PERSON

2023.09.10

僕はもんもんと悩んでいた。。『ぷよぷよ』誕生3日前のお話。

人気を博しているアナログゲーム、「はぁって言うゲーム」を生み出したのは、伝説の落ちゲー「ぷよぷよ」を生み出したクリエーター、米光一成さんだ。天才的発想をし続ける、米光さんの頭の中を知るコラム。ぷよぷよ誕生秘話に学ぶ、企画立案術。

タイムリミットが迫っている

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デッドラインは3日後だ。月曜日には出社しなければならない。きょうは金曜日、そして土日。3日間で、この状況をどうにか打破しなければ。

開発中止になろうとしていた落ちものパズルゲーム「ど~みのす」のプロジェクトをうっかり引き受けてしまった。

スタッフは、行き詰まったプロジェクトにはもう関わりたくないといった様子。まともに稼働できるのは、まったく何も知らない自分だけ。

この状況で、面白くない落ちものパズルゲームをどうにか面白くしなければならない。
どうしようもないじゃないか。
この企画は、後に「ぷよぷよ」という落ちゲーとなって爆発的な大ヒット作品になる。だが、もちろん当時のぼくはそんなことは知らないし、この時点ではそんな予兆も予感もない。

ただただ、困っていた。

米光一成/Kazunari Yonemitsu
1964年広島県生まれ。大学卒業後、コンパイルに入社。現在でも人気の“落ちゲー”「ぷよぷよ」などのタイトルをリリース。その後、フリーランスとして、ゲーム制作ほか、デジタルハリウッド大学教授や、池袋コミュニティカレッジ講師なども。「はぁって言うゲーム」(幻冬舎)のほか、「あいうえバトル」「負けるな一茶」「いっしゅんジェスチャーはぁ?」「言いまちがい人狼」などをリリース。

いまあるものを使う

金曜日の午前中は、もんもんと悩むだけで何もできず。
夕方ぐらいから「とはいっても何か考えなければ」ということで、企画案を考え始める。
グラフィックデザイナーはすでに次のプロジェクトに参加しているので、いまあるグラフィックを使うしかない。

ぼくが遊んだ時点の「ど~みのす」は、2つ組みのサイコロが落ちてきて、それを積み重ね、足して7になったら消えるというゲームだった。

グラフィックスは、サイコロ、フィールド、得点の表示部分、それだけのシンプルなものだ。これを使ってどうにかできるか。

サイコロが2つ組みなのを変えるのはどうか。3つにするとか、4つの組み合わせでいろんな並びで落ちてくるものとか。

いや、落ちゲーだからといって上から下へ落ちてこなくてもいい。横に動いて画面がスクロールするのはどうか。下から上に浮かんでいくのはどうか。

プログラマーも次のプロジェクトに進んでいるので、なるべく大きな変更せずに面白くするべきだ。
ううむ。

逆転の発想

案は次々と出てくる。ちょっとだけひねって、変えてみる。
一列そろったら消えるのではなくて、もこもこっと増えるのはどうか。逆転の発想だ。
もこもこっとサイコロが倍の大きさになって1個のサイコロが4個ぶんの面積を占めるのだ。

サイコロが消えるからいくら落ちてきてもいつまでもゲームが続く。どんどん速くなってゲームがむずかしくなる。どれだけ続けられるか、いつまでもちゃんと消すことができるかというのが落ちゲーのミソだ。

それをやめて、もこもこ増幅してあっという間に画面いっぱいになって1面クリア。いままでの落ちゲーならゲームオーバーの瞬間が面クリアの瞬間になるのだ。数秒の時間制限内に画面をいっぱいにして面クリアしていく。
これは、いいんじゃないか。

名作「グロブダー」

「グロブダー」という作品がある。大ヒットゲーム「ゼビウス」のゲームデザインをした遠藤雅伸さんの画面固定シューティングゲームだ。

自機は、競技用戦車グロブダー(「黒豚」に濁点をつけたというかっこいいネーミング!)。

一画面に敵が配置されていて、自機を操作して敵を撃ち倒す。誘導したり、爆発に巻き込んだりしながら、配置の妙を使って敵を撃滅する。やるかやられるか一瞬の勝負で、テンポよく次々と面クリアするゲームだ。

「グロブダー」みたいなハイテンポの面クリア型落ちものパズルゲームがあってもいいのではないか。

■グロブダー
1984年ナムコからリリースされたシューティングゲーム。ゲームデザインは、遠藤雅伸。大ヒットゲーム「ゼビウス」の敵・グロブダーを自機にしたスピンオフ作品。全99面で、すべての面のフィールドや敵の配置は固定。シールド、エネルギーゲージ、誘導、誘爆などをたくみに使ってどう倒すかを考えてプレイしなければならない。戦略性、難易度どちらも高い。

楽しそうな案ではダメなのだ

というように、さまざまな案をノートに書き出した。
実はゲームデザインをするとき、アイデア出しが一番楽しい時間かもしれない。集中してノートにどんどん書く。

気づいたら、ほぼ朝になっていた。少し眠って、土曜日の昼。
書き出した案を見返す。
たしかに、いまから新たに落ちゲーを作り出す企画案なら、この中のどれかでいけるかもしれない。

だが、いまは状況が違う。問題なのは、ゼロからスタートするわけじゃないということだ。
すべてのスタッフの気持ちは次のプロジェクトに向いていて、行き詰まった落ちゲーのことなど一刻も早く忘れたいと思っている。そんな状況下で何か打つ手はあるのか、ということだ。

タイムリミットまであと1日半しかないのに、みっしりと書き込まれた楽しそうなゲーム案を見て、ぼくの気持ちはみるみる沈んだ。
真夜中に書いたラブレターを正気にもどって読み返しているような気分だった。

問題から目をそらすために

昨日、あんなに集中してゲーム案を次々と出せたのは、壮大な逃避だったのか。大きな問題から目をそらすために「面白そうな企画案」を出すことに集中してしまった。

これじゃダメだ。ちょっとひねった面白い落ちゲーの案を出しても、現状の問題は解決しない。
何か、本質的な問題を解決しなければ、自滅だ。
まずは、何が「本質的な問題」なのか? それを捉えなければ先に進めない。
そこに気づいたときには、もう土曜の夕方だ。
あと1日とちょっと、タイムリミットが迫っていた。(続く)

TEXT=米光一成

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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