ART

2020.04.06

デザイナー森田恭通×GMO熊谷正寿「デザインとは、ビジネスの起爆剤として投入するもの」

昨年末に誕生した「渋谷フクラス」。その中にある東急プラザ渋谷の商環境をデザインする大役を担ったのがグラマラスの森田恭通氏だ。デザイナーとして世界中で多数のプロジェクトを同時進行させ、多くの企業のトップと肩を並べてきた氏曰く、「経営者には美的センスが必要」だとか。そんな森田氏のアートと経営の相関関係を探る連載が今月からスタート。第一回目となるゲストは、森田氏をして「アートと経営という美的センスに長けた人」と言わしめたGMOインターネット代表取締役会長兼社長・グループ代表の熊谷正寿氏。対談場所は渋谷フクラスのGMOインターネットグループオフィスにある「シナジーカフェ GMO Yours・フクラス」(以下、Yours)。森田氏が手がけた24時間・365日オープンのカフェだ。

森田恭通さん

東急プラザ渋谷の商環境デザインでつながった二人の才人

熊谷 森田さん、後ろを見てよ。パートナー(社員)がすごく楽しそうにランチをしている。

森田 熊谷さんの思いをうかがい、こういう風景を頭に描いて、デザインしたんです。

熊谷 僕が知人から森田さんを紹介してもらったのは、Yoursの設計がなかなか満足のいくものにできず、やり直しを繰り返していたというタイミングでした。そこで「お願いできませんか?」と。

森田 僕はデザイナーとして東急プラザ渋谷に関わっていたので、渋谷フクラスの工事のスケジュールも把握していました。今からだとデザインに使えるのは2週間、再提案する時間もないなと(笑)。

熊谷 僕ってすごく細かいんです(笑)。でもあれほど図面にOKを出さなかった僕が、森田さんの図面は一回でパス。ここまで経営者の気持ちがわかるデザイナーは、世界中どこを探してもいないと思った。

森田 ありがたい言葉です。デザイナーの仕事は美しいもの、カッコいいものをデザインするだけと誤解されがち。ですが、この案件は、もし僕が熊谷さんなら「自分のスタッフやパートナーにどう感じてもらうか」という考えに集約し、そこから「GMOとしてYoursをどういうビジョンで作るのか」を自分なりにあれこれ模索しました。セルリアンタワーにあるグループ本社に加えて渋谷フクラスにグループ第2本社を持つ意味を考えて、僕が熊谷さんなら絶対にこうしたほうがいいだろうなというものを、ご提案させていただきました。

森田氏は東急プラザ渋谷の商環境デザインを担当。その16階にGMOのエントランスがある。

金曜の0.5次会での様子。Yoursはパートナーが利用できるカフェだけでなく、可動間仕切りでイベントスペースとして放しも開ている。

限られたコストのなかで、工夫に満ちた最善を提案

熊谷 見事でした。世間は森田さんをアーティスト寄りに勘違いされていると思うんです。アーティストは自分が作りたいものを突き詰めるから、経営者から見ると予算は二の次?と思いがち。でも森田さんは真逆。僕の気持ちを完全に理解したうえで経営者目線でデザインした。つまり美しさ、スピード、コストの面ですべて一発OK。限られた予算のなかで工夫に満ちた最善のものを提案してくれた。

森田 Yoursは働く仲間が交流できるコミュニケーションスペース。そんな場所には知的さも必要と思い、構造上必要な柱の存在を隠し空間の印象を和らげるべくライブラリーを作ったり。コストも考えつつ自由にデザインさせていただきました。

熊谷 森田さんは飲食店を多く手がけられていますよね。飲食業態がコストは一番シビアだと僕は思うんです。そこの経営者たちとガンガンやりあっていたことも、今回の図面に生きているのではないかと。

