PERSON

2024.03.06

野村克也「助演男優賞を目指せ! 脇役がいてこそ主役が映える」

戦後初の三冠王で、プロ野球4球団で指揮を執り、選手・監督として65年以上もプロ野球の世界で勝負してきた名将・野村克也監督。没後4年を経ても、野村語録に関する書籍は人気を誇る。それは彼の言葉に普遍性があるからだ。改めて野村監督の言葉を振り返り、一考のきっかけとしていただきたい。連載「ノムラの言霊」37回目。

野村克也連載第37回/脇役のなかの主役になれ。

“パズルのピース”になりうるか

野村克也は言った。

「野球は筋書きのないドラマだ。ドラマには主役と脇役がある」

1990年から1998年、野村ヤクルト9年間の“主役”は池山隆寛、古田敦也、広沢克己らクリーンアップを任される主砲であって、“脇役”は飯田哲也、土橋勝征、宮本慎也ら、走塁や守備をメインとする選手であった。

「打順でも守備位置でも役割が全部違う。監督の仕事とは、限られた人材を適材適所で“パズル”のようにあてはめていく作業だ」

「脇役がいてこそ主役が映える。助演男優賞を目指せ。“脇役のなかの主役”になれ。超二流になれ」

名捕手の古田が入団してきたことで、飯田や秦真司は捕手ではなく、その足や打撃を活かして外野手として起用されることになった。

「飯田よ、お前の持ち味が何か考えろ。足と肩だ。自分を犠牲にして、相手から嫌がられる選手になって、チームに貢献しろ」

ただ、野村の手にかかって全員が成功したわけではない。

“パズルのピース”としてうまくはまらない選手もいた。選手自身が「形」を変えていけるかも、成功の要素なのだ。

ID野球とは、「自分で考える野球」のこと  

野村ID野球(import,Important Data=データを重視、活用する野球)を、飯田は「自分で考える野球」と解釈していた。

現役時代に三冠王を獲った野村だが、打ち方の技術を選手に教えることはほとんどなかった。

「ヒットを打つためには、こうやればいいんじゃないのか。あとは自分で考えてやりなさい。それが一番身につくから」

「飯田は、とにかくライナーで野手の間を抜くような打球を打ちなさい」

飯田は考えた末、レベルスイング(バットを地面と並行にスイングする打ち方)にした。また、俗に言う少し太い“スリコギ型バット”を勧められて試してみた。

「弘法筆を選ばずではなく、野球の弘法はバットを選ぶんや」

使い慣れたバットを使うほうがいいと一般的には思われているが、飯田は自分の調子や体調、相手投手によって3本のバットを使い分けていた。

古田敦也は2003年に日本のプロ野球史上5人目の「1試合4本塁打」をマークしているが、実はそのうち2本は飯田のバットを拝借して打ったものだったという。

また、野村監督は失敗に関して全然怒らないが、選手に求める要求は非常に高かった。

「同じサインでも、もう一つ上をいけ。考えろ。答えは自分で出せ」

ある試合の終盤、1点ビハインドの1死一塁で、飯田がセーフティーバントを試みた。

「なぜバントをしたんや」

「2アウトになってもランナーを二塁に送って、あわよくば自分も一塁に生きようとしました」

「違う。ここは逆転狙いじゃないと勝てない。ランナー二塁でヒットが出ても、お前がアウトになっていたら1点しか入らない。お前がヒットでつないでランナーをためるのが、この場面の答えなんだ。そこで結果的に凡打になっても、監督であるオレの責任だ」

2024年シーズンの“脇役のなかの主役”は?  

2024年の球春が訪れた。ペナントレースの開幕は3月29日だ。“脇役のなかの主役”となりそうな選手は誰だろうか。

まずは、阪神の中野拓夢二塁手。昨年初のゴールデングラブ賞受賞、リーグ最多安打、最多犠打で、盗塁王経験者でもある。

阪神・坂本誠志郎捕手やヤクルト・中村悠平捕手は、縁の下の力持ちとして投手陣を引っ張る。

巨人の吉川尚輝、門脇誠の二遊間コンビは、ふたりそろえば“脇役の中の主役”となる可能性が大いにある。

ソフトバンクの牧原大成と周東佑京は、内外野守れるユーティリティ・プレーヤーだ。

代打の一振りにかける広島・松山竜平、ヤクルト・川端慎吾も挙げられる。

日本ハムの加藤貴之はなかなか2ケタ勝利を挙げられないが、「針の穴を通すコントロール」は特筆もの。同じく日本ハム・宮西尚生は、地味ながら通算400ホールド目前だ。

オリックス・宗佑磨の三塁守備は華麗である。

広島の菊池涼介や西武の源田壮亮は脇役ではなく、むしろ守備における主役中の主役だろう。

2024年、彼らの“いぶし銀の演技”に注目したい。

まとめ
野球には9つのポジション、9つの打順があり、それぞれの役割がある。エースや4番でなかろうと、その役割を極めれば、“脇役のなかの主役”になりうるのだ。グラウンドという名の舞台で、それぞれが役割をこなしてこそ、「優勝のパズル」は完成するのである。

著者:中街秀正/Hidemasa Nakamachi
大学院にてスポーツクラブ・マネジメント(スポーツ組織の管理運営、選手のセカンドキャリアなど)を学ぶ。またプロ野球記者として現場取材歴30年。野村克也氏の書籍10冊以上の企画・取材に携わる。

TEXT=中街秀正

PHOTOGRAPH=毎日新聞社/アフロ

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