まだ体つきは頼りないが、構えた時の姿勢が良く、トップの形が安定している。全身を大きく使ってフルスイングし、背中までバットが振り切れ、迫力は十分。
それでいながらミートの感覚も良く、ヘッドが走り、想像以上に飛距離も出る。詰まったと思った当たりがライトオーバー。しかし、膝元の変化球に対して目線が離れるのが早いのは課題。ライトからの強肩とベースランニングのスピードでも目立つ」
ちなみに打った相手は当時4年生でドラフト候補にも挙げられていた石田光宏(現・東京ガス)で、そんな好投手から結果を残したことも強いインパクトとなった。
関西の大学球界に辰己あり
辰己の名前が全国区となったのは2年春に出場した全日本大学野球選手権でのことだ。
初戦の東日本国際大戦では3番、センターで出場。相手の先発は現在巨人で中継ぎとして活躍している船迫大雅(ふなばさまひろまさ、当時2年)だった。
第1打席でショートへの内野安打を放つと、第3打席にはライトへのツーベースを放って攻略。2番手で登板したサウスポーの有馬昌宏(元・神奈川フューチャードリームス)からもセンター前ヒットを放つなど3安打の活躍を見せたのだ。
チームは続く東海大北海道戦で敗れたものの、辰己は2試合で8打数4安打と見事な成績を残し、大会後には2年生ながら大学日本代表にも選ばれた。
メンバー選考合宿の紅白戦では同学年ですでに名城大のエースだった栗林良吏(現・広島)から右中間へのスリーベースを放ち、日米大学野球選手権でもホームランを放っている。
この頃から関西の大学球界に辰己ありというのは関係者の間での共通認識になったと言えそうだ。
その後もリーグ戦、全国大会、大学日本代表などでプレーを見る機会は多かったが、特に記憶に残っているのが4年春。2018年5月19日に甲子園球場で行われた近畿大との試合だ。
ヒットこそ第1打席の1本のみだったが、続く打者の長打で一気にホームへ生還。その後は2つの四球を選び、7回には再び味方のタイムリーでホームインしたが、いずれもそのベースランニングは迫力十分だった。
また広い甲子園の外野を縦横無尽に走り回り、フライも3度処理。当時のノートにはプレーぶりについてこう書かれている。
「反動をつける動きが小さくなり、しっかり体を残して長くボールを見られるようになった。
少し力んで上半身の力に頼る時もあるが、体の回転の鋭さ、ヘッドスピードともにアップしたように見える。低めの変化球に対してもしっかり見極めて四球選ぶ。
(中略)
センターから見せる返球も勢い十分で、強肩はプロでも上位のレベル。守備範囲も広く、落下点に入るまでのスピードも素晴らしい」
大学生の場合、下級生でブレイクすると上級生ではマークが厳しくなって苦しむケースも多い。しかし辰己は4年春にキャリアハイとなる成績を残してMVPと首位打者にも輝いており、着実にレベルアップしていたことがよくわかる。
プロでも6年続けて100試合以上に出場しており、成績を伸ばしているのも見事という他ない。
2024年オフシーズンに行われているプレミア12の侍ジャパンにも選ばれるなど、周囲からの期待も年々高くなっているが、2025年以降もさらに成績を伸ばしてパ・リーグだけでなく球界を代表する外野手となることを期待したい。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。