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2024.10.03

巨人・吉川尚輝が不動の二塁手になるまで

球界屈指の二塁守備だけでなく、優勝争いが激しさを増すなかで不動の二塁手となった巨人・吉川尚輝がスターとなる前夜に迫った。

巨人・吉川尚輝
中京学院大学時代の巨人・吉川尚輝。

不動の二塁手としてチームをけん引

大混戦を抜け出し、4年ぶりにリーグ優勝を決めた巨人。そんなチームにあって攻守に素晴らしい活躍を見せているのが吉川尚輝だ。

打ってはチームトップの安打数と盗塁数をマークするなど、リードオフマンとして活躍。セカンドの守備でも驚異的な守備範囲の広さでヒット性の当たりを処理しており、自身初となるゴールデン・グラブ賞獲得の可能性も高いと見られる。

厳しい練習についていけず入学辞退

そんな吉川は2016年のドラフト1位で巨人に入団しているが、それまでの野球人生は決して順風満帆だったわけではない。

岐阜県の中京高校では早くからレギュラーとして活躍していたものの甲子園出場はなし。そして大学進学時に大きな挫折を経験した。

その能力の高さを見込まれて亜細亜大に進学する予定だったが、厳しい練習についていくことができず、入学を断念したのだ。何とか地元の中京学院大に進学することができたが、その時点で野球から離れてしまう可能性もあっただろう。

何とか野球を継続したが、中京学院大では1年秋からレギュラーを獲得。ただ地方リーグということもあって、下級生の頃はそこまで名前を聞くことはなかった。

攻守走で一気に評価を上げる

そんな吉川に注目が集まるきっかけとなったのは大学3年の3月に招集された大学日本代表候補合宿だ。

この合宿には柴田竜拓(国学院大、現・DeNA)、山足達也(立命館大、現・オリックス)、大城滉二(立教大、現・オリックス)など後にプロ入りする4年生の内野手が多く参加していたが、そのなかでも吉川は目立つ動きを見せていた。

最終的にこの年の大学日本代表には選出されなかったが、この合宿で吉川の名前は一躍全国区となったと言えるだろう。

大学時代の吉川で強く印象に残っているのが4年春のリーグ戦、2016年5月17日に行われた岐阜経済大(現・岐阜協立大)との試合だ。

まず驚かされたのが視察に訪れたスカウト陣の多さ。その数は12球団で合計47人。平日の開催だったということもあるが、地方の大学リーグにこれだけのスカウトが集結するのはなかなかあるものではない。

その前で吉川は見事なプレーを見せる。相手の先発投手は現在西武でプレーしている與座海人(よざかいと)だったが、第1打席でレフト前ヒットを放つと、第5打席にはダメ押しとなるタイムリーツーベースを左中間へ運ぶなど2安打の活躍。

第3打席にセカンドゴロのエラーで出塁した時には、4.00秒を切れば俊足と言われる一塁到達タイムで3.98秒をマークしている。またショートの守備でもシートノックの時から素早い動きを見せ、実戦でも2つの併殺打を完成させるなど見事なプレーを連発していたのだ。

ちなみにこの日は前日からの雨で試合開始が遅れ、グラウンド状態も良くなかったが、そんなコンディションの悪さをまったく感じさせなかった。

当時のノートには以下のようなメモが残っている。

「ショートの守備は動きが1人だけ違う。グラウンドが悪くてもプレーに落ち着きがあり、それでいながらスピードも十分。フットワークだけでなくハンドリングにも速さがあり、捕球してからあっという間に送球できる。

バッティングは少し引っ張ろうという意識が強いのか、体が開くことが早いスイングもあったがアンダースローに対してもしっかり対応して左方向へもヒット放つ。

(中略)

左中間の当たりも打球が伸び、インパクトの強さも十分。脚力も一級品で、グラウンドが悪いなかでも素晴らしい加速を見せる。ポジションは違うが野間(峻祥、現・広島)と比べてもすべてにおいて遜色ない」

ちなみに引き合いとして名前を出した野間は、同じ岐阜県リーグから2年前のドラフト1位でプロ入りしており、そんな野間と比べても変わらないということは上位指名の可能性も高いということを示している。

吉川はこの後、6月に行われた全日本大学野球選手権でも攻守に圧倒的な存在感を示し、チームを初出場初優勝に導いて見せた。この5月から6月にかけての2ヵ月で一気に評価を上げたことは間違いないだろう。

プロ入り後しばらくは故障に苦しみ、なかなかシーズンを通じての活躍を見せることができなかったが、冒頭でも触れたように2024年は1年を通じて安定したプレーを見せている。

なかなかポジションが固定できないチームにあって、吉川の存在は極めて貴重だったと言えるだろう。2025年以降もチームリーダー的存在として、巨人を牽引する活躍を見せてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=岡沢克郎/アフロ

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