年末年始はゲストをもてなすためにキッチンに立っていた森田恭通氏。森田氏にとっておもてなしのための料理は、ビジネスにおける自身のプレゼンテーションに似ているとか。料理をつくりながら考えるおもてなしはどうデザインに落としこむかを妄想する思考に近いという。デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である」Vol.43。
経営者はおもてなしが好き
年末年始、我が家は来客ラッシュを迎えました。ありがたいことに毎年人が大勢集まるので、その日はシェフ森田がスーパーに買いだしに行き、とっておきの器を並べ、終日キッチンに立って料理をつくります。
実は食材を揃え、メニューを考え、サーブする順番を考えながら料理をつくるという作業は、僕にとっては、デザイナーの一番の勝負どころでもあるプレゼンテーションに類似しているので、嫌いではないのです。
食材を買いだしする段階でメニューは決めていません。ゲストの顔を思い浮かべ、旬の食材、今日のお薦めはなんだろうとスーパーで眺めながら、献立が決まっていきます。僕なりに頭を使いますが、いつも楽しんでいます。
ありがたいことに冬は毛蟹を送っていただくことも多く、手に刺さる毛や殻の痛さを堪えつつ、美しく盛りつけるのが喜びです。妻のインスタグラムを見た方から「蟹の捌き方が上手」と恥ずかしながら褒めていただくこともしばしばあります。
我が家の食器は器好きの妻が集めたものかふたりで買いに行ったもので、アンティークか現代作家のものがほとんどです。また、仕事の一環で器を集めることもあり、その際に信頼を寄せているのが、「ギャラリー帝」のオーナー、矢部慎太郎さん。銀座の慎太郎ママといったほうがなじみ深いかもしれません。
慎太郎ママが企画する器展はとにかく人気です。全国津々浦々の作家さんとお付き合いがあり、センスが素晴らしく、さらにオーダーしてつくる「慎太郎ごのみ」シリーズの器も僕の好みです。
特にレンゲの形状が秀逸。一般的なものは先が丸く、僕は最後のひとすくいがうまく取れないのですが、「慎太郎ごのみ」のレンゲは先にほんの少し角がついていて、使いやすい。
銀座でクラブのママをされていて、一流のお客様を相手にして養った審美眼によるセレクトなので、最近はよく相談させていただいています。フランフラン創業者の髙島郁夫さんも自ら包丁を握る方で、慎太郎ママの器の愛用者のひとりです。
最近思うのは、経営者にはもてなし上手、もてなし好きな方が多いこと。
髙島さんのようにご本人が料理を振る舞う方もいれば、なじみのシェフを呼んで、一緒に料理を楽しみ、お酒のサーブに徹する方もいらっしゃいます。そのせいか僕の仕事もオープンキッチンを備えたご自宅のリノベーションや別荘のオーダーが増えています。
まもなく完成する中田英寿さんのオフィスもおもてなし要素が満載です。
中田さんといえば、プロデュースした日本酒イベントなどがよく知られていますが、日本の伝統文化に魅せられ、その普及と発展をミッションに活動する中田さんのもとには、全国から日本酒をはじめ、食材や器が集まります。
新オフィスには、それらを収納しながらディスプレイできる部屋をつくっています。食材やお酒のプレゼンテーションをしながら、それらの販路の仲立ちもするようです。
仕事のできる人はサロンで趣味の時間も楽しみ、自分のもとに集まった情報を発信し、新たな情報も集め、事業へとつなげていくのかもしれませんね。
自宅のキッチンに立ちながら、“おもてなし”をどう実際にカタチにするか思いを巡らせる年末年始でした。
森田恭通/Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍する傍ら、2015年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」を主宰。