森田 熊谷さんとは10分ぐらいの話だったのですが、前の図面に納得いかない理由が明確でした。デザインとは施工して形にすると長い時間残るもの。残すことに対する責任があります。ただ時代を追うのではなく、予測して作り何年経っても愛されるものが理想。簡単に言えば、GMOのパートナーが「うちのオフィス、こんなところだぞ」とプライドを持てるようなものにしたいと。

熊谷 その言葉はまさに経営者サイドのスタンスです。

森田 働く側の効率面でも、自分が出向かなくても「GMOのYoursが見たいから、こっちが行きます」と先方から言われるものを作ることは、とても大切なことだと思うし。

熊谷 僕らには“スピリットベンチャー宣言”という社是社訓があり、そのなかの一文に「すべてを最高にカッコよく!美しく!気持ちよく!」とあるんです。インターネットの時代は共感の時代。共感される人格、社格になるためのキーワードが“美しい、カッコいい”。それが一番わかりやすいのがスペースやアート、デザインなんです。

森田 心から共感します。経営者は、さまざまなファッション、ホテルや船など、世界の一流を見ているし知っている。スピード感もすごいし、経験値も豊富。だからその美学は話さずともわかる部分があります。そこから先はオートクチュールの首回りを採寸するのと一緒で、経営者もそれぞれ思うことが違う。そこを医者のように、どこがよくて、どこが調子悪いのか、どうしたらよりよくなるのかを考え、よりパワーアップできるビジネスの起爆剤として投入するのがデザインだと思うんです。

熊谷 僕が感心したのは、Yoursのゴミ箱。ゴミ箱ってインテリアを壊しがち。でも、僕はひと言も要望を出さなかったのに、あのスーツケースのようなデザイン。大好評ですよ。

熊谷氏絶賛の動可式ゴミ箱。

森田 熊谷さんなら、ゴミが落ちていると注意するのではなく、きれいなゴミ箱を作れば、みんなが自然とゴミを捨てる。という提案を選んでくれるのではないか?と考えたんです。作った直後だけでなく、何年経ってもきれいでいられる環境を作るのもデザインだと思うんです。

熊谷 そのとおりになりましたね。会社は人が幸せになるための道具です。事業が社会に貢献して多くのお客さんに喜ばれ、それを褒められることで働く側は誇りを持つ仕組み。また、パートナーが笑顔で働くためには食が必要不可欠です。あそこでご飯を食べ、コミュニケーションを増やして、という僕の思いを森田さんが実現してくれた。

森田 YoursがGMOのリクルートにつながるのもいいなと。こんな施設がある会社で働きたいと思う方が今後多く出てくるはず。優秀な人材を集めるためにも、YoursがGMOにあるのは大切だと思いました。

熊谷 金曜の夜はお酒もフリーなんです。0.5次会と称し、ここでコミュニケーションをとってから周りのお店で1次会をしてくださいと。周辺で働くエンジニアやクリエイターなどもの作りの人に集まってもらい、笑顔になってもらう人たちの中心地にしたいですね。

イギリスの現代美術家ジュリアン・オピーの屈指のコレクターである熊谷氏。至るところにオピーの作品が飾られ、ゲストが気軽にアートに接することができる場となっている。

Masatoshi Kumagai
GMOインターネット代表取締役会長 兼 社長 グループ代表。1963年長野県生まれ。東証一部上場企業である、GMOインターネットグループを率いる。上場企業9社を含む、グループ114社、従業員5,995名。ヘリコプターのパイロット免許に続き、飛行機のパイロット免許の取得を目指している。

Yasumichi Morita
デザイナー、GLAMOROUS co., ltd.代表。1967年大阪府生まれ。香港、ニューヨーク、ロンドン、カタール、パリなど海外にも活躍の場を広げ、インテリア、グラフィックやプロダクトデザインにも創作活動を広げている。アーティストとして、2015年からパリで継続して写真展を開催。

TEXT=今井 恵

PHOTOGRAPH=岡村隆広、Nacasa&Partners Inc

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