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2022.06.16

ノーヒットノーラン達成! DeNA 今永昇太が頭角を現し始めた駒澤大学時代──連載「スターたちの夜明け前」Vol.32

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。【連載 スターたちの夜明け前】

大学時代の今永選手

写真:日刊スポーツ/アフロ

今永を印象づけた入替戦

2022年6月7日、プロ野球でまた大記録が達成された。横浜DeNAベイスターズのエース、今永昇太が史上85人目となるノーヒットノーランを達成したのだ。ベイスターズと言えばこれまでノーヒットノーランをやられる側に回ることが多く、チームの投手としては大洋ホエールズ時代の鬼頭洋以来、実に52年ぶりとなる快挙だった。

そんな今永は福岡県北九州市の出身。福岡県立北筑高校ではエースだったものの、甲子園や九州大会など大きな大会への出場はなく、全国的には無名の存在だった。素質が評価されて駒澤大学へ進学すると、1年の春からいきなりリーグ戦に登板するなど早くから頭角を現し、2年の春にはエースへと成長。3年時には春秋連続で最優秀投手とベストナインに輝き、秋にはチームの優勝に大きく貢献しMVPも受賞している。貴重な左投手で140キロ台後半のスピードをマークすることもあって、この頃から2015年のドラフトの目玉と見られる存在となっていた。

しかし、最終学年で今永は大きく躓くこととなる。4年春のオープン戦では順調に結果を残していたものの、開幕前に左肩を故障。結局春のシーズンは1試合も登板することができなかったのだ。秋にはようやく復帰を果たしたものの、6試合に登板して0勝3敗と結果を残すことができず、チームも最下位に沈んだ。それでもこの年のドラフト会議ではDeNAが1位で今永を指名しているが、3年までの状態だったら複数球団による競合となっていた可能性は高かっただろう。

大学時代の今永が登板する試合を見る機会は多かったが、最も強く印象に残っているのはドラフト指名を受けた後の2015年11月8日に行われた東都大学野球の一部・二部入替戦だ。前述したように今永の故障もあって駒澤大学は最下位に沈み、二部優勝を果たした東洋大と対戦。相手のエースもこの年のドラフトでヤクルトから1位指名を受けた原樹理だった。東都大学野球はこの入替戦が大きな見どころのひとつと言われており、しかもドラフト1位同士の投げ合いということもあって、神宮球場は異様な雰囲気に包まれていたことを今でもよく覚えている。そして試合はその期待どおり2人のハイレベルな投手戦となったが、8回表にスクイズであげた1点を今永が守り抜き、1対0で完封勝利をマークして見せたのだ。

特に見応えがあったのが、1点を先制した後の終盤2イニングのピッチングだ。8回は東洋大の代打攻勢に対して二者連続三振を奪って三者凡退。9回はワンアウトから3番の中川圭太(現オリックス)にこの日初の長打となるツーベースを浴び、続く笹川晃平(現東京ガス)にも四球を与えてピンチを招いたものの、後続を三振、セカンドゴロに打ちとり、しっかりと試合を締めてみせた。立ち上がりから9回まで集中力を切らさずに投げ切っていたが、味方の援護の後に更にギアを上げてピンチにも動じない姿はまさにエースの名にふさわしいものだった。

決して朽ちることのない逆境魂

結局この試合で今永が打たれたヒットはわずかに3本、奪った三振は12個を数え、そのうちの11個が空振りという凄まじい内容だった。春には故障で投げることができず、秋のシーズンも病み上がりで0勝に終わりながらも、ここ一番という重要な試合でこれだけのパフォーマンスを見せられるのはさすがという他ない。今永の状態を確認するために神宮球場に訪れていたDeNAのスカウト陣も満足そうな表情で球場を後にしていた。

今シーズンの今永もキャンプ中に左前腕の肉離れで出遅れていたが、そんな逆境を乗り越える強さを大学時代にも見せていたことを多くの人に知ってもらいたくて今回の試合を紹介した。故障者が多く、下位に沈むチームにとっても今永の大記録達成は大きな希望の光となったはずである。残りのシーズンも不動のエースとしてチームを牽引するようなピッチングを見せてくれることを期待したい。

【連載 スターたちの夜明け前はこちら】

Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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スターたちの夜明け前

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

TEXT=西尾典文

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