PERSON

2023.07.13

吉田正尚に続く頼れる男、オリックス・頓宮裕真

パ・リーグでダントツ1位の打率をマークし、ブレイク中の頓宮裕真(オリックス)がスターとなる前夜に迫った。連載「スターたちの夜明け前」とは……

オリックス・頓宮裕真の亜細亜大学時代

リーグ唯一の3割打者

毎年首位打者争いの常連だった吉田正尚(現・レッドソックス)がメジャーに移籍したこともあり、全体的に歴史的な“貧打”となっている2023年のパ・リーグ。

そのなかにあって、現在ダントツ1位の打率をマークしているのがプロ入り5年目の頓宮裕真(オリックス)だ。

過去4年間の一軍での通算打率は.228とパワーはありながらも確実性が課題となっていたが、今シーズンは5月からファーストのレギュラーに定着するとヒットを量産。3割を大きく超える打率を残し、首位打者争いをリードしているのだ。

ちなみに2023年6月29日終了時点で、パ・リーグで打率3割を超えている選手は頓宮以外におらず、2位に5分以上の差をつけていることからも、いかに頓宮の成績がずば抜けているかがよくわかるだろう。

DeNA・東克樹を打ち負かす長打力でも順風満帆ではなかった大学時代

そんな頓宮は岡山の出身で、チームのエースである山本由伸とは実家が隣同士ということでも知られている。岡山理大附では下級生の頃から4番に座り、当時から強打の捕手として県内では名前を知られる存在だった。

残念ながら高校時代は実際にプレーを見る機会はなかったが、そのタイミングは早く訪れることになる。進学した亜細亜大でも入部直後から積極的に起用されたのだ。

初めてプレーを見たのは2015年3月15日に亜細亜大グラウンドで行われた立命館大とのオープン戦だった。6回から捕手として途中出場すると、8回に迎えた打席でいきなりレフトへ特大のファウルを放つと、その後のボールもしっかりとらえてセンター前にヒットを放ったのだ。

ちなみに相手の投手は現在DeNAで先発として活躍している東克樹(2年)で、この日は亜細亜大打線を相手に9回を被安打5、自責点0で1失点完投と抜群のピッチングを見せている。

頓宮の打席はこの1打席だけだったが、その東を相手に見事なバッティングを披露したことで強烈な印象が残った。

当時のノートにも「チームが打ちあぐねる東のスライダーをとらえて大ファウル。力任せではなく楽に強く振れ、良い意味でスイングがコンパクト。大ファウルの後に外から入ってくるボールをセンター前に弾き返す。並みの1年生ではできない打撃」とある。

頓宮は1年春のリーグ戦でいきなり正捕手に定着し、規定打席にも到達しているが、この日のプレーを見ていたため驚きはなかった。

しかしその後の頓宮は決して順風満帆だったわけではない。1年秋は打率0割台と極度の不振に陥り、2年春はわずか5打席でノーヒット、2年秋もヒットわずか2本に終わっている。

亜細亜大は伝統的に機動力と小技を前面に出した攻撃が持ち味のチームということもあってか、下級生の頃はスケールの大きさを見せていた打者が上級生になるとまったくその面影がなくなるというケースもあり、頓宮もそのパターンにはまってしまったと感じていた関係者も多かったはずだ。

ただ頓宮はそんな心配を尻目に、3年春には打率.386、3本塁打の大活躍でベストナインを受賞するなど鮮やかに復活。

4年時には春、秋ともに5本のホームランを放ち、8月に行われた高校日本代表と大学日本代表の壮行試合では4番に座り、市川悠太(現・ヤクルト)からツーランも放っている。

この年、現地で3本の頓宮のホームランを見たが、いずれも打った瞬間にわかる当たりであり、その長打力は間違いなく大学球界でもトップクラスだった。

一方でドラフト2位という順位には『少し高いのでは?』という疑問を感じたことも確かである。

マークの厳しくなった4年秋はホームランこそ多かったものの打率は1割台と低迷しており、捕手としての守備もプロでレギュラーを争うレベルには見えなかったためだ。

また脚力も極めて平凡であり、打撃を生かしてコンバートするにしても守備面で苦労する可能性が高いように感じられた。

2023年の大ブレイク

実際、プロ入り後はポジションがなかなか定まらず、打撃も冒頭で触れたように確実性がなかなか向上しなかったことは事実である。

そんな大学時代とプロ入り後を過ごしてきただけに、2023年の大ブレイクには本当に驚かされたというのが正直な印象だ。

しかし今シーズンの頓宮のバッティングを見ていると、以前のような淡白さがなくなり、あらゆるボールに対応する形ができている印象を受ける。

そして6月に入ってからホームランが一気に増えるなど、確実性が上がっても持ち味の長打力が落ちていないというのも大きな魅力である。

今後もパ・リーグ3連覇、日本一連覇を目指すチームの中心としてその打棒をいかんなく発揮してくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

連載「スターたちの夜明け前」とは……
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

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TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=日刊スポーツ/アフロ

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