PERSON

2023.10.19

最多勝、最高勝率。見事に復活した“ハマのペンギン”DeNA・東克樹の知られざる学生時代

ケガから復活し、DeNAのエースへと成長。最多勝、最高勝率のタイトルを獲得した東克樹がスターとなる前夜に迫った。連載「スターたちの夜明け前」とは

大学時代の東克樹
侍ジャパン大学日本代表の練習試合にて。

セ・パ両リーグトップのDeNA・東克樹の制球力

2023年のプロ野球もレギュラーシーズンが終了し、セ・パ両リーグの個人タイトルも確定した。

初めてタイトルを獲得した選手も目立つが、なかでも2022年から大きな飛躍を遂げたのがDeNAのエースへと成長した東克樹だ。

プロ1年目の2018年に11勝をマークして新人王を受賞。しかしその後は怪我もあって4年間でわずか6勝にとどまっていたが、2023年は開幕から順調に勝ち星を重ね、16勝3敗という見事な成績でセ・リーグの最多勝と最高勝率の二冠に輝いたのだ。

東の活躍がなければ、チームの2年連続のクライマックス・シリーズ進出も難しかったことは間違いないだろう。

全国的に名前を知られていなかった愛工大名電時代

そんな東は愛知で屈指の強豪である愛工大名電の出身で、1年夏には早くも公式戦で登板している。

しかし1学年上のエースだった浜田達郎(元・中日)が全国的に名前を知られた存在だったのに比べて、当時の東はプロから注目されるような存在ではなかった。2年時には春夏連続で甲子園にも出場したが、登板機会も与えられていない。3年夏にはようやくエースとして甲子園のマウンドに立ったものの、初戦で聖光学院に敗れている。

当時のノートを見るとこの試合でのストレートの最速は140キロで、東のピッチングについても「上背はないものの、スムーズに上から腕が振れ、ボールの角度は十分。大学、社会人で球威が出てくれば左投手だけに面白い」というメモは残っているが、そこまで強い印象は残っていない。

抜群の制球力を発揮した大学時代

そんな東の評価が大きく変わったのが、立命館大2年の時だ。

2015年3月15日に行われた亜細亜大とのオープン戦。先発のマウンドに上がった東は4回までノーヒットと圧巻のピッチングを見せる。

5回の先頭打者に初ヒットを許してピンチを招いたものの、後続から2つの三振を奪って無失点で切り抜けると、9回に味方のエラーで1点は失ったものの9回を被安打5、6奪三振、自責点0で完投勝利を収めて見せたのだ。

正直言うとこの試合のお目当ては当時立命館大の4年生だった山足達也(現・オリックス)だったが、終わってみれば東の投球が強烈なインパクトとして残った試合だった。当時のノートにも8行にわたって称賛のメモが残っている。

「上背はないが、肘が高く上がり、リリースでしっかり指にかかってボールを抑え込めるのが大きな特長。立ち上がりからカーブ、スライダーなど変化球も完璧に操り、しっかり腕を振ってコーナー、低めに決めることができている。どのボールもコーナーいっぱいに投げ切るコントロールは見事。

(中略)ストレートは140キロ前後だが、左打者の内角へのコントロールが素晴らしく、打者がことごとく差し込まれる。ストレートとカーブのスピード差40キロは強烈。スライダーを右打者の外角に狙って投げられるのも長所。ピンチではストレートもスライダーもスピードアップ。あらゆるボールを散らして的を絞らせない」

ちなみに残っているメモによるとこの日のストレートの最速は142キロと、3年夏に出場した甲子園と比べても大きくアップしているわけではない。それでもこれだけのピッチングができたのはコントロールと変化球がいかに素晴らしかったかがよくわかるだろう。

またこの日の対戦相手だった亜細亜大のメンバーを見てみると、木浪聖也(現・阪神)、藤岡裕大(現・ロッテ)、正随優弥(現・楽天)、宗接唯人(元・ロッテ、現・JFE東日本)、頓宮裕真(現・オリックス)と後にプロ入りする選手が5人も出場しており、そんな打線をほぼ完璧に封じたことで、東への評価は一気に高くなった。

この年の秋には故障でシーズンを棒に振るなど苦しんだ時期もあったが、3年春には3勝、防御率0.65をマークして完全に復活。その後の3シーズンでもエースとして圧倒的な成績を残し、関西の大学球界を代表するサウスポーとなった。

リーグ戦通算41試合に登板して防御率が0点台というのがいかに東が安定した投球を見せていたかがよくわかるだろう。

冒頭でも触れたようにプロ入り後も1年目にいきなり二桁勝利をマークしながら、2年目以降は怪我の影響でなかなか結果を残せなかったものの、2023年の投球は大学の上級生時代を彷彿とさせるものだった。

チームはエースの今永昇太がこのオフにもメジャーへの移籍が噂されており、またT・バウアーも去就が不透明と見られている。それを考えると来年以降は東にかかる期待はさらに大きくなるが、持ち味の抜群の制球力を発揮して、チームを牽引するピッチングを見せてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

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TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=日刊スポーツ/アフロ

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