手土産は、渡した瞬間からひとり歩きしてしまうものだからこそ、慎重に選びたいという森田恭通氏。常日頃からもらうことも渡すことも多い森田氏が考える手土産とは。デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である」Vol.32。【過去の連載記事】
センスと個性が垣間見える手土産
夫婦ともども、仕事柄「いただきもの」「贈り物」が多く、常日頃から「何を贈ろう」と頭を悩ませている森田家です。そのなかでも僕の性格上「相手の方に気軽に受け取ってもらえて、印象に残るものを」と考えているので、手土産には常にアンテナを張り巡らせています。
一番の情報源は我が家にいただいたもの。これ、美味しい。気が利いている。お人柄を感じるよねというものは、忘れずに書き留めておきます。そのなかからお相手の家族構成、お持ち帰りいただく場合は重さや時間、賞味期限などを考えます。
印象に残る手土産といえば、パリで写真の個展を開くたびに大きなチョコレートの箱を抱えて現れる、世界的なショコラティエ、パトリック・ロジェ氏の姿です。1mぐらいの箱の中に宝石のようなチョコレートがびっしり。「みんなで食べて」と渡されると、僕もスタッフも大喜び。あのインパクトのある大きさは彼らしいサプライズです。
また手土産に季節を投影する方も素敵です。例えば、着物仲間であるユナイテッドアローズ創業者の重松理さんが、夏場の食事会で「森ちゃん、これどうぞ」と手渡しでくださったのが風鈴。そのセンスのよさに「粋だな〜」と感動したことを覚えています。やはりこの方には敵いません。
僕自身が選ぶ手土産は、例えばピエール・エルメといえばマカロンですが、僕の場合は海苔やマヨネーズを選ぶので意外性もあるようです。
また「甘」味と「辛」味の2種が詰め合わせてある、よねむらのトリュフクッキーも甘党に限らず、お酒のつまみになるので甘いものが苦手な方にも渡しやすい。
さらに今の季節などはフィレンツェ発のDR.VRANJESのハンドクリーム。赤ワインをモチーフにしたアロマの上品な香りが喜んでいただけるようです。
予想外の驚きを与えるという意味では、静岡の井上玩具煙火の花火「結華(ゆっか)」。バラの香りがついた花火で、花のように飾ることができますし、もちろん美しい花火としても鑑賞できるのでエンタメ性のあるインパクトが好評です。
仕事柄、海外に行くことも多くさまざまな手土産を持参する機会がありますが、今のところ好評を得ているものはカステラなんです。先日パリに出張した時も、現地で一緒に仕事をしているパートナーたちに、抹茶味で上に金箔を貼った、金澤萬久の「金かすてら」を持参したところ、インパクトある見た目も味も喜んでいただけました。
手土産というのは「今日は共に時間を過ごしてくれてありがとうございます」の気持ちを込めて最後に渡すものだから、やはり自分らしい個性を演出したい。ただ、相手と被り、お互いに同じものを贈りあうという気まずい思いをしたこともありましたが(笑)。手土産は渡した瞬間からひとり歩きして送り主を印象づけてしまうものだからこそ、僕にとっては一大イベントです。そのため非常に慎重に選ばせていただいています。
時々、今日の会食は手土産なしにしましょうと事前にアナウンスされることもあります。その気持ちも痛いほどわかりますが、その人の心配りが感じられる手土産は素敵な日本の風習でもあるのではないかと僕は思います。みなさんも大切な人を想いながら、ぜひ手土産選びを楽しんでほしいです。
Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、GLAMOROUS(グラマラス)代表。国内外で活躍する傍ら、2015年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」を主宰。